第6話
撮影も終わった次の日。
現在は冬休みなので、俺も特に学校に行く必要がなく、母さんと朝食をとっていた。
テーブルには湯気が立つ味噌汁と、焼き魚が香ばしい香りを放っている。
「テレビの撮影……どうだった?」
不安そうに母さんが問いかけてくる。
「……まあまあ、色々な有名人にあえて楽しかったよ」
そう言っておかないと、母さんは心配するからな。
でも出ないとそれはそれであちこちで色々言われるからな。ま、世の中のガス抜き係として頑張りますよーという感じである。
……でもまあ、母さんは……気づいているだろうな。
その瞳はどこか優しく俺を見つめていた。
俺がまだ小さい頃に父は亡くなったので、母とずっと二人暮らしだ。
「無茶はしないでね? 母さんのこと気にしなくてもいいんだからね? 本当に嫌だったら――」
「大丈夫大丈夫。ほどほどに、うまくやってるからこっちは気にしないでくれ」
母さんは心配性なので、俺が落ち込んでる姿とか見せたら滅茶苦茶不安になるだろう。だからまあ、明るく振る舞うのだ。
そもそも、あのくらいの扱いはもう慣れたので何も感じない。
それよりもどちらかというというネットの方が問題だ。あいつら匿名なのをいいことに好き勝手言いやがるからな……。
母さんにはネットで俺のことは検索するなって言ってもやっぱ気になるみたいだからな。
あいつらはいつか開示請求してやるつもりだ覚悟しておけってんだ。
そんなことを考えながら、朝食を食べていく。
そんな穏やかな時間が流れる中、突然スマホが鳴り響く。
うへー、またかぁ。という気分である。
嫌な予感がして、すぐにスマホを手に取った。案の定、いつもの電話だ。
『晴人! 戻ってきてるよな!? また神野町ダンジョンで魔物が活性化してる!』
「またですか……相変わらずですねぇ」
『ああ、すまない! ちょっと、今回のは激しくて押さえきれない……! 今すぐ来れないか!?』
電話の相手は、地元の探索者たちのリーダー的存在である三好健吾(みよしけんご)さんだった。彼は俺より年上の30歳。
頼れるベテラン探索者だ。Cランク探索者であり、この町では俺の次の実力者だった。
「何階層ですか?」
『4階層だ! 朝からすまん!』
「了解です。すぐに行くんで、死なないように気をつけてくださいね」
『おう! まかせろ!』
いやほんとマジで。三好さんたまに無茶するんで、心配である。
スマホをしまい、母の方に向き直る。
「ってことで母さん。ちょっと行ってくるわ」
「うん……気を付けてね」
母さんが笑顔とともに手を振ってくる。
俺は箸をおいてすぐに玄関に置いてある武器を手に持ってから、家を飛び出した。
世界中にダンジョンが出現して百年近くが経った。
ここ三十年程前から、そんなダンジョンに異常な気配がみられるようになった。
それが、異常種の発生とダンジョンの活性化だ。
ダンジョンの活性化とは、内部の魔物が放置されていることで発生するようで、地方のダンジョンだと挑戦する探索者の数が少ないため、発生しやすかった。
活性化すると、魔物が強化され、ダンジョンの外にまで出てくるような個体が現れることもある。
そうなれば、町どころか国全体の危機になるため、ダンジョンはどんどん攻略していく必要があった。
だからまあ、Sランク探索者に職業自由の選択はないのだ。世知辛い世の中である。
特に、俺の地元であるこの神野町ダンジョンは……その活性化の頻度が凄まじい。
一日数回は発生するので、全国トップレベルだと思う。
まあ、この町を担当してくれている探索者協会がクソで、まったく上に報告されないので、記録には何もない。
ていうかまあ、探索者協会自体が天下り先となっていて、無能な奴の集まりとかしているんだけど。
黒い渦のようなダンジョンの入口を潜り抜け、猛ダッシュで階段を下り、一、二、三階層と通過する。
神野町ダンジョンは、一階層辺りが広大なダンジョンなので、移動にそう時間はかからない。これがもしも、壁などの多い迷路状のダンジョンであれば、移動にもっと時間がかかる。
連絡を受けていた四階層に踏み入れると、そこには大量の魔物たちが蠢いていた。地元の探索者たち……あと数名見かけない探索者たちで必死に応戦しているが、圧倒的な数の前に今にも決壊しそうだった。
「三好さん、大丈夫ですか?」
三好さんは、30代前半くらいの体格の良い男性で、短く刈り込んだ黒髪が印象的だ。
日焼けした肌と、少し顎に残る無精髭。全身は機能的な防具で固められ、今も斧を持って最前線で魔物たちと戦っている。
「なんとかな……っ! 晴人が来たぞ! これで大丈夫だ!」
「おお、来た来た! 頼んだぜ、晴人!」
三好さんの言葉に、地元の探索者たちが笑みをこぼす。
しかし、初めて俺を目にする大学生くらいと思われる探索者が、不思議そうに囁いている。
「あの人って……もしかして、世界最弱の探索者って言われてる……」
「……ネットとかでよくネタにされてる人じゃないのか?」
……たぶん、他所の冒険者なのだろう。
俺は持ってきていた武器を構え、こちらへと迫る魔物の群れへと向かっていく。
まあ、俺が否定しなくても三好さんたちが訂正してくれるだろう。
俺が軽く息を吐いていると、背後から三好さんの声が聞こえた。
「……馬鹿なこと言うんじゃねぇ」
おっ、注意してくれそうだ。がんがんいってくださいな!
