第19話

「声でかいし、いいかもな」


シンが軽くショウタの肩を叩いた。


「でも、野球やってるから無理か」


ライブを見たあとの中学生はみな、こんな感じなんだろう。ライブはやっぱりカッコいいし、誰でも一度は憧(あこが)れるのだと思う。


「シン君だって、練習すればきっとできるよ。私は聴いてみたい」


さっきまでは少し控えめだったアヤコが、妙に乗り出してきた。


「そんなに聴きたい? シンの歌なんか」


ユウは、アヤコを見ながら不機嫌そうに言った。

鈍感なシンには、なぜユウが不機嫌なのかわからなかった。


「俺も練習すれば上手くなるかなぁ」


「シン君ならできるよ」


アヤコは満面の笑みだった。アヤコの言葉で、シンがバンドをやりたいという気持ちになったのは間違いない。


時間も遅くなり、4人は帰ることにした。待ち合わせをした駅に着き、解散した。

ユウを家まで送って行く、その帰り道。


「なぁユウ、俺バンドやってみようと思うんだ。どうかなぁ?」


シンはなんとなくユウに聞いてみた。


「やりたければやれば? アヤコも言ってたしさ」


ユウの態度は冷たかった。


「なんか機嫌悪くない?」


「そんなことないから」


明らかに機嫌が悪かったが、相変わらずシンは、ユウが何に怒っているのかわからなかった。


「あのさぁ…」


「なに?」


「カッコいいかどうかは、わからないけど…」


「っで?」


「俺は、ユウにカッコいいって思ってもらいたいから」


「ふぅん。私のためならいいけどさ、ほかの子とデレデレしたりイチャイチャするためなら、許さないからね」


「わかってるよ」


このとき、ユウがアヤコに嫉妬(しっと)していたことに、シンはようやく気づいた。


「俺がライブやるときは、必ず最前列で聴いててくれよな」


「もちろん、誰にも譲りませんから」


ユウの機嫌はすぐに直り、最後は笑ってくれた。

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