第23話
次の日も、その次の日も――ダンジョンの活性化は止まらなかった。
ここ数日。マジで活性化しすぎだし、敵の強さが跳ね上がっていて、三好さんも対応しきれない日が増えている。
神野町ダンジョンが俺に会いたがってるのかもな! いい迷惑だよ!
なんとか押さえ込んで無事家へと帰ってきた。
両親はまだ仕事から戻っていない。帰りは二十時過ぎになると連絡があった。
とりあえず、シャワーを浴びるかな。結構汗をかいたし。
リフレッシューとか、口ずさみながら浴室へと向かおうとすると、二階から由奈が降りてきた。何か微妙な表情をしている。
俺から声をかけたら嫌がるかもしれないが、このタイミングで声をかけないのも失礼じゃないだろうか?
ちょっと悩んでから、俺は笑顔を浮かべた。
「ただいま」
「……お帰り」
ちゃんと返事されると思っていなかったので、少し驚く。
この際、ちょっとお兄ちゃんぽく色々聞いてみようか。
「学校はもう慣れたのか?」
「……まあ」
「それなら良かった。かなり人気っぽいしな」
学校ではいつも誰かと話している。おまけに、告白もされたとかなんとか話を聞いてきた。
俺は友達を作る機会もなければ、あまり深い仲の相手を作りたいとも思っていない。
いついなくなるか分からない以上、相手に嫌な思いをさせちゃうだろうからな。
だから彼女も作らない。できないわけじゃないぞ?
今日の彼女は俺とちゃんと話してくれる。何かいいことでもあったのかな? と思っていると、少し迷うような様子で声をかけてきた。
「……ねぇ、ダンジョンの活性化ってこんなに頻繁に起きるものなの?」
「神野町ダンジョンはこんな感じだ」
「調べたんだけど、普通のダンジョンだと一ヵ月に一回とか、それくらいらしいじゃない。これ、異常よね?」
「異常だよ」
「協会とかに報告しないの?」
「したんだよ。でもまともに取り合ってくれないんだや、あいつら適当だから」
がくりと少し大袈裟気味に、肩を落とす。由奈の表情は険しいままだ。
「……適当?」
「神野町ダンジョンのこと、調べると色々出てくるだろ? 俺も説明したんだけど……協会は全然信じてくれない。しかも、地元の人たちまで嘘つき扱いされちゃって……まあ、そういうわけでな。どうしようもないんだよ」
「それって……ひどくない?」
「まあ、仕方ないな。俺の評判が悪いからな。……由奈は俺のことで周りとかに色々言われてないよな?」
「……してない。ていうか、家族だとバレてないし。学校の人たちで、あんたのこと悪く言う人いないし」
「それなら良かった」
そこはちょっと心配だった。例えば、前の学校の友人とかと話をしていて、色々言われていたらどうしようかと。
俺のせいで、周りの人が傷つくのはもう見たくないからな。
「毎晩、夜中までダンジョンに行くなんて……異常でしょ? それに、どうして全部、晴人が対応してるの? 他の探索者は? 協会の人は?」
「協力してくれる人もいるけど、ダンジョンの敵が強いからそもそも無理なんだよ。地元の探索者も頑張ってくれてるけど、結局俺が中心になって動くしかない」
「よそから探索者は来ないの? 前に住んでたところは色々な人が来てたけど……」
「大きい街とか、ダンジョンにうまみがあれば多少人は来るけど……神野町ダンジョンはそれも何もなくてな。酷いダンジョンで、まったくもうって感じなんだよ」
「……」
由奈はしばらく沈黙した後、頭を下げてきた。
「……ごめん。前に酷いこと言っちゃった」
そんな謝罪をされるとは思っていなかったので、めちゃくちゃ驚いた。
……こう、以前と違う態度を取られるとどのように接すればいいのか分からなくてちょっと困惑する。
「気にしてないって、慣れてるからな」
「慣れちゃダメでしょ……」
慣れるしか、なかったんだよ。毎回気にしてたら、疲れるだけだからな。
由奈は俯きながら、さらに言葉を絞り出した。
「ネットで……あんたのことたくさん叩かれてるの見たのよ。こんなに頻繁に呼ばれてたら、他のダンジョン攻略なんて無理に決まってるじゃない……」
「……おう、まあな。よく分かったな」
「こんなこと……素人のあたしでもわかるわよ。他のSランク探索者がこの町に来てくれたら、すぐに異常だってわかるんじゃないの? 誰も何もしてくれないの?」
由奈が絞り出すように俺の状況をどうにかするための提案してくれた。
それが……ちょっと嬉しかった。外の人にあんまり優しくされたことないから、すぐ嬉しくなってしまう。チャロインなのだ、俺は。
「一応、俺がいるからダメなんだよ。他のSランクが来ると、現地の探索者の立場を奪うことになる。だから、来ないんだ」
「……何よそれ」
「そもそも、皆も忙しいしな。まあ、俺はSランク探索者だから、俺がなんとかしないとダメなんだ」
由奈は何か言いたそうに俺を見つめていたが、ぽつりと口を開いた。
「……ごめん。ひどいこと言っちゃって」
「いいって。実際、何もできてないSランク探索者ってのは間違いないし」
「……そんなことないでしょうが」
そんなことあるっちゃある。
どんな難易度のダンジョンだろうと、俺がさっさと攻略できればそれで済む話だからな。
結局のところ、俺が攻略できてないから周りの人たちに迷惑がかかってしまっているんだ。
早くなんとかしないとな。
「まあ、お前にそう言ってもらえて、俺ちょっとやる気出てきたし、また毎日ダンジョンに入っていけるな」
「……何か、できることがあったらいいなさいよ?」
「それじゃあ――お兄様って呼んでみてくれないか」
「それは嫌」
えー。本気で嫌そうにこちらをみてきた彼女に、俺は肩を落とすしかなかった。
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