第5話・段々と百合するコトに抵抗がなくなってきて……受け入れている自分が怖いです〔夕夏心の呟き〕宇宙メッセージ受信妄想地下アイドル百合女【妹尾 星美】登場

 ある晴れた天の河が広がる夜──夕夏は、なんとなく郊外にある廃工場の階段を上がっていた。

 星を眺める趣味があるワケでもなく、ただ何かに引き寄せられるように、夕夏は随所にペンキが剥がれた階段の手すりをつかんで登っていく。

(もしかして、あたしが百合女を引き寄せるのと同じように、あたしも百合に引き寄せられるパターンも、あるのかも知れない)


 屋上に到着すると青いビニールシートが敷かれた場所に、夜空に向って両手を広げて仰ぎ見ている女がいた。

 年齢は二十代前半、アイドルのような衣装を着て。

 なにやら、セリフのような言葉を小声で囁いていた。

「星々の渡り舟と星座の神々、星美の脳に神託を……きたきたきた、宇宙意志からのメッセージきたぁ」


 どことなく、怪しい雰囲気を漂わせた女性が、夕夏に気づいて振り返って言った。

「ウソぅ、乙女坂 夕夏を引き寄せる波動を出していたら、本当に来ちゃった」

「あなた誰? どこかのアイドルグループ?」

「星美……『妹尾せのお 星美』今は見習いに近い地下アイドルですけれど、絶対にメジャーデビューしたいです。昼間は飲食店でバイトしています」


 夕夏は思った。

(コイツも、危ない妄想系百合女)

 紫色の星型のアイコンタクトをした、星美が言った。

「星美、天気が良い夜に星に祈っていたら……宇宙の声が聞こえてくるようになっちゃって……夕夏さん、星美の近くに来てください」

 夕夏は、フラフラと地下アイドルに近づく。

 すでに、この時の夕夏は百合行為に対する抵抗感も薄れていて。

 本人は気づいていなかったが、星美に歩を進める夕夏の顔は無意識に喜びに満ちていた。


 星美と向かい合って立つと、星美が言った。

「今さっき、星美の頭の中に宇宙からのメッセージが届きました……夕夏さんと星美が百合エッチしないと、人類が滅びるそうです……星美をオモチャにしてください、脱がして胸をオモチャにしてください」

 夕夏は、バナナの皮を剥くように星美の衣装を、ヘソまで下げて上半身を裸にすると。胸をもてびはじめた。


 触って、揉んで、こねくり回して、先端をつまむ。

 気持ちよさそうに、体をくねらせる地下アイドル。

「あふッ……いい感じです、メッセージを送っていた存在も喜んでいます……そのまま、下も脱がして地下アイドルの星美を裸にしちゃってください」


 衣装と下着を脱がして全裸にした星美を、ブルーシートの上に押し倒す。

 白い裸体で夜空を見上げている星美が呟く。

天の河ミルキィウェイきれい……星美にキスして、夕夏さんのオモチャになった、星美の体を好きなだけ触ってください……星美の体を愛撫しないと、世界が滅んじゃうって宇宙の誰かが言っていますよ」


 夕夏は星美にキスをしてから裸体を愛撫する。星美が吐息を漏らしながら言った。

「はふッ……いい感じです。星美だけが恥ずかしい姿を夜空の下に晒しているのは不公平です、夕夏さんも脱いで……星美の一番敏感な部分に恋してください」

 夕夏は服を脱ごうと、スカートのホックを外してファスナーを半分下ろしたところで我に返る。

(はっ! 危ない……この子、変な電波出している……危うく、一線を越えてしまうところだった……百合の一線? どこまでが?)

 脱がした衣装を星美の裸体に放り投げた夕夏は、引きった笑みを浮かべて後退しながら言った。

「これ以上はムリ……アイドルだったら、もっと自分を大切にして……応援しているから」

 そう言い残して、夕夏は星空の屋上から逃げ出した。


  ◆◆◆◆◆◆


 アパート近くに戻った夕夏は、消灯したはずの部屋の明かりが灯っているコトに気づく。

 部屋のドアは施錠をして出たはずなのに、カギが掛かっていなかった。

(部屋に誰かいる?)

 恐る恐るドアを開けると、玄関に女性の黒いハイヒールが並べて置いてあった。

(女? 百合?)


 そして部屋の中には、外から持ち込んだ移動式のパイプ椅子に後ろ手に縛られて黒服の女性が座っていた。

 黒服の胸元を少し開けて黒いブラを覗かせた若い女性が、夕夏を見て言った。

「待ちくたびれたぞ、乙女坂 夕夏……わたしの名前は『アリューシャン・巫女みこ』……父親が巫女好きなので名づけられた。見ての通り百合でスパイをやっている」


 夕夏は、また変なのが現れた……と、思った。

 自称スパイのアリューシャン・巫女が言った。

「どうして、スパイが部屋にいるのか疑問を持っただろう……この前、この部屋に自分がアンドロイドだと言い張る少女が来ただろう」

「愛娜のコト?」

「そうだ、彼女は某国が製造した兵器かも知れない……普通に夕夏に奉仕をするだけの、性的アンドロイドなら問題ない……人間とアンドロイドで愛し合えばいい、だが兵器で夕夏に危害が及ぶ場合は『リズボス・愛娜・アシモフ』を破壊しなければならない──そのための監視と護衛役が、わたしだ」


 巫女は護身術の心得があるから、夕夏を男から守るボディガードも兼用すると告げた。

「これからは、夕夏の体に男の指は一本も触れさせない……ところで、どうしてわたしが椅子に縛られているのか疑問に思っただろう」

「別に」

「疑問を感じてくれ、そうでないと自分で自分を縛った意味がない……夕夏の部屋に侵入は成功したが、謎の組織に捕まってしまって拷問を受けている最中だ、わたしは拷問には慣れていて口は堅い……少し待っていてくれ」


 そう言うと、巫女は自分で縛った後ろ手をモゾモゾと動かして器用に縛った両手をロープから引き抜くと、椅子の傍らに置いてあった紙袋を夕夏に差し出して言った。

「すまないが、紙袋の中にあるコスチュームに着替えてくれ……わたしを拷問している敵の女の役が不足しているんだ」

 巫女はまた、器用に自分で自分を縛る。

 ワケがわからないまま、夕夏は渡された紙袋の中に入っていたコスチュームに着替えた。

 それは、細い黒革のでできた。露出度が高い加虐女性エスの女王さまの格好だった。

 ムチを持った夕夏が、ワナワナと震えながら言った。

「なんですか、この格好……うっかり、着替えてしまいましたが」

「その手にしたムチで、わたしを叩いて拷問してくれ」

「はぁぁ?」

「心配するな、わたしの口は堅い……下着を収納している容器の中にあった、夕夏の下着は何色が多かったとかは拷問されても言わないから」

「この変態!」


 羞恥でムチ叩きした、巫女の顔に恍惚とした笑みが浮かぶ。

「はぁはぁはぁ……わたしの本名は『田中 巫女』だ……しまった、本名を名乗ってしまった……拷問が足らない、脱がして全裸にしてムチ打ちを」

「出ていけ!」


 夕夏は、パイプ椅子ごとスパイ妄想のアリューシャン・巫女を部屋の外に放り出した。

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