第5話 傀儡

 博士が久保氏を利用したのは、久保氏の生い立ちなどの話を聞いていたからだった。博士はその話を聞いて、

「この男なら、最大級の利用価値がある」

 と考えた。

 そして、実際に、その利用価値は、自分が想像していたよりも、かなり強かったのだ。最初は、

「少しくらいは、研究に役に立つだろう」

 という程度に思っていたのだが、役に立つところか、

「アイデア部分のほとんどは、久保氏の力なんだ」

 ということを知ると、博士も最初は、

「自分の博士としてのプライドが許さない」

 というくらいにまで思っていた。

 しかし、それどころか、時間が経つにつれ、久保氏の力を目の当たりにしてくると、

「これは手放してはいけない」

 と思うようになった。

 ジレンマはついてまわったが、それ以上に、

「もう後戻りができないところまで来てしまった」

 と思えて仕方が亡くなってしまったのだ。

 博士は、今でこそ、物理学であったり、化学分野に力を入れているが、元々は、生理学であったり、心理学の部門に進みたかったのだった。

 そういう意味でも、

「以前から、自分の人生は、自分が望んでいない方向に行く方が、成功する」

 と思うようになり、

「複雑な気持ちにさせられる」

 と感じるようになったのだった。

 だから、今回も、

「久保氏がいたおかげで自分が目立つことができる」

 ということであるが、

「決して、本意ということではない」

 と感じているのだった。

 だから、久保氏というのが、

「何か大きな力を持っている」

 ということを、最初から感じていたわけではなかったが、途中で急にピンときたということが、

「博士にとっての、本来の力なのかも知れない」

 と思うと、

「久保氏を使おうと考えたことも、決して悪いことではないのだ」

 と思えてくるのであった。

 久保氏に目をつけてから、博士は、久保氏という人間がどういう人間なのかということが気になって仕方がなかった。

 というのは、

「私の家系には、双子が多かった」

 ということを聞いたからだった。

 博士が学生時代に研究していた心理学の中で、

「双子は、天才児が多い」

 という仮説を立ててみて、その根拠を研究することで、

「その証明ができれば、心理学や生理学の方面で、第一人者になれる」

 と考えていたのであった。

 だが、実際に、その証明をできることもなく、

「研究室に残るために、大学院に進むか?」

 あるいは、

「民間の企業で、研究を続けるか?」

 ということになったのだが、実は、博士をほしいという会社が出てきたことで、博士は、その会社に入社することにしたのだった。

 その会社では、今までにも、結構たくさんの特許を持っているところで、その会社で実績を積むと、大学で博士として在籍することができるというのを知っていたからだった。

 実際に、今までに、何人もの博士が誕生し、

「博士となった人たちの下で、いろいろと勉強してきたことで、やっと今、博士号を取ることができ、そして、研究室でも、会社の方でもどちらにも在籍する形で、会社の方は、半分、

「名誉教授」

 という肩書から、第一線から遠ざかっていたのだった。

 大学の方では、元々やりたかった

「心理学」

 などの研究をしていた。

 その中で、ちょうど、

「双子の研究」

 というものを行っていて、

「双子というものが、今まで世の中にどのような影響を与えてきたのか」

 ということを研究するようになっていた。

 さらに、博士は、

「タイムマシン」

 というものに対して、ひときわ造詣が深かったのだ。

 というのも、

「タイムトラベルというものにm、タイムトラベルと、タイムリープが存在し、それぞれ別の認識で考えなければいけない」

 ということを分かっていた。

 そのつもりで研究をしていたのだが、久保氏が、

「それぞれに、違いはあるけど、最後に同じ道を通らなければいけない」

 ということを言い出したのだ。

 最初は、博士も、

「何を言っているのか?」

 と考えたが、よく聞いてみると、

「平行線が、交わることがない」

 という発想がそもそも間違っている。

 という言い方をしたのだ。

 それが、どういうことになるのかということを、すぐには理解できなかった博士は、それだけに、余計に久保氏の意見が気になってくるのであった。

 大学時代に研究していた心理学に、

「平行線は、どこかで交わることになる」

 という研究をしていた先輩がいたのだったが、その先輩は、大学を卒業すると、自殺をしてしまったのだ。

 遺書があったわけではなかったので、誰もその理由を分からなかった。

 しかし、数日してから、死んだ先輩から手紙が来たのだった。

 そこには、遺書とも思える内容のことが書かれていて、どうやら、博士にだけ、自分が死を選んだ理由を教えたかったということのようだ。

 その理由は、

「博士にしかその理由を理解できる人はいない」

 ということであろう。

 手紙を投函してから、まもなく死を選ぶことになるのだろうが、博士もすぐには、その内容が分かるわけではなかった。

 そこに書かれている内容は、

「私は双子だった」

 というところから書かれている。

「自分は双子であり、もう一人はどこにいるのか分からない。それは、時代からか、生まれてきてもう一人は、里子に出された」

 ということだったのだ。

 確かに。昔というのは、双子というのを、

「忌み嫌う」

 ということが横行していた。

 それが、今の時代にも影響しているということは、実際に、

「忌み嫌うだけの理由」

 というものがあるからであろう。

 それは迷信というには、あまりにも簡単なものではなく、その根拠や信憑性というものが、一般の人間には受け入れられなくても、この村では、伝説のようになっていたのだろう。

