第10話・夏だ!山だキャンプで百合盛り……真夏の夜は百合の誘惑でいっぱい〔夜中編〕

 夕暮れ時──揺れるキャンプファイヤーの炎を並んで見ながら、由比がしきりに夕夏に詫びていた。

「昼間はごめん、どうかしていた……あの変なハート模様のキノコ食べてからの記憶が断片的に途切れている」

「もういいよ」

 過激な水着から、洗濯して乾燥した衣服に着替えた夕夏が、炎の中に小枝を放り込んだ。


 炎の周囲に集まっている百合女たちに、牛刀 マシュマロが言った。

「うふふふ……それでは、みなさんのお待ちかねの【肝試し大会】を開催しますぅ……あらかじめ選んでもらった、アミダクジで脅かす【オバケ役】と【脅かされる役】は決まっていますからぁ……うふっ」


【脅かされ役】のメンバーは。

 乙女坂 夕夏

 式条 由比

 月霞 ススキ

 矢羽 詩南

 リズボス・愛娜・アシモフの五人。


【オバケ役】で脅かすメンバーは。

 李・梨絵

 アリューシャン・巫女

 妹尾 星美

 魔樹奈マキナ

 リリンの五人だった。


 夕夏が炎の近くに集まっている百合女たちを、見回して言った。

「あれっ? 肝試しのオバケ役メンバーのリリンって、最初からキャンプに参加していたっけ?」

 夕夏の疑問にマシュマロが答える。

「リリンさんは、今回のキャンプは肝試しがメインみたいで気合いを入れていて、最初からオバケ役を切望してメイクに専念していました……今は小学校の廃校でスタンバっているはずですわぁ」


