第16話
「それで、今後の方針はどうするんですか?」
「……天草さんは、以前も同じようなことを探索者協会に報告をしていますよね?」
「え、ええまあ……」
「その際、協会はどのような調査をしたのですか?」
「……えーと、自分は特には分かりません」
「……他のSランク探索者を派遣してくれた、とかはないですよね?」
「はい。他の人たちは他のダンジョン攻略で忙しいので……誰も来れませんね」
特に日々増加しているダンジョンの出現もあり、他のSランク探索者は基本的にそちらの対応に忙しいし。
「です、よね。協会の記録を見る限り、大した調査はしていないと思います。ダンジョンの魔力異常がないかを調べ、特に問題がなければそれで終了だと思います」
「ですよね」
あいつらがやるのはそのくらいだ。
だって、俺が言っていることなんて全部嘘だって思ってるんだから。
「……今回、私の知り合いの研究員に101階層以上で収穫可能なものがあれば、それを回収して提出するという話になっています。魔石とあとは何か薬草のようなものがあれば、それを回収してほしいそうです」
「え!? 調べてくれるんですか!?」
「はい。ただ、101階層以降のものを手に入れてほしいということでしたので、ちょっとそれがお願いしても良いのかと思いまして……」
「あっ、別にいいですよ。そんじゃあちょっととってきます」
往復で三時間くらいかければ、いってこれるだろう。
前回と違って、今度は各階での測定もないのでもっと短縮できるかもしれない。
俺にとっては軽い運動だ。
そんなことを考えていると、俺の腕を霧島さんが慌てた様子で掴んできた。
「ま、待ってください。今から行く気ですか?」
「はい」
「……もしよろしければ、私も同行したいのですが」
「どうしてですか? 危ないですよ?」
「……私の目で、真実であることを確かめたいからです」
「……」
俺のことを信じてくれているわけではないからこそ、その言葉は出たんだと思う。
霧島さんは、申し訳なさそうに目を伏せてから、続ける。
「正直言います。私はあなたの全てを信じられていません。……テレビやネットなどで語られているあなたは、とても怠惰で怠け者で、どうしようもない……その人間の屑のような人じゃないですか」
「うぐっ……!?」
「も、申し訳ございません。責めるつもりで言ったのではないのです」
ネットに書かれている悪評を直接言われると胸が痛い。
でも、これほどの美人に言われるとちょっと体がゾクゾクしてくる感覚もある。
なるほど、これが言葉責めというものか。
今後はネットの書き込みを見るときは美人なお姉さんに言われていると思うようにしよう。
「……し、失礼しました。配慮にかけていました」
「いえ気にしないでください。ネットにそういった意見があるのは事実ですからね」
霧島さんに言われる分には全然構いません。
「……とにかく。私も……この目で確かめたいです。それに、今回は信頼している方に調査をお願いしますので、私もそれをちゃんと確かめたいです」
き、霧島さん……。
女神だ、女神がここにいる。
男、それも評判の悪いSランク探索者と一緒にダンジョンに入ってくれるような人は普通いない。
中で、何をされるか分かったものじゃないんだからな。
だから霧島さんは女神としか思えない。
「高階層になるので……危険な魔物も多いですよ?」
「分かっています。それでも……自分の目で確認したいんです。一人でも多く、この事実を知っている人がいれば、状況も変わってくれるかもしれませんしね」
霧島さん……。
彼女の言葉に、俺は嬉しくて涙が出てきそうになったが、ぐっとこらえる。
「分かりました。それだと、今度霧島さんの都合がつく日に行ったほうがいいですね」
「ありがとうございます。……次の土日を利用していくのはどうでしょうか? 二日かければ、行って戻ってくることはできますかね?」
「……うーん。一日もかからないと思いますよ」
「え? ま、マジですか?」
「マジです。一緒に歩いていくのであれば、確かにかなり時間がかかってしまうかもしれませんが、俺がおんぶか抱っこかで霧島さんを運べば、まあ多く見積もっても半日もあれば戻って来れますよ」
「……人一人運んで、ダンジョン攻略ですか?」
「もう今ならなんとかなると思います」
「……それなら協会の本部の人を誘拐して運べばどうにかなりますかね?」
「……い、いやそれはその……さすがに……運ぶ時に暴れられたら大変ですし」
「気絶させればいいのではないですか?」
「……さ、最終手段になりますが……それは――」
霧島さんも色々溜まっているようだ。
とはいえ、そんなことをしてもしも何かあったら大変だ。
「と、とにかく……霧島さんが滅茶苦茶重いというのであれば話は変わりますけど、普通の大人の女性くらいですよね? その見た目に詰まっていませんよね?」
「……ありませんよ。……ですが、分かりました。それでしたら、土日のどちらか、都合のつくほうでお願いします。私も特に予定はありませんので」
「そうですか。それなら1月6日の土曜日でどうですか?」
1月7日は母さんの再婚相手予定の人と会うことになってるからな。
「分かりました。……とりあえず、抱っこかおんぶか、どちらで行くかは当日までに決断しておきましょう」
「分かりました。まあ、霧島さんの体型ならおんぶでも抱っこでもどちらでも気にしませんから」
「……は?」
……あ、あれ? 失言した?
「どういう意味でしょうか?」
「……い、いやぁ……そのぉ……と、特別何か深い意味があるというわけではありませんよ?」
「ほぉ、今明らかに一部の部位を見ながら言いましたよね?」
「い、いやぁ、そんなことありませんよ? とにかくですよ。当日は、最低限の水分程度を持っていけば大丈夫ですからね! ダンジョン内にも水はありますが、だいたい汚染されてるんで慣れるまでは腹壊すんで」
「……飲んでるんですか?」
「え、まあ。俺肉体頑丈なので、問題ないんですよね」
「……びょ、病院とか行きました?」
「はい。特に問題なく、健康でしたよ」
「それなら、いいですが……危険ですから、ダンジョン内のものは口にしないようにした方がいいですよ」
「まあ、今は大丈夫ですよ」
ぐっと親指を立てておく。仕方ないじゃないか。
ダンジョンの奥地では食糧の確保が一番大変なんだからな……。
とりあえず、先ほどの失礼な視線に関しては誤魔化せたようだ。
「まったくもう……とにかく、当日は飲み物と軽食ですかね? とにかく、安全第一で行きましょう」
「はい、よろしくお願いします」
そう言ったとき、霧島さんの方からスマホの音が響いた。
「……ちょっと、失礼します。はい……えーと……支部長が呼んでるからすぐ戻ってこい? ……あー、はいはい、分かりました」
霧島さんは面倒くさそうに電話を切ってから、頭を下げた。
「申し訳ありません。なんか支部長が私を呼んでいるそうで、一度戻ります。また何かありましたら、連絡ください」
「了解です。頑張ってください」
「はい。天草さんも、活性化の対応など色々とあると思いますが、よろしくお願いいたします」
それで、俺たちは打ち合わせを終えた。
ダンジョンの深層部に同行者を連れて行くのは初めてだ。
霧島さんの言う通り、とにかく安全第一を心掛けないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます