第34話
次の日。
今日は休日だったのだが、両親は休日出勤というわけで家は静かだった。
昨日散々活性化してくれやがったせいか、ダンジョンでしばらく戦うことになった俺は、今はひとまず落ち着いた朝を迎えられていた。
ったく。
俺が赤崎市で暴れているからって嫉妬したのか? 可愛いダンジョンだねぇ……可愛くねぇよ、ボケ!
ニュース番組で昨日の赤崎市の様子が大々的に報じられていた。桐生さんが異常種を鮮やかに討伐するシーンが多く出ていた。
無事、ダンジョンでの戦闘を終えた俺は、由奈が用意してくれた朝食とともにテレビを眺めていた。
話題は、昨日の一件だ。
由奈はあまりそのニュースを見たくなかったようでチャンネルを回したが、別のチャンネルでもその内容だった。
『それでは、本日はもちろんこのニュースです。昨日の赤崎市での戦いについてですね。こちらを、元Aランク探索者の米川さんとともに、見ていきたいと思います』
『よろしくお願いします』
この人、また呼ばれてんのか。
『それでは米川さん。昨日の戦いについてですが……いかがでしたでしょうか?』
『ええ。桐生さんの配信にて、戦闘の様子は確認しました。桐生さんの素晴らしい対応に拍手を送りたいと思います。被害を最小限に抑え、迅速かつ的確な対応で異常種を討伐されました。これこそ、Sランク探索者として素晴らしい限りです』
『そうですよね。それに、神崎凛さんも凄い偉業を成し遂げたとか』
『……ええ、そのようですね。単騎での魔石5つ持ちの二体同時撃破。……これが行えるSランク探索者はそうはいません。世界的に見ても両手で数えられる程度です』
米川さんの言葉に、女性はぶるりと感動した様子で震える。
『これまで日本の探索者のレベルは世界に比べて低い、遅れているという話でしたがこれはもう世界に並んだと言っても間違いないでしょうか?』
『間違いないと思いますね』
現場から歓声のようなものが上がった。
ただ、それは次の米川さんの言葉によってかきけされた。
『しかし――』
米川さんの言葉に合わせ、スタジオ内に映像が映し出された。
そこには、俺と桐生さんが言いあっているシーンが映し出されていた。
米川さんは深いため息をつき、眉間にしわを寄せながら続けた。
『一方、天草晴人さん。……彼は現場にこそ来ましたが多数のサボりの報告を受けていたようですね。Sランク探索者には、迅速な対応と高い責任感が求められます。彼のような行動は、むしろ国民に不安を与えるだけです』
スタジオの空気が冷たく凍りつくようだった。
呼ばれていた芸人がその米川さんの意見に便乗する。
『彼について私も個人的に調べましたが……そもそも素行に大きな問題がありますね。Sランク探索者ともなれば、国の代表として行動するべき存在ですよね。それが、地元のダンジョンに引きこもって活動しているふりをしているとか……』
『そうですね。実力も疑問視されます。魔力量だけでSランクに選ばれたのかもしれませんが、それだけでは不十分です。彼の行動は、他のSランク探索者たちにも迷惑をかけています』
観客席からは「その通りだ!」とばかりに拍手が起こる。
胸にずきんと痛みが走った瞬間――。
「こいつらぁぁぁぁ!」
由奈がテレビに向かって飛びかかった。
「待て待て待て!」
由奈がテレビを破壊しようとしているので、俺は慌てて止めに入る。
『やっぱり、天草さんってサボり魔ですよね。昨日も遅れてきて、何の役にも立ってなかったじゃないですか!』
『いやぁ、あれがSランクなんて、信じられないですよね。僕でも突っ立ってるだけならできますよ』
芸人の小馬鹿にしたコメントにどっとスタジオは笑いに包まれ、由奈が怒りに包まれる。
「うがああ! やっぱり配信しながら戦うべきだったんだよ! 桐生なんて、あいつ髪もばっちし整えて、自分で飛んでこれるくせにのんびり車で来てたのよ!?」
呼び捨てである。
「晴人! ちゃんと魔石回収しないとダメでしょ!?」
「俺はテレキネシスが使えないの! 魔石とか回収してたら荷物が増えちゃうんだって!」
桐生さんとか神崎なら、回収した黒魔石をぷかぷか浮かせることができるけど、俺は違う。
「でも、桐生みたいにアピールしないと、誰も気づいてくれないの! ……こんなに好き勝手言われていいの!?」
「……いやまあ、悔しいけど」
「でしょ!? あたしも悔しいの! ……お義兄ちゃんが、誤解されたままだとね」
「……悪い」
俺一人の問題で済むのならいいが、周りにも色々言われちゃうもんな。
「やっぱり、晴人は何かした方がいいわよ……ネットとか凄いくらい叩かれてたのよ? まあ、擁護コメ残したら、それに追従する意見もあったから……皆が皆敵ってわけじゃないけど」
「そう……なんだな。滅茶苦茶気になってんだけど……」
「見ない方がいいわよ。本人じゃないあたしでも見るの辛いんだし」
「……まあ、だいたい予想できるな」
俺相手なら何を言ってもいいと思っているからな。Sランクサンドバッグだ。
「晴人は間が悪いっていうか、運が悪いっていうか……とにかくもう、運が悪すぎるわよね」
「……そりゃあまあ自覚してる」
「なんでこう見事に最悪な形で誤解されてるのよ。もう少し、うまく立ち回れた部分もあったと思うわよ」
「……まあ、そう、だな」
最後、桐生さんと喧嘩したみたいな流れが特によくなかったようだった。
そのせいで、もう凄まじいくらいに色々と言われてしまっている。
……母さんや義父さんに迷惑がかからなければいいんだけどなぁ。
そんなことを考えていると、俺のスマホが震えた。
また三好さんからだろうか? そう思ってスマホを取り出したのだが、相手は神崎からだった。
以前、Sランク探索者同士で連絡先を交換したことがあった。
それ以降、まったく連絡を取りあうということがなかったので、すっかり忘れていたが、恐らくその時の連絡先から神崎はかけてきたのだろう。
一体、どうしたのだろうか?
「三好さん?」
「いや、神崎から」
「……神崎って、手柄横取りした?」
「……いや、まあ、そうだけど」
でも、神崎ってそもそも探索者活動にあまり興味がなかったと思うので、彼女が手柄を横取りしてきたのかどうかは疑問が残っていた。
一体何の用事かは分からないが、あれから体は大丈夫なのかどうかも気になっていたので、電話に出た。
「もしもし」
『わっ……わぁ……っ! あ、天草の番号で間違いない?』
なんかめっちゃ慌てたような声だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます