第21話


 ドリンクバーもすいてきたので、俺たちはそれぞれ目的の飲み物をコップへと注いでいく。

 由奈が先に席へと戻り、俺はその背中を見ながら小さく息を吐く。


 まあ、これが現実だよな。


 この前、霧島さんにああいってもらえて凄い嬉しかった。

 これからも探索者として頑張っていこうと思ったけど、またちょっぴり悲しくなってきたぜ。


 まあでも、仕方ない。自分で蒔いた種なんだからな。


 自分に言い聞かせるように呟いた。家族だろうが、他人だろうが、俺の道は変わらない。気にせず、俺のやるべきことを進めるだけだ。


 ……とりあえず、義妹にお兄様、といってもらう作戦は失敗に終わってしまったな。




「よし、今日から学校だからな……頑張らないと」


 自分にそう言い聞かせて、気合を入れなおした。

 朝食の席には、四人分の食事が用意されていた。由奈と貴志さんは、すでに俺たちの家に引っ越してきている。


 由奈はキッチンで母さんの手伝いをしているようだ。二人が楽しそうに話している様子を見ると、微笑ましくて、うまくやれていることに安心した。


 俺とは相変わらずだけど、まあ別にそれはいい。母さんと貴志さんと由奈が、楽しくやれているならそれでな。


「あっ、おはよう晴人」

「おはよう。由奈もおはよう」

「おはよう」


 由奈は母さんの前というのもあり、微笑とともに返事をくれた。


「由奈ちゃん、料理上手なのよ?」

「いつもはあたしが家で作ってたので」


 そんな風にやり取りをしていた。

 ……家族、か。

 結婚というのは本当に簡単なものなのだと思った。

 書類を役所に提出するだけで、結婚自体は終わる。

 母さんも貴志さんも今更式を挙げる予定はないそうで、もうこれで特別何か結婚したということを示すようなイベントはない。


 ……もうすでに俺たちは家族だ。

 母さんが俺に中々切り出せずにいただけで、水面下ではすべて話が進んでいたようで、こうして家への引っ越しもすでに完了。


「冬休みももう終わりね」


 母さんの言葉に、俺と由奈は頷いた。

 俺も由奈も、同じ高校……由奈の転校手続きももう終わっているそうだ。


 それから貴志さんが起きてきて、母さんとまあ仲良さそうな様子で挨拶をしている。

 俺たちがいなかったらおはようのチューでもしていたんじゃないかってくらいの雰囲気だ。

 朝食を終えた俺と由奈は一緒に家を出て、それからしばらく歩く。


 そして、由奈が振り返る。


「……あんたと家族なんて、絶対誰にも知られたくないから。学校では他人のフリをしなさいよ」

「了解」


 由奈と貴志さんは苗字を変えていない。

 たぶん、教師くらいしか俺たちの事情は知らないだろう。

 だから由奈が言うか、俺が言わなければ周りにバレることはない。


 由奈が先に歩いていき、俺は少し待ってから学校へと向かおうとしたが、スマホが震えた。

 またダンジョンだろうな。

 まったく、朝から寂しがり屋め!


 まあ、授業が始まってから呼ばれるよりはいいか。

 そんなことを考えながら、俺はダンジョンへと向かった。




 今日のダンジョンは絶好調だな! 最悪だよ!

 袋にしまってあったバレットソードを手に持ち、魔物たちと向かい合う。


 呼ばれて現地へと行ってみれば、5階層は地獄のような状況だ。

 シャドウ種を最高として、ジェネラル種やナイト種の魔物が大量に出ている。

 三好さんが魔道具を使って押さえこんでいなかったら、すでに決壊していた可能性がある。


 出現していたそれらの魔物を狩りまくっていくと……今度はデビル種まで出てきた。


 俺の冬休みが終わるのが嫌で寂しくなっちゃったのか? 迷惑すぎるって!


 魔石四つが埋め込まれているそいつらも倒せば……ようやく活性化は収まった。


「やっと、終わったぁ……!」


 時間にして三十分くらい。もう完全に学校は遅刻である。

 俺は汗を拭いながら、倒した魔物たちの残骸である魔石を確認していた。


 ……凄い数である。この場にいる探索者全員でも……まあ、そこそこの稼ぎにはあるだろう。

 これが普通のダンジョンだったら、これだけで皆半年くらいは生活できるだろうに……大した金額にもならないんだろう。


 それでも、三好さんを筆頭に皆がここで戦っているのは、地元を守るためだ。恐らく、その気持ちがなければここは成り立っていない。

 やりがい搾取ってこういうのを言うのではないだろうか? 社会に出るから理不尽な世の中を見せられている気分。


「晴人……助かったよ」

「いえ……皆も怪我していないようで良かったです」

「ほんと、悪かったな。今日から学校も再会だろ? 学校にはオレから連絡入れておこうか?」

「大丈夫ですよ。だいたい皆知っていますから」


 新学期などが始まったときに、よそから来た先生とかは俺の事情を知らないことが多いのだが、もう一年近くたっているのですでに現状を理解してくれている。

 まあ、この町に長く住んでくれた人なら、だいたいはダンジョンがおかしいんだとすぐに気づいてくれるからな……。


「そうか。まあ、何かあったら言ってくれよ」

「分かりました」

「それとまあ、呼んでおいてあれだが……無理すんなよ」

「大丈夫です。三好さんも、俺のこと気にして呼ばなくて怪我とかしないでくださいよ」

「ああ、分かってるって」


 いつもの通り、魔石の回収などは三好さんたちに任せ、俺は外へと出た。

 ……まったく、昨日も散々戦ってやってんだからちょっとは落ち着いてくれって話だ。

 ダンジョンの理不尽な呼び出しにため息を吐きながら、俺は学校へと向かう。急いでダッシュしていくが、遅刻だ。

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