第2章・季節百合イベント開始

第7話・花見の席は百合が満開?そんなのあり得ない?死語魔王コスプレーヤー百合女【摩樹奈〔マキナ〕】登場

 尖塔が並ぶピンク色の洋風城の敷地内に、植えられたソメイヨシノ桜の並木道は満開だった。

 咲き乱れる桜の花の向こう側に見える、ピンク色の尖塔城は、花見シートに座った夕夏がタメ息を漏らすほど素敵な光景だった。


 花見主催者の牛刀 マシュマロが、牛胸を揉みながら言った。

「うふふふっ、百合女のみなさん……今日はゆっきりと、花見を楽しんで行ってくださいねぇ」


 ここは、牛刀 マシュマロが住んでいる城の敷地にある。

【春の百合ゾーン】

 春の花々が植えられている庭園。

 サクラの樹の下にある芝生に敷かれた、花見シートの上にはマシュマロから招待された、百合女たちの姿があった。

 マシュマロが言った。


「高校生の方はジュースで楽しんでくださいねぇ、重箱の中には高級料亭の料理も入っていますからぁ」

 豪勢な重箱の中の料理に、月霞 ススキが目を輝かせる。

「幽霊のあたしも、食べていいんですか?」

「もちろんですわ、お供えだと思って遠慮しないで乾杯の後に食べてください」

 マシュマロに招待された花見の百合は。


 乙女坂 夕夏

 式条 由比

 李・梨絵

 月霞 ススキ

 矢羽 詩南

 妹尾 星美

 アリューシャン・巫女

 リズボス・愛娜・アシモフ


 マシュマロが、カップを手にして言った。

「それでは、みなさんとの出会いを祝して乾杯!」

 各自が飲み物で乾杯する。

 花見の百合宴がはじまった、桜並木には花見のためだけに、マシュマロが呼んだキッチンカーが並び食べ物の香りが漂ってきていた。


  ◇◇◇◇◇◇


 夕夏は、ススキが重箱の前に線香を立てて、両手を合わせているのを見て、咄嗟に横を向いて飲んでいたビールを思わず口から吹き出す。

「な、なにしているの? いったい?」

「なにって、幽霊のお添え物ですから、念仏を唱えてから頂こうと思って」

 ススキは、持参した仏具のリンを打ち鳴らす。

 線香の香りに顔をしかめる夕夏。

「やめてよぅ、花見なのに」

 夕夏の隣から、巫女の嬉しそうな声が聞こえてきた。

「ふふっ、その程度の拷問では、わたしは口を割らんぞ」

 花見の場違いに持ち込んだパイプ椅子に座った巫女が、後ろ手に自縛して、夕夏からビールを吹きかけられた姿で言った。


「さあ夕夏、わたしを尋問しろ! 拷問しろ! どうだ、鍛えた腹筋に腹パンチをしてもいいぞ……わたしは拷問に屈しない……わたしは劇団員で事務職をしている。はっ! しまった夕夏の心地良いビール拷問を受けて、思わず自白してしまった」


 炭酸ジュースで気分酔いした、ススキが夕夏に抱きついて言った。

「夕夏お姉さまぁ、トイレに行きたくなりました……一緒に広いトイレの個室に入りましょう」

「一人で行け」


 高校生の愛娜がいきなり、脱ぎ出して裸になる。

「ピピピ……ご主人サマ、健康チェックの時間です。あたしの口の中にご主人サマの唾液を流し込んでください」

「服を着ろ!」


 空を見ていた、アイドル衣装の星美が言った。

「星美の頭の中に、宇宙からのメッセージが届きました……あの方向の宇宙空間からです、夕夏さんと胸の揉み合いをしなければ隕石が地球に落下すると」

 晴天の空に、燃え尽きて消えていく流星の光跡が見えた。

「勝手に自分の胸を揉んでいなさい」


 傍らに木刀をおいて、一人静かに飲酒をしている詩南が呟く。

「今は、他の者に夕夏の身は預ける……夕夏の体は、わたしの女人衆道の相手役に決まっているのでな」

「勝手に決めないで! あたしはモノじゃない!」


 少し酔ったマシュマロが、夕夏の顔に牛乳胸を押しつける。

「うふふふ……さあ、夕夏ちゃん、授乳のお時間でちゅよぅ」

「うぷっぷぷぷっ」

 もうメチャクチャな、百合女たちの花見だった。


  ◇◇◇◇◇◇


 花散らしの春風が軽く吹き抜け──少しだけ舞い散る花弁の小道を、夕夏たちの方に向って歩いてくる2つの人影を見た。

 一人はキッチンカーで無料で提供している、中華塩焼きソバを食べながら歩いてきた。

 頭に魔王のような横角をつけて、顔には魔王メイク、黒いマントと腰に西洋の剣を提げた、ブーツ姿の女性だった。

 もう一人の人物は、女魔王から少し離れた後方からついてくる。

 メイド服をきて、顔に奇妙なメイクを施した女性だった。

 日焼けしたような小麦色の肌色に顔を塗って、目の周りだけ逆パンダのように白い。


 夕夏が魔王の後ろから歩いてくる、銀髪メイド服の女性の顔を見て心の中で呟く。

(なにあの顔? まるで化け物じゃない)

 女魔王がマシュマロに向って言った。


「キッチンカーの食べ物が全部無料なのは〝マジ卍〟でありがたい、さすが金持ち聖母で焼きソバは〝いただきマンモス〟で〝マンモスうれピー〟……だけれど、あたしを花見に招待しなかったのは〝チョバリバー〟で気分が悪い」

 キョトンとする夕夏

(なに? この頭に角つけた人……いったい何を言っているの)


 女魔王は続けて喋る

「マシュマロには、あたしのコトなんて〝アウト・オブ・眼中〟って感じ?」

 頭を抱える夕夏。

(わからない……なにを言っているのか、さっぱりわからない)


 魔王のコスプレをした女性は、食べ終わった中華塩焼きソバの容器を、後方に立っている変なメイクをしたメイドに渡すと、マシュマロを指差して言った。

「〝アッシー〟から聞いたよ……買い取った無人島を百合ハーレムにする計画なんだって……そのための人材を集めているんだって、ご苦労なコトで〝よっこいしょういち〟ハーレムの主権はあたしが奪う、マシュマロには〝ギャフン〟と言わせてやる」

 マシュマロが、慣れた口調で言った。

「はい〝ギャフン〟言いましたよ……コレでいいですか、コスプレイヤーのお仕事が忙しそうで、連絡がつかなかったので花見の招待が遅れてしまいました。〝ごめんライダー〟」

「〝おーい、救急車……はい、呼びましたよ〟のレベルのギャグをよくもまぁ〝赤い彗星シャアシャア〟と」


 ついに夕夏は、頭を抱えて放心状態でしゃがみ込む。

(あたし、なにを聞かされているの? この魔王みたいな人……誰?)


 困惑している夕夏に気づいたマシュマロが、魔王のコスプレをした女性を紹介する。

「この人は、魔王コスプレーヤー百合の『摩樹奈マキナ』さん……魔王コスプレばかり専門でしていたので妄想が入ってイッちゃった人……マキナさんは〝死語〟の世界を生きているのよ」

「死後の世界?」


 マキナが夕夏に向って言った。

「おまえが、夕夏か……マシュマロ聖母から聞いて知っている、花見の後でわたしと百合〝にゃんにゃん〟しないか?」

「〝にゃんにゃん〟ってナニ?」

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