 そんな伝説をバカにする人が多いのは、

「今の時代で信じられていることだけが正しい」

 という考えがあるからであろう。

 昔の人たちは、

「伝説を信じている」

 ということが、

「その昔の人たるゆえんだ」

 ということになるのだろうが、

「逆も真なり」

 ということで、

「伝説を信じない」

 ということが、逆に、

「科学を冒涜することに繋がるのではないか?」

 と考えるようになっていたのだ。

 だから、博士も、

「信憑性というものは、そこに何かの伝説のようなものがあるから、不思議な力が結果として出てくるのだ」

 ということである。

 特にこの村で言われていることとして、

「双子が生まれれば、片方は、里子に出して、この村とは一線を画さなければいけない」

 ということであった。

「里子にやって、出生の秘密を一切知られることなく、お互いに生きていくということを周りが段取りしてあげないといけない」

 ということであった。

 その根拠として、

「双子がお互いのことを知ってしまったり、自分たちで気づいてしまうと、どちらかが死ぬことになる」

 という、

「都市伝説」

 があったのだ。

 その都市伝説というのはどういうことなのかというと、

「外国でいうところの、ドッペルゲンガー」

 のようなものだ。

 ということであろう。

「ドッペルゲンガー」

 というのは、

「もう一人の自分」

 という発想で、

「同一次元の同一時間に、もう一人の自分が存在している」

 ということであった。

 普通であれば、

「タイムパラドックス」

 というものを引き起こすので、

「あってはならないこと」

 ということで、

「ドッペルゲンガーの逸話」

 として言われていることで、

「ドッペルゲンガーを見ると、死んでしまう」

 ということである。

 これは、

「タイムパラドックスを引き起こさないようにするため、見えない力が、片方を葬り去ろうということになるのだ」

 という説が、結構、信憑性が高いといわれているようだった。

 もっとも、

「ドッペルゲンガーというのは、元々、精神疾患ということでの脳の病気なので、死ぬというのは、その病気のために死んだということで、何も不思議なことでもなんでもない」

 とも言われている。

 それが、

「世の中の道理」

 ということに近いのではないかと考えられるのであった。

「ドッペルゲンガー」

 というものと、

「双子」

 というものの関係は、結びつけるには、

「少し無理があるのではないか?」

 と、誰もが、ドッペルゲンガーというものを考えようとした時、頭を双子という発想が駆け巡るのだという。

 しかし、その考えはあっという間に消えてしまい、ほとんどの人は、消えてしまってから、もう一度意識をしない限り、

「最初から、そんなことを考えたなどということはなかったに違いない」

 と考えるのであった。

 確かに、

「ドッペルゲンガー」

 と

「双子」

 という関係は、まったく筋違いのものであって。それこそ、

「平行線を描いている」

 ということで、

「限りなく似ている」

 というところまではいくのだが。それを時間をかけて考えていくと、その考えが、結果として、結論までの道に大きな障害を持ち込むことになると思えるのであった。

 つまり、

「先に進んでいるようで、考えは停滞している」

 といってもいい。

 その理由に、

「停滞しているといっても、完全に止まっているわけではなく、ごく微妙に動いている」

 ということで。まるで、

「鉄砲の弾が発射されてから、相手に到達するまでに、1分以上が経っているのではないか?」

 と言われるゆえんであった。

 つまり、

「普段は早すぎて見えないくらいのスピードがスローモーションになっている」

 ということであり、それも、遅すぎるせいか、普通のスピードであれば、空気抵抗をもろにうけるので、理屈としては、

「コマ送りのようになっている」

 ということであっても、それが分かるというものであるが、実際に超遅いスピードであれば、分かるというものであろう。

 ただ、そんなまるで、

「異次元のような空間」

 を、この次元で作るには、限度があり、範囲としては、

「一つの小さな村」

 というものくらいであり、

「人間間」

 ということであれば、

「双子の関係にしかありえないことだ」

 ということになるのであろう。

 もちろん、そんな都市伝説のような話は、口伝でも、そんなに伝わっていないだろう。

 そもそも、

「異次元」

 という発想が、昔の人にあったのかどうか、それも怪しいものだ。

 ただ、タイムマシンという発想は昔からあったので、

「異次元」

 であったり、

「時空の捻じれ」

 と、一般的に言われている、

「タイムトラベルの基礎」

 ということで、考えるようになったといってもいいだろう。

 博士が生まれた村では、他の村にないほどに、双子が生まれる確率は結構高かった」

 ということのようである。

「ここまで高いと、その対応にも、相当な苦労がかかる」

