第3話 絶対領域
小型のドラゴンならB級冒険者パーティーが数組いれば倒せる。
中型のドラゴンならA級冒険者パーティーが数組いれば倒せる
大型のドラゴンならS級冒険者がいれば倒せる。
では三匹のドラゴンが意図的に連携したならどうか。
答えは、国家レベルの騎士団と冒険者がいれば倒せるが……人口の半数は死に、国は半壊する。
衛兵の一報を受け、サラを含めた職員が空を見上げる。
大型のドラゴンが口に魔力を集中させ、こちらを向いているのが見えた。
もちろんドラゴンは人のことなど目に入ってはいない。
ただ破壊する。
無に帰すだけ。
大型のドラゴンのブレスは、宮廷魔導士が総力をあげても完全には防げない。
「終わりだ……」
一人の職員の言葉は、その場にいる全員に聞こえた。
絶望の言葉は心をえぐり、誰も……否定出来なかった。
◇◇◇◇◇◇
時同じくして、一人の冒険者が空を見ていた。
レイナ・アルスベント 男爵家令嬢兼冒険者B級 17歳 女性
レイナは空から目の前のドラゴンに視線を戻す。
瞳に映るは、瀕死状態の中型のドラゴン。
サラ受付嬢の命を受け、レイナは宮廷とは反対の街の門付近を警戒していた。
そこに突如現れた、大型のドラゴンと中型のドラゴン。
暗闇の空からまるで幽霊のように姿を現したのを見て、人為的に起こされている襲撃だとすぐにわかった。
しかし、わかったところで状況は何も変わらない。
「男爵家レイナアルスベントの名おいて命ずる。全冒険者よ! ドラゴンを討伐するぞ!」
男爵家の身分では、冒険者に命令する権限などない。
しかしレイナは冒険者たちを奮い立たせるため、あえて自身の名を叫んだ。
レイナは自身が、女冒険者の憧れの的となっているのを知っている。
男冒険者からは時に疎まれ、時に性的な対象として見られていることを知っている。
ただいまは、その全てを利用してでもこの窮地を脱しなければいけない。
寄せ集めの冒険者、ランクもバラバラ、事前の打ち合わせなどない。
生きるか死ぬかを前にして……彼女の強さ指揮能力はA級に並ぶものへと引き上げられていた。
「レイナ嬢いけます! 一匹倒したら次は空のやつを!」
地上に降りていた中型のドラゴン、全冒険者はこちらに集中攻撃を行った。
結果、ドラゴンは数分も立たないうちに瀕死に追い込まれる。
「よし! 後は……」
笑顔でそう言った冒険者の顔が一瞬して絶望に変わる。
空中でブレスの準備をしている大型のドラゴンが目に映ったからだ。
それは状況を確認していたレイナも同じ。
「お前たち! 目の前のドラゴンを確実に仕留めろ! それでおまえたちはドラゴンスレイヤーだ!」
レイナは冒険者たちを鼓舞すると同時に、目には涙が浮かんだ。
「くそぉぉぉ!! しねぇぇぇどらごんがぁぁぁあ!!!」
「おらぁぁぁぁぁぁ!!」
きっとそれはほかの冒険者たちも同じだろう。
いま彼女たちが目の前の中型ドラゴンを討伐したところで、空高く、しかもブレスを放つ直前の大型ドラゴンはどうにもならない。
街は崩壊、その後、この場にいる者たちは全滅。
レイナも冒険者も、誰もがこの場で死ぬことがわかっていた。
だから涙を流す、誰にも見られない涙を、大切な人への涙を、命懸けで戦った証の涙を。
冒険者たちが中型のドラゴンにとどめを刺したと同時に、空中にいるドラゴンからブレスが放たれた。
◇◇◇◇◇◇
家から出ると街中がパニックになっていた。
でもモナは焦らない。
焦ってパニックになることが、もっともカッコ悪いことだとわかっている。
空を見ると、本でしか見たことのないドラゴンが飛び回っている。
でもモナは焦らない。
どうせ攻撃できないし、こんな状況で私に出来ることは……。
モナは引き籠りだった。
言葉が話せる年齢になった頃に与えられた部屋、そこから一歩も出ることなく数年を過ごした。
それを見た両親は、何度もモナを外に連れ出そうとしたが、頑なにモナは動かない。
時に強引に連れ出そうとしても、彼女はそれをスキルを使い防いだ。
絶対領域
モナはスキルが使えるようになった瞬間から、絶対領域を自身と部屋に展開していた。
このスキルは魔力を消費する。
ぶっ倒れては使い、苦しみながらも使い続けた。
それが自身を守るスキルだと、彼女は直感的にわかっていた。
数年後、そのスキルは一日中展開できるようになった。
寝ながらでも食事しながらでも、スキルの魔力消費に回復量が追いついた瞬間だった。
この頃になると両親はモナに何も言わなくなる。
二人は気付いていたのだ。
モナのスキルの凄さとその魔力量の恐ろしさに。
「オールレンジ……いや、最大出力でいかないとダメかな……」
ドラゴン2匹を見たモナは、王都全体をスキルで包もうと思った。
でもこれはすぐに悪手だと判断。
この広さをカバーするのはさすがにきつい、数分ももたない。
ならばどうする?
