第26話
ライブまで2カ月。
初ライブでの、無茶な挑戦が始まった。
シンの無茶な発言から、さらに練習に熱が入った。
シンはもちろん、ほかのメンバーも部活はやっていないし、みんなどちらかといえば悪ぶっている、ヤンキーに近いやつらだ。
今まで熱中できるものなんてなかった。
シンと同じように、なんとなく生きてきたメンバー。
周りからは遊びに見えるかもしれないけれど、そんな彼らがバンドを作り、みんなが部活や勉強を頑張るのと同じように頑張った。
勉強でいい成績を取って、いい学校に行くのも立派な自己表現。
部活でいい成績を取るために頑張るのも、立派な自己表現。
でも、なかにはシンたちのように、勉強はできないし部活にも上手く馴染めないやつらもいる。
そんなやつらでも、何かきっかけがあれば自己表現できる。
周りからは馬鹿にされたり、何やってんだと言われることもある。
でも、シンたちにとって、音楽はやっと見つけた自己表現の手段だった。
落ちこぼれでも、真剣にやれば何かできる。
大人からすれば、ガキの戯言(ざれごと)かもしれない。勉強も部活もろくにできないやつらの逃げ道だと。
実際にシンたちは、学校の先生に何度も「そんな遊びばかりやってるな」と言われていた。
何が正しいのかはわからない。
それでも、当時のシンたちにはこれしかなかった。
真剣だからこそ喧嘩して、上手くいったときは大はしゃぎで抱き合った。
初ライブまであと1カ月。ようやく、ライブのチケットができあがった。
みんなでチケットを見つめ、何度も自分たちのバンド名を確認した。
ライブをやるんだという実感が、メンバー全員に湧いてきた。
ある程度余韻(よいん)に浸(ひた)ったあと、シンはチケットをもってユウのところへ向かった。
「ユウ、ユウ、見てくれ、チケットができたよ」
ユウは、シンの勢いに圧倒されていた。
「いきなりびっくりした」
「すげぇだろ。見てくれよ」
「へぇすごいね。なんかやるんだなぁって実感湧くね」
ユウはチケットを手に取って笑顔で答えた。
「だろ、必ず来てくれよ。じゃあ練習があるから戻るよ」
そう言うと、シンはユウの部屋から立ち去ろうとした。
「もう行っちゃうの? 次はいつ遊べる?」
それは、ユウの何気ない質問だった。
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