第28話


 由奈は去っていった晴人の背中を見送ってから、息を吐いた。


「……そういう考え方とか――もっと皆に知ってもらえばいいんだけど、それをアピールするのはさすがにイメージ悪いわよね」


 由奈は小さく息を吐きながら、同時に反省する。

 探索者たちの配信では、よく『緊急で動画を撮影』とか『緊急でカメラを回している』とか『緊急で配信をしています』とかなんてありふれていた。

 命の危機的なものなんかもそういった撮影されていることなどがあり、由奈としてはエンターテインメントの一つとして考えてしまっていたため、晴人にたしなめられてはっとした。


「……第一、今の晴人がそういう配信をやってもダメよね」


 それこそ、『不謹慎だ』とかそういった罵詈雑言で散々に叩かれるのは目に見えていた。

 そう思いながら由奈はスマホを弄っていたところ、生放送のランキング一位に桐生が映っていた。


「……桐生さん、さっき赤崎市の対応に向かうって話してたわよね?」


 そう思い、彼の配信を見にいったところ、


『今、緊急でカメラ回しています……なんでも、赤崎市にて大量の異常種の発生が確認されたそうです。現在、急いで車で現地に向かっているところです』


 視聴者数は始まったばかりだというのに、すでに視聴者数は10万人を超えていた。

 由奈も、誕生日配信などではその視聴者数に到達したことはあったのだが、桐生の視聴者は今もなお増え続けている。


『赤崎市の人たちは、もしも、この配信を見ているのなら……よく聞いてほしい。今はとにかく身の安全を確保してほしい。必ず、オレが助けて見せる』


 そうい桐生がいうと、コメントも、賛美の嵐だ。


「…………こういうのうまいわよね」


 それを由奈はどこか冷めた目で見ていた。

 もちろん、桐生だって急いで駆けつけているのだろうけど、


「……髪型、きっちり決まってる。服装も皺ひとつない、ピシッとしたもの。……第一、配信用のサムネまで作って準備しているなんて、余裕よね」


 先ほどの晴人の姿を見ていた由奈としては、そういう感想を抱いてしまった。


「……それでも、たくさんの人たちは疑問に思わないようにもう桐生さんはそういうキャラを作ってるのよね」


 由奈は小さく息を吐いてから、今後のプロデュースの仕方についてを考えていた。



 赤崎市に到着したのは、十分後くらいだった。

 赤崎市方面から逃走してきたと思われる人や車が多く、なかなか自由に動き回らなかったからだ。

 ようやく赤崎市に到着したのだが、すでに建物の一部などは壊れてしまっている。


 逃げ遅れた人もそれなりにいるだろう。

 俺はスマホに届いていた地図を見ながら、周囲の魔物を探す。


 ……くそぉ、俺は感知がまったくできない。

 神崎や桐生さんは、感知能力が高いらしく、魔物のいる位置などをなんとなく理解できるらしい。

 せめて、感知が得意な探索者を一人連れてくればいいのだが――仕方ない。あれをやるか。

 俺は自分の異能である、オーバーフォースを発動する。


 強化するのは――聴力だ。周囲の些細な音さえも拾い上げるように強化するよう、意識を高めていく。

 そして……聞こえた。子どもの声と……魔物の声。


「……ちっ、やべぇ!」


 今すぐに、そちらに向かわなければならない。全身の強化を施したまま、俺は一気にそちらへと跳躍した。

 見つけた。ちょうどまさに、そこに魔物を見つけた。魔石四つ持ちか。

 俺に気づいたのか魔物がこちらを見てくる。


「ガアアア!」


 咆哮とともに鋭い爪を振りぬいてきたが、バレットソードでその爪を弾き、首を切り裂いた。

 魔物は悲鳴をあげることもなく、その場に崩れ落ちた。

 さらにもう一体。近くに潜んでいた魔物が飛びかかってきたが、俺はそれを打ち抜いて仕留めた。

 異常種を示す黒い魔石がドロップしていたが、そんなものを回収している暇はない。とにかく今は、子どもの涙を押さえるのが先だ。


「大丈夫か?」


 俺ができる限り優しく声をかけると、子どもは笑顔で頷いた。


「う、うん! ありがとう! お兄ちゃん!」

「それは良かった。えーと……今避難中? お母さんとかは?」

「……お仕事で、帰りが遅くて……こういうとき、学校に避難するように言われてたから」

「了解だ……すぐそこの?」

「うん……」

「よし、とりあえずそっちに行こう。抱っこしていいか?」

「うん……!」

「しっかり掴まっててくれな」


 俺は子どもを抱きかかえ、そのまま一気に跳躍して、学校へと向かった。

 学校には、探索者や避難してきた人たちがいて、俺を見るといぶかしむようにこちらを見てきていた。

 とりあえず、ここは探索者が守ってくれているようで、大丈夫そうだ。


「お兄ちゃん、ありがとう!」

「ううん、気を付けてな」


 とりあえず……この近くに魔物はいなそうだし、大丈夫か。

 それを確認したところで、俺はすぐにまた走り出した。近くに、魔物の声と……三人の子どもの声。

 俺は即座に、そちらへと向かって走り出した。

 ……発見したのは、異常種、三体。また、異常種か。


 魔物たちの目つきは鋭く、獲物をロックオンしたかのように、子どもたちにじりじりと近づいていく。


 こいつら、子どもばっかり狙いやがって。ロリショタコンの魔物どもめ!


 俺は躊躇なく魔物に突進し、まず一体目の魔物を上段から一気に切り裂いた。

 残り二体が反応したのだが、反撃をかわしながら横に回り込んで首を刎ねた。


 三体目は後ろに飛び退こうとしたが、その瞬間に銃口を向けて魔力の弾丸を発射。体に弾丸の雨を浴びせてやって仕留めた。


「ふう……」

「お、お兄ちゃん……ありがとう!」

「学校まで避難しているのか? もうちょっとだから、頑張ってな?」

「うん……!」


 涙を浮かべていた子どもたちの頭を軽く撫でてから、その背中を見送った。

 とりあえず、学校までの道中に魔物がいないのは分かっている。今はそれより何より、他の異常種を討伐だ。

 ……よし、次!

 あちこちで人々の悲鳴が響いているんだ。さっさと魔物を倒していかないといけない。


 ……そんなときだった。

 血相を変えて走ってきている探索者たちの姿が目に入った。


「おい、何かあったのか?」

「うえ!? お、おまえSランクの……」


 めっちゃ嫌そうな顔である。

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