「廃校? この近くに? 初耳だけれど」

「うふふふっ……遠方から移築したのですぅ。普段はイベントで利用して、ライブなんかを体育館で開催していますぅ」

「肝試しってどうすればいいの?」

「校舎の理科準備室にある、人体模型が口にくわえている、百合花の造花を持ち帰ってくるだけですわぁ」


  ◆◆◆◆◆◆


 リリンを除いた、オバケ役のメンバーが、暴走族の落書きも一緒に移築された廃校に先に入り。

 数十分後に割れたガラス窓にライトの明かりが照らされ、準備完了の合図があった。

 腕にしがみつく由比の頭を、軽く撫でながら夕夏が言った。

「それじゃあ、廃校に入って百合の造花を持っていますが……誰が入ってもいいの?」

 マシュマロが、OKサインを出す。

 夕夏が愛娜に命令する。

「愛娜、校舎に入って造花を取ってきて……あなた、機械なんだから怖くはないでしょう」

「はい、ご主人サマ……あたしはアンドロイドなので、全然怖くはありません」

 なぜか、服を脱いで裸身になった愛娜がスタスタと、真っ暗な廃校の並んだシューズボックスの前に立つ。


 しばらく裸で暗闇の通路を凝視する愛娜。

 クルッと夕夏の方に向き直すと。

 大声で叫びながら、その場から、逃げ出した。

「ムリ、ムリ、ムリ、ムリ! やっぱり怖ものは、怖い! ご主人サマごめんなさーい」

 キャンプ場の方向へと走り消えていく裸女。

 それを見た夕夏が呟く。

「愛娜、逃げた……しかたない、ススキあなたは自称幽霊だから、こんな真っ暗な校舎平気……」

 振り返った夕夏は、しゃがんで線香花火をしている、月霞 ススキを見た。

 ススキは、ブツブツ言いながら線香花火の火花を眺めていた。

「線香花火……キレイ……オバケなんかいない、オバケなんかいない、オバケなんかいない……あははっ」

 ススキは現実逃避していた。

 呆れ返る夕夏。

「使えない……しかたない、あたしたち三人で肝試しやろう」

 詩南が木刀を握りしめて言った。

「先頭はわたしが務める夕夏、ランタンの照らしを頼む」

 詩南が先頭を進み、腕にオプションでしがみついた由比と一緒に、ランタンを持って夕夏が続いて夜の廃校に入った。

 不気味な夜の学校の廊下──壁には子供の絵や行事告知の用紙が貼られている。


 マシュマロから渡された地図を頼りに歩いていると、何か柔らかくて湿った細長い束のようなモノが由比の額にピトッと触れる。

「ひッ!」

 夕夏がランタンで、照らすと、それは天井から釣り糸で吊るされたコンニャクの白滝だった。

 詩南が木刀の先で、白滝をつつきながら言った。

「古典的な脅かし方だな」

 揺れる数個の白滝を眺めていると、前方にライトの明かりを顎から照らした梨絵が現れた、それを見て絶叫する由比。

「ぎゃあぁぁぁ!」

 梨絵が言った。

「もっと驚いてよね、切れやすい白滝を釣り糸で縛って天井から吊るすの苦労したんだからね……次の廊下の角を曲がると足下に注意して転ばないようにね」


 ライトが床に向けられ、廊下を奥へ走り去っていく梨絵の姿があった。

 廊下の角を曲がると、足元に柔らかい湿った感触……カンテラで照らすと、水で濡らしたスポンジが敷いてあった。

 そして、前方には青白い小さな人魂が揺れる……悲鳴を発する由比。

「ヒィィィ!」

 人魂が床に落ちて、夕夏がランタンで照らすと、りん光の人魂コットンを吊った小型ドローン落ちていて、梨絵の声が聞こえた。

「しまった、ドローン本体の電池が切れた」


  ◇◇◇◇◇◇


 廃校を進んでいくと、前方に銀色の宇宙人マスクをかぶったステージ衣装の星美が立っていた。

 夕夏たちが無言で星美の横を通過する。


 そして、二階に上がるとそこに頭に角を生やした魔王が立っていた。

 肝試しを最初から勘違いしている、魔王のコスプレをしたマキナが言った。

「ここから、先へ進みたかったら〝華金〟〝飲みニケーション〟魔王の私を倒して行くか、百合生贄で夕夏を置いていけ〝マジ卍〟」

 詩南が木刀一閃、マキナを斬るフリをする。

「魔王征伐!」

「ぐおぉぉぉ、やられたぁ!」

 昭和の小芝居コント。

「また、つまらぬ魔王を斬ってしまった……安心しろ峰打ちだ、夕夏は渡さん……夕夏、先へ進め。あははははははっ」

 マキナも笑い出す。

「あははははははっ」


 木製の校舎に響き渡る、百合女二人の笑い声。

 やがて、笑いが止まり詩南とマキナは、取り出した『救護』と書かれた腕章を腕に巻いた。

 詩南が言った。

「実はマシュマロに、頼まれて肝試しの最中に、具合が悪くなったり、リタイヤ希望の者が出た時の救護役をわたしと、マキナは頼まれていたのだ」

「夕夏には〝アン信じられブル〟だっただろう……わたしも、最初にマシュマロから救護役を聞かされた時は〝今日、耳、日曜〟だった」


 夕夏は、下を向いて怯えて夕夏の腕をつかんだままの由比を連れてマキナと詩南と別れ、二人だけで理科準備室へ向かった。

 

  ◇◇◇◇◇◇


 音楽室の前を通ると、ピアノの音と梨絵の。

「装置が上手く作動しないな……夕夏が来る前に調整しないと」

 そんな呟きが聞こえてきて、音楽室前の通路には包帯をグルグル巻きにされた、イモムシ状態の女が嬉しそうな呻き声を発していた。

 ミイラ女になった巫女が言った。

「放置プレイの尋問にも、わたしは屈しない……夕夏、わたしを踏みつけて先へと進め」

 夕夏は巫女ミイラを無視して先へと進む。

 

  ◇◇◇◇◇◇


 トイレの前まで来た時──由比が夕夏から離れて、立ち止まった。

「どうしたの? 由比」

 由比の股間から、生温かい液体が勢い良く放出され、床に倒れた由比は意識を失った。

「由比、まさかずっと我慢していたの? 救護班! 由比が放尿して倒れた!」

 由比は、詩南とマキナの救護担架たんかに乗せられて運ばれていく、運ばれていく途中……意識を失っているはずの由比の口から、由比とは別人の少女の声で。

「理科準備室は、この先の突き当たりの部屋です……その前にカッパが現れます、頑張ってください夕夏サマ」

 そう呟くのが聞こえた。


  ◇◇◇◇◇◇


 理科準備室の部屋プレートが見えてきた時──夕夏の前に廊下横の部屋から、カッパに扮したリリンが飛び出してきた。

「利根川の『ネネコ・カッパ』です……ボディペインティングだけで数時間かかりました、驚いてください」

 夕夏は、緑色のカッパのコスプレをした、リリンの体を凝視する……どう見ても、リリンは裸だった。

「もしかしてリリン、裸体に直接ボディペインティングしている?」

「はい、お腹のところエアーブラシで濃淡を出しました……どうですか、本物のカッパみたいでしょう」

「本物のカッパと聞かれても、見たことないし」

「張り合いないですねぇ……それじゃあ、こんなのはどうですか」


 リリンは、素早い動作で夕夏の背後に回ると、夕夏を抱きしめて言った。

「〝カッパ憑き〟です、夕夏さんは発情してエッチな百合になりました、あたしと百合エッチなコトをしたくてたまりません」

「そんなコトあるはずが……んんんッ」

 横を向いた夕夏が、リリンとキスをする。

(なに? 急に体の芯が熱くなって……リリンとキスをしたくなって?)

 リリンの手が背後から、夕夏の胸に伸びて触る。

「んんッ……ダ、ダメェ」

 そして、リリンの片手が夕夏の下腹部へと伸びた時──走ってきたマキナが、リリンを夕夏から引き剥がして。

 プロレス技の首締めで、リリンの意識を失わせる。

「キュウッ」

「後輩でも、こんなどさくさ紛れの、抜けがけは許さない……リリン、夕夏に〝カ゚ーチャー〟して謝りなさい……夕夏、理科準備室に行って〝マジ卍〟」


  ◆◆◆◆◆◆


 理科準備室に入ると、成人女性の人体模型の口に百合の花がくわえられていた。

「なんか、怖いというよりも、エロい人体模型ね」

 夕夏が百合の造花を手にすると、校舎内に明かりが灯った。

 百合の造花を持って、廃校を出ると由比を除く百合女たちが夕夏を拍手で出迎えてくれた。

「おめでとう」

「おめでとう」


 少し照れている夕夏の背後を眺めているマシュマロが、首をかしげる。

「あらぁ、夕夏ちゃんの後ろで微笑んでいる、大正時代の女子学生のコスプレをした女の子は誰かしら?」

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【あたしが出会う女がなぜか百合ばかりで、このままだと百合ハーレムに組み込まれてしまいそうです】 楠本恵士 @67853-_-

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