三好さんの言葉が耳に届いた瞬間、俺はもっていたバレットソードを振りぬき――
「晴人は、強いよ」
――魔物を切り裂き、迫る別の魔物たちを一撃で仕留めていく。
軽くバレットソードを回しながら、周囲にいた魔物たちを一掃していく。
すべて、一撃。
一切のチャンスを魔物たちに与えず、殲滅していく。
「……すご」
「……え? え……?」
……俺だって、一応Sランク探索者だからな。
このダンジョンが色々とおかしいところがあるから、評価が微妙なものになっているだけだ。
……協会に報告したら、ロクに調査もしないで、俺の言葉を嘘と断定しやがる。
協会がそういったのだから、周りも同じように否定してくるのだ。
昨日の撮影だって最初断ってたのに、将来の探索者を増やすためのイベントで人が足りないから来いって桐生さんと協会からの命令で仕方なく行ったんだからな……!
何が「どうせ暇なんだから断るなバカ」だ! 暇じゃねえよ! 何度報告しても、嘘つき呼ばわりしかしないんだから、マジであいつら全員大嫌いだ。
全ての怒りを叩き込む相手は魔物たち。全員の顔を、桐生さんや協会職員たちに見立ててバッサバッサと切り伏せる。
困惑した様子の探索者たちの声の中。俺はバレットソードに魔力を籠め、砲撃を放つ。
バレットソードは、銃と一体化した剣だ。
俺が最初に選んだ武器で「使いにくい」と言われがちな代物だが、そんなの知らん。
俺がこいつを使う理由はただ一つ。
ロマン。……最初はな。今となってはもっと無難な武器にしておいたほうが良かったかもとは思っている。世間では、『もっと使いやすい武器にすればいいのに』と言われてしまっているし。
剣と銃が合わさってるんだから最強に決まってる。カレーとカツが一緒だったら最強なのと一緒。いや、俺カツカレー嫌いだけど。
……今では、これが一番俺にとって使いやすい武器になっているのでずっと使っている。
こいつには魔力を弾丸として発射するギミックがあるが、剣としてもその切れ味は申し分ない。
魔力を流し込み、剣の切れ味を強化することも可能だ、
振り下ろすたびに、魔物が次々と消し飛んでいく。
さらに、加速する。俺は自分が持っている身体強化系の異能――『オーバーフォース』を発動する。
俺の持つ異能は桐生さんが名付けてくれたものだ。
ていうか、あの人がSランク探索者の異能を勝手に名付けている。なんかそういうの好きらしい。
正直いってあまり好きではない名前だが、もう定着しちゃってるのでそのまま使ってる。
まあ、神崎の……氷姫よりはマシである。……世間ではもう氷姫が定着しているとはいえ、それは今の神崎の容姿込みでのものだろう。
……老婆になってからもその異能名で行くのだろうか? それとも氷老婆に改名するのだろうか?
ちなみに、俺の異能はネットで「ハズレ異能」と馬鹿にされまくっている。
異能や魔力所有者はそもそも身体能力が高いので、あまり役に立たないとされているからだ。
そりゃあ俺だって、神崎や桐生さんみたいに氷出したり、雷放ったりしてみたかったというのが本音としてはあるしな……。
剣を振りながら、敵の群れを撃ち抜いていく。
銃撃と剣撃を組み合わせたバレットソードの利点を活かし、俺は魔物たちを倒していった。
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