第10祟!見せろ!キズナの炎!後編
「れ、レディ……」
「「ブレイク!!!!!!」」
開戦直後、敵対するバシラとヒトミは同じ行動に出た。
即ち、直進。
ブレイカー同士のぶつかり合う軌道である。
「い、いきなり正面衝突でヤンスか~~~~~~っ!!??」
「否」
ヒトミの小さく呟く声は、ハカセまで届いたかどうか。
しかしたとえ聞こえずとも、結果こそがすべてを語る。見よ。
ヒトミの足元は水を纏い、勢いと量を増し、大波を足場にするかのごとく容易くバシラの頭上を超えていく!当然、炎を纏ったバシラの拳はヒトミには届かない!このままでは、オキツネサマのホコラへと一直線である!
「ッ!!」
「くだらん。このまま水をぶつけて終いだ。常時顕現が可能だろうが、やはり貴様も有象無象と変わらんか……」
「へっ、ほんとに避けられたと思ったか?」
何?と問う暇もなく、足元が膨れ上がるのにヒトミが気がつく。
波の制御が乱れ、体勢が崩れている。そのさなかでも冷静に思考し、理解する――答えが出るまでの速度は1秒にも満たぬ。
「――熱か!」
「へへっ!炎は水に弱い、だけじゃねえだろ!?」
「チィッ!!」
幸い、水は流体である。制御できぬ部分は切り離せば、ただの熱湯として地面に落ちる。神気によって形成されたフィールドからは当然ブレイカー以外は入ることまかりならぬため、敗者達は追い出され、火傷することもない。
「片手に纏う程度の炎でこの熱量とは、確かに多少はやるらしいな。だが!」
ブレイカーもまた、神気で守られているために負傷など滅多にすることはない。それでもなお感じた熱。沸騰、水蒸気。おそるべき炎。
だが――たとえそうであろうと距離は稼いだ。ヒトミが先にホコラにたどり着いたことに変わりはない。依然、バシラのピンチだ!
「すべては無意味。圧倒的強者の前に潰えるが良い!『
「あ、あれは~~っ!!みんなをやっつけたアイツの必殺技でヤンス~~~~ッ!?」
ヒトミの宣言に呼応して、堅牢堅固なホコラの上で、目元を伏せたミズチが片手を前に差し出した。それは怯えた少女の乞い願うさまか、あるいは己を差し出すさまか。どちらにせよ神には似つかわしくないおずおずとした振る舞いで、しかし、溢れる神気と歌声は、間違いなく神の御業である。
《――♪》
ざばり。ざばぁん。
飛沫を上げる濁流は、さながら飲み込まんとする大蛇の顎か。
ざざざ、と容赦なく迫る破壊の音。待ち受けるだけのオキツネサマのホコラは、いかにも頼りなく見えてしまう。
――ここでホコラブレイカーのルールについておさらいしよう。
みなさま御存知の通り、ホコラブレイカーでは基本的にホコラゴッドの直接攻撃は不可能である。
基本は相棒たるブレイカーに能力を貸すのみ。自らのホコラが攻撃されたときに初めて強力なタタリパワーが充填され、カウンターが可能だ。あるいはシンコウバリアの防御体勢であれば攻撃を食らう前から使用可能だが、これを使っているうちは神はホコラを壊そうとするブレイカーに反撃できない。
(普段のバシラくんとオキツネサマは、二人して攻撃ガン振りのバリア不使用スタイル。少し殴られてもタタリパワーの圧倒的な炎の力で敵ブレイカーが近寄れなくなるし、そのスキにバシラくんが相手のホコラをぶっ壊しちまうでヤンス。でも、今回は……!!)
先手、そして水の物量。
いかに高熱を操るコンビいえど覆すには容易くない形勢。
タタリパワーは強力でこそあれ、ダメージを負うのが前提の行動。ハカセが懸念するのも頷けることと言えよう。
加えて、さらなる不利がある。
「ウオオオ、爆裂キツネビパンチ・改!!!!!!」
振りかぶったバシラの拳は、炎の噴射を伴って高速で突き進む。
熱血直情たるこの少年とて当然無策ではなかった。
相手に追い越されたのならば、それ以上の速度で相手のホコラをブレイクすべし。本来攻撃に使われる炎を高速移動に応用することで、オキツネサマに濁流がたどり着くよりも早くミズチのホコラへ攻撃は届いた。後の先である。しかし!
「かっ………てぇ~~~~~~~~ッ!!??」
ギィ、ン。
甲高い音は、パンチの弾かれる音である!
