第27話
「……とにかくよ。努力って見えないでしょ? 自分で努力してますって、明らかにアピールしたらダサいけど、さりげなくアピールしないと誰も気づいてくれないの。お父さんも……そういうところ能天気なのよね」
「貴志さんが?」
「そうなのよ! お父さんも凄い仕事がんばってるのになんかこう、うまくいかないのよ! 頑張ったら、自分からアピールしないとダメなのよ!」
……なるほどなぁ。
「大変そうだな……」
「その点、桐生さんはさすがナンバーワンって押し上げられるだけのマーケティングのうまさをしているわね」
「そうなのか?」
「色々なメディアに顔を出しているし、ほぼ毎日のようにダンジョン配信をしているのだって、そういうアピールのはずよ」
「でも、探索者になりたい人を増やすって言ってたぞ?」
「それがうまいのよ。嫌味な感じしないでしょ? 配信なんてしたら、がっぽがっぽで金が入ってくるのよ?」
「……そんなにか?」
「試しに見てみたけど、桐生さんの配信、凄いスパチャの数よ。ちょっと調べたら一配信で1000万とか余裕で超えることもあるんだから。お義兄ちゃん、1000万あったら何したい?」
「え? ………………牛丼特盛?」
「しょぼ!? しょぼいわよ!」
「別に物欲とかないんだって! 今だって俺、滅茶苦茶金持ってるけどほとんど使ってないし、使い道ないし!」
「え? ……そんなに持ってるの?」
「前見た時億は超えてたぞ」
「…………やばっ!? お義兄ちゃんのことしゅきになってきたかも」
「露骨だなおい!」
神野町ダンジョンがいくら旨味のないダンジョンとは言っても、あれだけ活性化していたらそりゃあ稼ぎも増えるというものだ。
一瞬由奈の目が円になっていたけど、すぐにこほんと咳払い。
「……冗談よ。桐生さんの本心は知らないけど、とにかく嫌われないような立ち回りがうまいのよ」
「なるほど。俺は?」
「へたくそ! SNSで異常種を討伐したときとかはなるべく投稿したり、ダンジョンの活性化を押さえたら全部画像をアップしたほうがいいわよ! あんなに魔石回収しているの、毎日あげてたらそれだけでも注目する人も出るわよ! なんでこんなに悪印象が広まるまで何やってたのよ!?」
「……俺、SNS苦手っていうか……面倒だし? あんな桐生さんみたいに毎日更新とか絶対無理」
「もう! 昔から毎日コツコツダンジョンに潜っているアピールしてたら、多少信者とか作れてたのにぃ……!」
むきーっと由奈が声をあげていると、テレビから声が聞こえてきた。
『さてそれでは最後はもちろんこの方。天草晴人さんについても一応触れておきましょうか』
『彼、触れる必要ありますかね?』
米川さんがそういうと、爆笑が巻き起こる。由奈が目をひん剥いた。
「こ、この解説者! うちのお義兄ちゃん、億越えの資産持ってるのよ!? あんたなんてたいして稼げてないから未だにせこせこテレビで小遣い稼ぎしてんでしょ!?」
「生々しいからやめなさい!」
そんなテレビの爆笑が収まったところで、一応という感じで解説が始まった。
『天草晴人さんは神崎さんと同じくSランク探索者ですが……神崎さんと違い、今年に入ってから、まだ一つもダンジョンの攻略を行っていないようですね』
『今年に入ってからではありませんよ。今年に入ってからも、ですよ』
どっと、笑いが起こる。ぶちっと由奈がキレる。
『……その通りで、残念ながらここ数年間、成果を全く出せていません。異常種討伐数も少なく、ダンジョン攻略数はゼロです』
「晴人、ダンジョンはともかく、異常種の討伐数も少ないけど、あれってどうなの? どうにかできないの?」
「異常種に関しては運もあるからなぁ……ダンジョンで遭遇したり、町中で遭遇したり……とにかく、運に左右されるんだよ。何か、俺ほとんど見かけないんだよ」
「運悪すぎね……」
「平和でいいよな」
「平和はいいけど、そのせいでまた評価下がっちゃってるんじゃない……! 町で出るのはやめてほしいけど、ダンジョンではバンバン出てきてくれたらいいのに!」
由奈がわーわー騒いでいる。
解説者は険しい表情で続ける。
『正直なところ、彼がSランク探索者としてふさわしいのかどうか、再検討が必要だと私は思いますけどね。魔力量が優秀でも、それを正しく使えない……失礼、彼の場合は使う気がないのでしたね。そういった資質的に問題がある人は、Sランク探索者としてふさわしくないと思います』
「こっちだって頑張ってんだぞ!」
俺がテレビを担ぎ上げようとすると、
「お、お義兄ちゃん、ストップストップ!」
由奈が止めに来た。
『本当にその通りですよね。同じ学生でありながら、神崎さんは明確な成果を残しています。力を持って生まれた以上、もっと自覚を持ち、行動してほしいものです』
スタジオ内が一瞬しんとなったが、すぐに他の解説者が笑い混じりに言った。
『せめてもう少し積極的に動いてほしいもんですね』
『本当にその通りですよね』
そんなこんなで、最後は俺の批判をしていき、次はまた桐生さんの話題へと変わっていった。
「むかついたわ」
「……なんか俺は、いつもより落ち着いてみてられたな」
「なんでよ!?」
隣で、俺の代わりに怒ってくれる人がいたからだろうか?
