第2話

 2030年1月1日。

 高校に進学してからもう結構経つなぁ、とか呑気なことを考えながら、俺は顔を上げた。

 場所は都内のスタジオ。

 新年特番の生放送スタジオに呼ばれていた俺は、たくさんのスタッフやいくつものカメラの前で、ぴしっと背筋を伸ばした。


 今日は何名かのSランク探索者を集めて生放送が行われるのだが、それに俺も呼ばれていた。


 ……Sランク探索者として、何度もこういった場には呼ばれている。

 そんだけ、Sランク探索者が人気の職業というわけだ。


 俺の隣には同じSランク探索者である桐生大樹さんと神崎凛も座っている。

 桐生さんは25歳、神崎は俺と同じ16歳だった。

 どっちも俺よりも容姿が整っているため、こう言った場に出ても浮かないから羨ましい。


「それじゃあ、本番始まります!」


 そんな声が聞こえると、すぐに本番開始の時間となる。

 開始前のカウントダウンが行われ……司会の方が声を張り上げた。

 最初に僅かに小粋なトークを挟んで場を盛り上げたところで、司会の人が俺たちへと視線を向ける。


「――というわけでして! 本日はなんと! 特別ゲストとして日本に7人しかいないSランク探索者のうち、なんとお三方にお越しいただいております!」


 俺たちが声に合わせて頭を下げると、スタジオの観客たちが拍手を送ってくれた。


「まあ、皆さん知らない人はいないと思いますが……まずは各探索者の方々を紹介していきましょうか! トップバッターはもちろん、この方! 我が日本のエースにして超イケメン! 日本最強である桐生大樹さんからの紹介になります!」


 観客たちが盛り上がっていく。……まあ、桐生さんのファンって滅茶苦茶多いからなぁ。


「昨年度の異常種の討伐数は125、そしてダンジョン攻略数は67と、堂々のトップでございます!」


 桐生さんは事前の台本通り、その場で椅子から立ち上がり、多くの人を魅了する笑顔とともに手を振る。

 そんなことをすれば、凄まじいまでの黄色い歓声で溢れていく。

 その余裕っぷりはまさに「現代最強のSランク探索者」と言わんばかりだ。テレビ出演などが多い桐生さんにしてみれば、こういった場所にも慣れたものなんだろう。


 桐生さんが席に座ると、次第に拍手なども収まっていく。一部熱狂的なファンの声がまだ残っている中、司会者は続けるように神崎へと視線を向ける。


「続いてはこの方! クールビューティ! その氷の異能と氷の表情ですべてを凍てつかせる神崎凛さんの紹介になります! 昨年度の成績は、異常種の討伐数60、ダンジョン攻略数10! 高校生で学業と両立してこの成績は本当に立派ですねー。さすが氷の華!」


 神崎は軽くお辞儀をすると、今度は恐らく神崎のファンと思われる人たちからの野太い応援の声が響いた。

 神崎は特にそれまでと変わらない表情で席に座る。特に、愛想を振りまくということはないようだ。

 司会者が「いやー、相変わらずクールですねー」と呟きつつ、最後……俺へと視線を向ける。

 いよいよ、俺の番だ。


「さあ、そして最後は天草晴人さんになりますね! 恐らく、その知名度はすべてのSランク探索者の中でも最上位にあるでしょう!」


 ……でしょうね! 生まれる前から盛り上がってたみたいですもんね!


「昨年度の成績はなんと……異常種の討伐数10! ダンジョン攻略数は0! 10!? 0!?」


 司会が大げさに声を張り上げると、笑い声があちこちから上がる。

 俺がここに呼ばれた時点でオチ担当のは知ってるよ! もうこういう扱いにも慣れたってもんだ。


「そしてなんと! 日本で行われているSランク探索者ランキングでは堂々の4年連続Sランク最下位! 『世界最速』の二つ名を『世界最弱』へと切り替えたSランク探索者です!」


 うっせーよ! こっちだって色々事情あるんだよ! バーカ!

 観客席から笑い声が漏れていく。

 司会者がわざと大げさに煽るのはいつものことである。

 俺もそんな弄りには慣れているからな。

 前二人のように席を立ちあがり、元気よく手を振るのだが、拍手は少ない。


「あれ、なんか滅茶苦茶拍手少なくないですか! ほら、皆さん! とりあえず前二人くらいになるように盛り上げてください!」

「おお、盛り上がってきましたね!」


 そんなこんなで周りが煽ってくれる。

 くそぉ、いつもこんな感じでオチ担当として使われてしまうのが俺だ。

 先ほどの紹介にもあったように、俺の成績はあまりにも微妙だ。

 学生なんだから、とは言い訳にならない。だって同じ立場の神崎があんだけの成績を残してんだからな。


「あははー、いやー相変わらずですねー」


 司会が爆笑していく。

 な、殴りてぇ……。

 怒りは胸の奥におさめながら、俺は席へと座りなおす。

 そして、全員の自己紹介も終わったところで本格的に番組は始まった。

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