「そ、そんな!!バシラくんのパンチが通じないばかりか、跳ね返されるなんて!?見た目の通り防御系のホコラってことでヤンスか~~!?」
「それだけではない。よく見るがいい!」
「こ、こいつァ……石のホコラの表面に、うっすら青い光の壁がありやがるッ!」
「そう!貴様のような愚か者を蹴落とす為の、シンコウバリアだ!攻撃に神気の大部分を割いてなお最高硬度を出すために、最小限のサイズで展開してある!!」
「なるほどな……!しかもちっちぇから見え難い!バリアのこと計算しねーでつっこんできたやつを今みてーに弾き返せるってワケかよ!」
「先ほどといい、存外頭も回るか。だがもう遅い!」
豪炎の拳が跳ね返され、もんどり打ったバシラが会話と共に起き上がるまさにそのとき、ついにそれがたどり着く。
轟音。波。水。ホコラを飲み込む、ミズチの大顎。
観客が息を飲む間もなく、みしり、みしりと。
《では――速度比べじゃな》
「……何?」
それまで静観していたオキツネサマが、にやりと笑う。
哀れな木造のホコラが呑まれて崩れるそのさなかで。
(――なんだ?バリアも貼らず、今さら速度比べ?ここからタタリパワーで『
「――違う。違う、まさか!!!」
《そのまさかよ。……バシラァッ!!!》
「おうっ!!!!!」
その時、ヒトミにはすべてがスローモーションのように感じた。
オキツネサマのホコラが消し飛ぶ、そのギリギリの寸前。膨れ上がる膨大なタタリパワー。そして――そして、一度弾かれこそすれ、バシラは、ミズチのホコラの眼前に――
(最小限で出来る最高硬度……硬質のホコラと合わせ、強力な攻撃型のブレイカーにも耐えられるように。だがそれは、真っ当な範囲での攻撃型にもだ。奴の全力の炎にも耐えられるはずだ――真っ当なら。だが。だが……そこに、タタリパワーが加わったなら!!》
「爆裂ッ!!!!!!!キツネビィッ!!!!!」
「み、ミズっ」
「タタリフレイムッ……パァ~~~~~~~~~~ンチッ!!!!!!!!!」
《……で、ある♪》
――世界が、爆炎に包まれた。
*
「――――ホコラを崩壊寸前まで追い詰め、そのタタリパワーの出力をすべてブレイカーに集中させる、か。……正気の作戦ではない。ほんの数秒の差で自らが敗北するというのに」
「へっ、残念ながらいたって正気だぜ!俺とオキツネサマには……」
《信頼があるから、の。バシラならできて当然よ》
勝負は、ギリギリで決した。
オキツネサマのホコラにも当然ダメージはあったが、ヒトミ・ミズチコンビの敗北が決定した瞬間に神気フィールドは消失、水も炎も夢のように立ち消える。よって、それは修繕可能な大ダメージに収まった。
「し゛ん゛し゛て゛ま゛し゛た゛で゛ヤ゛ン゛ス゛~~~~~っ!!!ええ~~~~~~~ん!!!!!」
《おうおう、ハカセは泣き虫じゃのう》
「だって、だって……ほんとにぎりぎりでえ………」
《ほほ、修繕の上手いぬしがおればこそ、このような作戦がとれたのじゃ。ぬしにも感謝しておるぞ、ハカセ?》
「ああっ!感謝感激爆熱ファイアーだぜっ!!」
「う゛う゛~~~~~~~っ……でも次からは事前にいっといてでヤンス!!心臓に悪いでヤンスぅ~~~~~~ッ!!!」
げしげしと脚でバシラの脚を蹴飛ばし、オキツネサマに頭を撫でられながらも、ハカセは器用にホコラの修繕をする。中学生らしからぬ見立て、補強速度。しかし、彼女の腕でもなお直せぬほどに損壊したホコラが、この公園には無数に転がっている。たとえ勝敗が決しようとも、その事実は変わることはない。
「……ヒトミつったな」
「謝罪しろ、というのだろう?大勢のホコラを再起不能に破壊した責任を取れと」
「いいや、口先だけのごめんならいらねー。俺は大事なことをわかってほしいんだ」
「大事なこと、だと?この期に及んで……」
バシラが指したのは、ヒトミの……ミズチのホコラである。
破壊されてはいる。傷ついてはいる。だがそれは尋常の範囲内。再建可能なダメージである。
傍らに申し訳無さそうに佇むミズチもまた、傷だらけだ。じゃらじゃらと鎖を引きずり、青い髪に顔を隠して俯いてはいる。しかし、取り返しのつかないほどの損傷を受けてはいない。