……自分で、怒るのは間違っていたと思っていた。
俺はまだ、怒る権利さえない落ちこぼれだと、思っていたからだ。
でも……由奈がこうして怒ってくれているからか、俺もちょっとは怒ってもいいんだって思えていた。
全部俺が悪いって考えていなかったから、楽しみながら見る余裕があったのかもしれない。
「由奈が一緒にいてくれたからだと思う」
「ふえ!?」
「……俺の代わりに色々言ってくれて、ちょっとすっきりした。ありがとな」
「そ、そういうこと、ね。ふん、まったくもう」
由奈は腕を組み、それからパクパクと食事をしていく。
ずっと思っていたのだが、由奈はかなり食いしん坊だと思う。夕食だけ見ても、平均三杯くらい、ごはんを食らっているからだ。
「でも……本気でどうにかしたほうがいいと思うわよ? 過剰に持ち上げられる必要はないけど、過少に評価される必要なんてないんだから」
「……俺も、そうは思ってるんだけどなぁ。中々どうして、うまくいかないもんでな」
そう俺が答えた時だった。
俺のスマホが突然鳴り響いた。また三好さんからか? と思っていたが違う。
秋咲市の探索者協会からの電話だ。
……誰だろう?
俺が念のために電話に出ると、怒鳴りつけるような声が響いた。
『おい! お前! 今どうせ暇だろ!?』
「えっと……誰ですか?」
『支部長! 秋咲市探索者協会の支部長の中村だよ! 今すぐ、赤崎市に来い!』
「赤崎市ですか?」
場所としては、秋咲市の北に位置する。ここから、何も考えずに走れば、十分もあれば着く場所だ。
『ああ。赤崎市で異常種が大量発生したんだよ! 現地にいる探索者たちで対応してるけど、手が間に合わねぇんだよ! お前、腐ってもSランク探索者だろ!? たまには仕事しろ!』
怒鳴りつけるような声が響いていたからか、隣にいた由奈も聞こえたようだ。明らかに、むっとした表情をしている。
頼むから吠えないでくれよ?
「分かりました。すぐ向かいます。異常種の発生した地点について教えてください」
『メールで地図は送っておくが敵は魔物だからな!? 移動するのは分かってるよな!?』
「もちろんですよ」
『地図の北側は、桐生さんが対応してくれるって話だ! 北西地区は、神崎さんの担当! お前は、南側で少しでも桐生さんたちの仕事を減らせるように努力しろ! いいな!?』
「……了解です」
桐生さんはともかく、神崎も近くにいるのか。
すぐに通話は切れて、俺のアドレスに地図が届いた。
……結構、凄いな。
ちょっとしたメモも付与されている。
魔石2~4つ持ちが確認されていること。
その数は推定でも50を超えているそうだ。
「そういうわけで、ちょっと行ってくる」
「は、晴人……これ、配信とか撮影とかできたら……実力を示すチャンスじゃない?」
「チャンスじゃないな、さすがに」
「……いや、でも――」
「今どこかで死にそうになっている人がいるんだ。……困っている人がいるんだ。そんな用意している暇なんてないって」
「…………ごめん。ちょっと、軽視しすぎてた」
由奈がしゅんと落ち込んだ。
……別に、そう落ち込ませるつもりはなかった。
「色々考えてくれてありがとな。現地で……まあ、余裕があったら色々やってみる」
「……うん」
俺はすぐに靴を履き、バレットソードを手に持った。
「急いで行ってくる。もしも母さんたちが帰ってきたら伝えておいてくれ」
「分かったわ。気を付けて……行ってらっしゃい」
「……ああ、行ってくる」
由奈の言葉に笑顔で頷き、俺は家を飛び出した。
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