第12話 イメージ

「ふぅ、なんとかバレずに済んだかな?」


タケルは、自宅のドアを閉めながらつぶやく。ダッシュで隠れた後、人目につかないようにエリザに運んでもらったため、普通の人間では追いつけない速度で逃げ切れたはずだ。


「それで、エリザちゃま、この姿の時のロープレはどうします?」


「うーん、そうねぇ」


エリザは、小さな美少女になったジーナをジロジロと見ながら考える。


「見た目はおしとやかそうだけど、表情が活発そうな感じよね。服装でも変わるだろうけど……タケルはどう思う?」


「うぇ、僕? 僕は……」


タケルは、エリザに言われてジーナを見る。今のジーナは令嬢の様に見えるが……。


「じろじろ見んなや」


タケルに対する態度がその見た目を否定する。まるでヤンキーだ。だけど、ロープレとやらが始まれば、それになりきるのだろうと考え、ジーナのこれからの事を考える。


「よし、魔女っ娘で!」


「魔女っ娘? それは一体どんなものなの?」


「まあ、ジーナはこの世界で言う魔女なのは確かだけど、魔女っ娘って言うのは聞いたことが無いわね」


「僕の中では、普通の魔女は大人で落ち着いた感じなんだけど、魔女っ娘は活発な感じなんだよ」


「ふーん、それで、口調は? あたしはどう話せばいい?」


「姿通りなら、挑戦的で子供っぽい感じがいいと思うんだけど、エリザはどう思う?」


タケルは、どうせ自分の言う事だけでは納得しないと思い、エリザに託す。


「子供っぽい感じ……いいわね。私がお姉ちゃんで、ジーナが妹って感じかしら。じゃあ、くだけた感じでいいわね。今回のロープレはそれでいきましょう、ジーナ」


ジーナは、自分の姿をタケルの用意した資料を見て、少し幼い感じの美少女の魔女っ娘風に微調整する。


「これでいい? エリザお姉ちゃん」


「いいわね! でも、私の呼び方は元のエリザちゃまでもいいのよ?」


「分かりました、エリザちゃま。慣れるまでもう少しかかりそうな感じがするよ」


ジーナは、鏡を見ながら自分のキャラをぶつぶつと呟いて確認していく。ジーナは別に役者でも何でもないため、すぐに順応できるわけではない。


「それじゃあ、ジーナが練習している間にタケルは魔法の練習ね。屋上に行きましょう」


「分かった。お手柔らかに頼むよ」


エリザは、タケルに魔道具を持たせて屋上へと徒歩で向かう。さすがに、日中は誰の目があるか分からないからだ。それも、この近辺までモンスターが現れるとなれば、いつも以上に外を見ている可能性がある。


「まずは、イメージをしっかりと魔力に乗せる練習ね。こんな風に」


エリザは、指先でアゲハ蝶を作って飛ばす。血魔法で作られたそれは、黒と赤のコントラストが美しい蝶だった。それを見て、タケルも蝶を作ろうと頑張るが、幼稚園児がはじめて紙で作った蝶の様に雑だった。


「もっとしっかりとしたイメージを作って」


「すぐには無理だよ。蝶なんて、正直東京で見かけることなんて無いんだから」


「別に蝶じゃなくてもいいわよ? 自分の好きなもので」


「それじゃあ……」


タケルは、自分の好きなアニメキャラをイメージする。自分でもフィギュアを作るほどのイメージ力は、そのキャラを本物の人形の様に具現化した。


「……すごいわね。けど、何か納得いかないわ」


「え、ダメだった?」


「ううん、私の教えがいが無いなって」


エリザは、逆に雑な炎の魔法が、アニメのイメージによって作られたものだと理解した。つまり、タケル自身が知っている物なら意外とイメージ通りに作れるという事が分かったのである。

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