「爆熱キツネビタタリフレイムパンチな。あれ、ぜんっぜん手加減せずにやったぜ。それでもぶっ壊しきれねーって確信したからだ」
「……ふん。私の防御型のカスタムは並大抵ではないからな」
「それもあるがそれだけじゃねー。ミズチだ。あのとき、ミズチのバリアも強力になるのを感じた。……お前の指示だろ。ギリギリで名前呼んでたよな」
「……」
「ミズチも、あれだけで防御固めるっつーのを理解したわけだ。お前は支配とかなんとかまた言うかもしれねーけどよ……そんだけ意思疎通が取れてるのってよ」
《信頼、とは言わんかや?》
にやり、と悪戯っぽくオキツネサマは笑みを向ける。
からかう意図こそ大きく出ているが、そこには間違いなく、人と神との親愛を好ましく思う色がある。ぴこぴこ揺れる炎の尾は、彼女の機嫌の良いしるしだった。
「信頼。……信頼だと。私と、ミズチの間に」
《――、――……》
「……ミズチ」
「今すぐ結論出せとは言わねーよ。トモダチとか愛の種類だって、人の数だけあんだろーからよ。お前らの関係だって俺達には理解できねーものかもしれねー。だけど、ちょっとでも……ちょっとでもお互いに大事だって思えたらよ」
バシラの目は、真剣である。
ともすれば戦闘のさなかよりも、戦う前の怒りよりも、ずっと強い熱かもしれない。少なくとも、ヒトミはそう思った。
「そしたら、改めて皆に謝りにきてくれ。みんなにとってどんだけの重さがあるものをぶち壊しちまったのか、そうなったらわかるだろうからよ」
「…………わかった。約束する」
「おう!」
「それと……私と、ミズチで粉砕してしまったホコラは……通常のサイケンキットで修復不可能になってしまったホコラは、ホコラ研究所にもっていけ。連絡しておくから直ぐ取り合ってもらえるはずだ。費用は、私のほうでなんとかする」
「ほ、ホコラ研究所でヤンスってぇ~~~~~~ッ!!!??」
「うおっ、なんだよハカセ!!」
これまた器用に修復の手を止めぬまま、がばりと大きく身を乗り出した。
メガネの奥のハカセの双眸は、星もかくやとばかりに輝いている。
「ホコラ研究所なら確かに直せるかもでヤンスけど……こんないくつものホコラをホイホイ持っていってもそんな簡単にはいかないでヤンスよ!?それをなんか……伝手がある的な!?口調でしたけど!?ど、どういう……?」
「……どうでもいいだろう。行くのか、行かないのか」
「もちろん行くぜ!!直して貰えるに越したことはねーからな!なっ、みんな!ハカセもなんか興味ムンムンだしよ!よくわかんねーけど!」
「け、研究所に……!?見学………!!??マジでヤンス……現実でヤンス……!?い、いや皆のホコラが優先、僕の欲望を優先ヤンスしてはいけないヤンスヤンスヤンス~~~っ!!!」
《……ハカセ、それでよく手元が狂わぬのう》
公園は、あっという間にがやがやと騒がしくなる。
戦いの熱気とも違う。
ヒトミの蹂躙したときの、絶望のうめき声とも違う。
それは、希望に満ちた騒がしさだ。
「……じゃあな。私は行く」
「おうっ!待たな、ヒトミ、ミズチ!二度とこんなことするんじゃねーぞ!」
「ヤンスヤンスヤンス……はっ!ま、まったくでヤンス!せいぜい気を付けて帰るでヤンス!!」
《ふふふ、ではのう》
「……………ふん」
自分に向けられたのが、怒りばかりではない。
その事実に、少しだけ胸が痛い。何故だろう、とヒトミは困惑して。
《……―――》
傍らの女神が変わらずいることに、少しだけ、ほんの少しだけ――痛みが和らいだような、気がした。
*
「ハカセでヤンス!いや~も~、バシラくんとオキツネサマには困ったもんでヤンス!もっとこ~傷つかない作戦とかできないんでヤンスかね~?ま、まあ僕の腕前が信用されてるのは?嬉しいんでヤンスけど?でもでも次はどうなるかわからないでヤンスから、この機会にい~~~っぱい研究所のワザを盗む……もとい見学させてもらうでヤンス!遠慮なんかしないでヤンスよ~~~!!
次回、11祟!出た!ホコラ研究所のオンネン博士!次回も、ぜ~~~ったい見てくれでヤーンスッ!」
熱血!ホコラブレイカー! 虚数クマー @kumahoooi
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