第7話



 はい、終わりー!

 バレットソードを振り抜き、最後の一匹を消し飛びした。


 それでようやく、ダンジョン内には静寂が戻った。

 途中から、三好さんたちも参戦してくれていたので、予定よりも早く終わったぜ。


 辺りには、白い魔石のみが落ちていた。通常の個体よりも強い異常種は黒の魔石をドロップするが、それ以外は白の魔石だ。

 

 そして、魔石のサイズはどれも小さい。……ドロップした魔石のサイズが大きいほど、基本的には強い魔物と言われているし、魔石の質も良いとされている。


 魔石は現在、様々な燃料として使われているのだが、魔石が大きいほど内包されている魔力も多くなるため、そりゃあまあ単純に燃料としての価値も上がり、ガッポガッポ稼げるのだ。


 つまりまとめると、神野町ダンジョンは敵は強いのに、金は対して稼げないクソダンジョン、ということである。


 こんな田舎で、しかもダンジョンで稼げないとなると遠方からわざわざ探索者が来てくれることはない。

 結果、神野町は万年探索者不足に悩まされているというわけだ。


 俺は手元のスマホでそれらを撮影したが、画像には何も映っていない。

 ……このダンジョンはカメラなどがなぜか使えない。まあ、そういうダンジョンは珍しくなく、今も色々研究されているらしいけど。

 電話だけは繋がったり、ネットだけは繋がったり。ダンジョンによって様々だ。

 近くの魔石に視線を向けていると、三好さんがこちらへとやってきた。


「助かったよ、晴人……悪いな戻ってきたばっかりだってのによ」

「ほんとですよ。このダンジョン、俺が構ってやらないとすぐに暴れるんですから、いい迷惑ですよ!」


 ダンジョンの壁を苛立って蹴り付ける。

 わりと本気の怒りをこめての蹴りなので、蹴り付けるたびにドゴーン! ドゴーン! と激しい音がする。


「まあまあ、落ち着けって。今日初めて参加してくれた探索者の人たちがビビってるからな」

「あっ、そうでしたね。……参加してくれて本日はありがとうございます。これからも気が向いた時に参加してくれたら助かりますよ」


 丁寧な口調でにこりと微笑むと、さらに大学生くらいの人たちはビクッと肩を跳ね上げた。

 何ビビってんですか?


「逆効果っぽいな。まあ、とりあえずこっちの後処理はいつも通りやっとくからな」

「はい。任せますよ。そんじゃ俺は、ちょっと朝飯食ってきます」

「おう。また呼ぶようなことがあったら、その時は頼むな」

「了解でーす」


 お遊び半分でびしっと敬礼をしてから、俺はその場を後にした。

 神野町ダンジョンは寂しがり屋だからな。どうまた数時間もしたら「天草くんに会いたいよぉ!」とか言ってやべぇ活性化を起こすんだろうな。


 これが女の子のちょっとした悪戯なら、そりゃあ可愛いもので受け入れてやってもいいが……いや可愛くねぇし受け入れねぇよ。


 通常、こんなに頻繁に活性化するダンジョンはない。

 週に一度や月に一度。それも探索者がまったく入らないダンジョンで発生するくらい。

 ……そういう意味で、神野町ダンジョンはマジで元気一杯。


 だからこそ、他のダンジョンに挑戦している余裕がまったくない。

 協会は信用ならんし、他所からの応援も期待できない。

 こんな状況で俺が町を離れたら、一体誰が代わりに対応してくれるんだって話だ。




 ダンジョンでの鎮圧作業を無事に終え、俺はひとまず家に戻ろうと歩き始めた。その途中、見慣れない女性が立っているのに気づいた。

 スーツ姿の綺麗な女性。

 ……うん、かなり綺麗な人だ。ちょっとばかり厳しい印象はあるけど、俺としてはこのくらいは全然許容範囲内。


 OL……ではないだろう。こんなダンジョン付近を出歩く人はいない。

 第一今は1月2日であり、たぶんだいたいの会社は休みだと思う。や、休みだよね? そんな年始にいきなり働いているのなんて、探索者くらいだよね?

 あとはあれか。

 探索者協会も、緊急時の対応があるため長期休みなど関係なく動くことがある。

 ……恐らくだが、協会関係者、だろうな。


「あの……天草晴人さん、ですよね?」


 彼女は少し躊躇した様子で声をかけてきた。……嫌われているとまではいかないが、あまり好感度は高くなさそうに見える。

 ……まあ、俺のネットの蔑称をみれば、彼女の反応は仕方ない。


 あいつらが好き勝手に言うものだから、どこいっても俺の第一印象最悪なのである。

 テレビに出演するようになって、綺麗な人とお付き合いとかできるかもしれないとか思っていたのに、現実は非情なのだ。

 まあ、いつ死ぬかわからない仕事なので、そもそも本気で誰かと付き合うつもりはないんだけど。残された人が悲しむだろうしね。


「えーと……誰ですか?」


 見覚えはなかったので誰か尋ねると、彼女は名刺を差し出した。


「申し訳ありません。私は探索者協会秋咲市支部からきた職員の霧島涼子(きりしま りょうこ)と申します。この町のダンジョンについての現在の状況についての調査をしに来ました」


 俺は彼女の名刺を受け取った。

 ……やはり、探索者協会か。

 探索者協会は、探索者の管理や素材の売買などを行っている組織だ。

 あと、探索者のランクの選定もな。


 その内情は、いろいろな政府関係者の天下り先となっており、ロクに探索者のことを知らない人間たちが管理しているため、そりゃあもう色々と杜撰である。


「探索者協会の方だったんですね。協会の人が直接来るなんて珍しいですね……」


 嫌味ったらしく俺は言う。

 探索者協会は、東京に本部が置かれ、各都道府県に支部が置かれている。さらにそこから市区町村などにも配置されていくのだが……人口の少ない地域では、複数の市区町村を管理していることがある。

 この神野町も小さな町なので、探索者協会がなかった。


 だから、探索者協会の職員が頻繁に来るということはなく、現場の探索者たちは愚痴をこぼしている。


 思い出したらむしゃくしゃしてきたぜ。

 あの小馬鹿にしたような担当者の笑顔! 記憶が飛ぶほどに殴打する方法を何度もネットで調べたものだ。


 俺の言葉に霧島さんはぴくりと眉尻をあげた。


「え? そうなんですか? ……以前も二週間ほど前に調査に来ていたはずですが」

「それなら、俺が知らない間に様子だけ見に来たんですかね?」

「……いや……その……えーと……こちらの報告書ですと、天草さんに話を聞いて『問題なし』と聞いたと報告を受けていますが?」

「はぁ!? 何それ知らないですよ!」


 前の担当者、確か田上だったか? あいつ、最近全然来ないとおもったら来たことにして適当に報告してやがったのかよ!


「……もうずっと同じような報告書ですね。この度、私が新しく担当になったので改めてのご挨拶に来たのですが――」

「……それじゃあ、前に報告したダンジョンの件はどうなってるんですか!?」

「前の報告、ですか? 活性化が週に一度程度発生するというものですか?」

「それ二年くらい前に報告してるんですよ!」

「……そうなんですか?」


 ……しまった。あまりにも驚いて声を荒げてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る