第20話

2人は、ユウの家に着いた。


「今日は楽しかったね」


「おう、また行こうな。じゃあね」


「シンのバンド姿、期待してるからね」


「おう」


「うん、気をつけてね」


シンはチャリに乗り、自分の家に向かった。


帰り道、シンはバンドのことを考えながら自転車をこいだ。

歌は好きだけど、音痴だし楽器は何もできないし…もってもいなかった。

家は裕福ではなく、子供ながらに高価なものは買えないと、なんとなくわかっていた。


なら、歌うしかない。

明日学校に行ったら、楽器をもっているやつを探そう。


これまでなんとなく燻(くすぶ)っていたシンに、かすかに目標の光ぐらいは見えた気がした。


自分にも、またのめり込めるものが見つかりそう。

みんなに置いてけぼりをくらっていたシンにとっては、すごく嬉しいことだった。

シンが中学に入り、初めて抱(いだ)いた希望だった。


夜、布団に入っても興奮して眠れなかった。

ユウに見せてやる。カッコいい俺を見せてやる。


シンはその思いをかみ締(し)めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る