 ということであるが、さすがに村の長も、

「毎回のように処理をするのは大変だ」

 ということで、結構、大目に見るようになったのだという。

 だからといって、

「村に何らかの禍があった」

 ということもなかったようで、そもそも、

「どんな禍があるのか?」

 ということを知られるということはなかったのだ。

 だから、漠然と、

「双子は一緒にしていては危険だ」

 というウワサだけが独り歩きをしてしまい、その根拠を調べる暇もないくらいに、対応に追われていた。

「これ以上増えると、もう対応できなくなる」

 ということが起こり、

「もう、どうしようもないことだ」

 というようになったのであった。

 だから、今度は、

「双子の多い村」

 ということを、

「世間に知らしめないようにしなければいけない」

 と考えるようになったのだ。

 だから、方法は二つしかなかった。

 一つは、

「開放的な村になり、他との交流を深めることで、まわりを欺くような行動に見せる」

 ということであった。

 一番、現代っぽくて、

「まわりに対してはいいことだ」

 ということなのだろうが、村としては、完全に伝統を犠牲にしているということになるのであった。

 もう一つの方法としては、

「今まで以上に閉鎖的な村」

 ということで、

「よそ者を入ってこないようにする」

 という、まるで、

「鎖国政策」

 ということであった。

 この村は、その、

「鎖国政策」

 というものを取ったのだ。

 普通であれば、やはり、

「鎖国政策」

 を取ると考えるのだろうが、その理由は違っていた。

「中から表に出ていくものを遮断する」

 ということが主であり、

「表から入ってくるものを遮断する」

 ということにすると、その趣旨がバレてしまうということで、わざと、中から表に出るものを遮断するという形にしていたのだが、結局、その方法が鎖国政策を目立つ形にすることで、

「双子対策」

 ということまでは分からないだろうが、

「この村には何かある」

 とは思われていただろう。

 だが、そう思わせることが、トラップを生み、

「欺く」

 ということに関しては、

「うまく作用している」

 といってもいいだろう。

 それを考えると、

「双子というものが、いかに問題なのかということが分かる」

 というものであった。

 博士は、ひそかに、久保氏を研究した。

 久保氏は、自分が双子で生まれたことまでは知っていたが、もう一人が里子に出され、そこからどうなったのかまでは知らなかった。

 博士は、その子をひそかに調査していると、

「久保氏と離れてから、2年」

 つまりは、まだ、赤ん坊だった頃に、亡くなっているのが分かったのだ。

 その里親になった、いわゆる、

「子供を押し付けられることになった親は、子供をかわいそうだといっていた」

 のである。

 里親として、

「子供を押し付けられた」

 ということではあったが、親の剣財力からすれば、家族三人を養っていくくらいの金はあった。

 親は会社社長ということで、しかも、会社というのは、

「闇市:

 からの発展形だったので、いくらでも何とでもなるということでもあった。

 それを思えば、

「里親になるくらいのことは何でもない」

 と思っていた。

 しかし、いくら里親とはいえ、預かった形の子供を、2年くらいで死なせてしまったことに、かなりの後悔があったようだ、

 しかし、社長はそのことに一切を触れず、普通に会社から、見舞金と、家庭から見舞金が贈られた。

 しかも、しばらくは、生活費の面倒も見てくれた。里親になった方は、素直に、

「感謝します」

 という気持ちになっていたが、実際には、

「里親に出したことは、他言無用だ」

 ということが大きかったようだ。

 要するに、

「口止め料」

 ということである。

 しかし、博士はそれを聞いて、

「なるほど、やはり、双子の片方は、短命だという伝説は、ウソではないんだな」

 と感じたのだ。

 実際に、そのあたりの統計を探ってみると、

「確かに、久保家だけではなく、他のところも、その傾向が強いということであった。そもそも、片方の身体が弱いということを証明しているということであった。

 そもそも。そういう伝説として、片方の子供が育ちにくいということを昔の人は分かっているので、

「赤ん坊のうちに、なるべく早くそれを見切って。里子に出す」

 ということが、

「双子が生まれた時の対処」

 ということが言われるようになったのだ。

 ただ、また、

「もう一つの伝説」

 として、

「子供が死んでしまったら、同じ瞬間に、どこかで双子が生まれる」

 ということであった。

 そして、これも同じように、

「どちらかが、身体が弱く、里子に出され、そして、早死にをする」

 という伝説が、続いていくということであった。

 ということは、

「久保氏のもう一人の兄弟の生まれ変わりが、どこかで生まれた」

 ということになるのだろう。


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