第10話

沈黙は数分続いた。


「ねぇシン、覚えてる?」


「んっ? なにを?」


「やっぱりわからないよね…私とシンは、これで会うのが3回目なんだよ?」


シンは驚いた。まったく覚えがなかったからだ。


「無理もないよ、小学生のときだもん。それにほんの一瞬だしね」

ユウはシンに微笑(ほほえ)んだ。


「…ごめん…まったくわからないや」


シンは必死に思い出そうとしたが、見当がつかなかった。


「気にしなくていいよ。5年生のときだよ、わかる?」


「えっ? ちょっと待てよ、うぅん…」


「ごめん、ごめん、いじめすぎたね。5年生のときに水泳記録会あったでしょ?」


「あぁ、出てたよ。そんときにいたの?」


それでも、シンはまったく思い出すことができなかった。


ユウは軽く笑みを浮かべながら、ゆっくりと説明を始めた。


「あのね、あのときすごく寒かったでしょ? それで隣で震えてる私に、シンが自分のタオルを貸してくれたの。自分も寒いはずなのにね」


シンはようやく思い出した。


「あぁ、あのときの子がユウなの?」


ユウは、満面の笑みで答えた。


「あのとき、すごく嬉しかったんだ。格闘技なんかやってたからあんまり女の子扱いされなくてさぁ。それに、シンの『頑張ろうな』って言葉がすごく嬉しかった」


「そんなこと言ったっけ?」


シンはなんとなく照れくさくなった。


「この前ね、シンを見たときだいぶ変わってたからびっくりしたけど、すぐわかったよ。強く当たってごめんね。いきなりでなんて話していいかわからなくて」


「たしかにびっくりしたよ。いきなりだかんなぁ。ユウみたいな気の強いやつ、見たことねぇよ」


「なんで、あのときあんな言い方したのかわからないんだ」


ユウは少しうつむいた。


「でもいいんじゃん? 結局こうして話してられるんだし、すげぇムカついたけど、今はそんなことないしさ」


「そんなことなくて、なんなの?」


ユウはシンの顔を覗き込んだ。

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