戦闘経験などないに等しい彼女が導き出した結論。
ドラゴンに攻撃されている人たちと物を全て領域に収めよう。
「我……遠い未来、魔王をたお、じゃなくて、魔王の攻撃を防ぐ者……」
その小さな声は誰にも聞こえない。
「だからドラゴンの攻撃なんか簡単に防げるのだ……なんかちょっと言い方かっこよくないな……」
もし聞こえていたとしても、彼女以外は誰も防げるとは思えなかっただろう。
魔力が膨大にある……だからどうした? 使う用途がなければ宝の持ち腐れだ。
そう言われた学園時代、すぐに不登校、最下位卒業。
「見ててね。お父さん、お母さん……お兄ちゃん」
彼女は杖を天に掲げ、ドラゴンを睨む。
その動作に意味はなく、杖が無くてもスキルは発動出来るし、ドラゴンの方を向く必要もなかった。
でも彼女は、自身の何十倍もあるドラゴンと目を合わせた。
「死ね。これが究極!! パーフェクトオールレンジぃぃぃぃ!!!!!!」
絶対領域!!!!!!!
◇◇◇◇◇◇
「な、なんだ!?」
レイナたち冒険者は一斉に困惑した。
自身の体にキラキラとした障壁が急に展開されたからだ。
初めは魔法使いか神官が防御魔法を展開したと思った。
けど、防御魔法はかなり高度な魔法であり、大人数に使用できる代物ではない。
でもその障壁は、レイナたち冒険者全員に展開され、今なおキラキラとその効力を保っている。
そして次の瞬間……。
「ググギゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
大型ドラゴンのブレスが、同じく空に展開されていた障壁に弾かれた。
「な、な……」
ドラゴンはすぐに小規模なブレスを放つが、展開された障壁はそれすらも弾く。
その様子を見ていた者全員が口を開け、ただただ様子を見守る。
「む! 皆の者! ドラゴン討伐隊形! まだ終わっていない!!」
いち早くレイナは反応する。
高レベルの者、ランクの高い冒険者もすでに動き出しており、空に浮かぶドラゴンに魔法とスキルが乱れ飛ぶ。
ドラゴンはレイナたちの攻撃を受けながらも、王宮に向けてブレスを放つ準備を始めた。
すると、今までレイナたちを覆っていた障壁がついに消え、同時に空に展開されていたものも消えた。
勘のいい冒険者は、守っていてくれていた魔法使いの魔力が切れたと感じ、ある者は再度絶望の淵に叩きこまれる。
奇跡は二度は起こらない。
ただ、ドラゴンに対して攻撃の手を緩める者はいなかった。
それは、倒さなければ死ぬ、だれもがそれを感じ恐怖していたからだ。
「くそっ!!」
レイナは走っていた。
街の家の屋根に上り、少しでも近い距離で、自身最大のスキルを叩きこむ。
しかし逃げ惑う市民がいる中で負傷者がいる中で、思い通りにことは運ばない。
そんな走り回っている時、杖を天に掲げている少女が見えた。
同じくらいの年齢、いや、もう少し若いか。
「おい! 回復魔法かポーションを持っていないか!? あちらの者の救護を頼む!!」
レイナは少女に聞こえるように叫ぶが、振り向く気配を見せない。
「オールレンジでよかったかな……思った以上に魔力が……オールレンジ! 絶対領域!!」
レイナは少女が向けている杖の方を見た。
そこには先ほどの膜に包まれた……ドラゴンが飛んでいた。
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