第10話 ジーナ
「女王様ー!」
どこからか、エリザを呼ぶ声がする。正確には名前ではなく女王様と呼んでいるのだが、日本において女王と呼ばれる存在は今のところエリザしかいない。
「この声は……じぃか?」
「ご無事でしたか! 気が付いたら辺りには誰も居ませぬし、女王様を探していたら魔物に襲われるしで大変でしたぞ。それでも、こうして女王様を見つける事が出来て安心しました。……一緒におられるのはどなたですかな?」
じぃは、エリザの無事を確認して安堵し、次に一緒に居るタケルに視線を送る。その目には、女王様に手を出していたら殺すと書かれていた。
「そう怖い顔をして睨まないであげて。私が助けて、今は一緒に行動しているのよ。ほら、どことなくあの青年に雰囲気が似てると思わない?」
「そう言われれば……。確かに、あのものと同じような空気を感じますな」
「あ、初めまして。僕はタケルって言います。エリザには助けてもらって……」
「女王様を呼び捨てですと!?」
じぃの目がくわっと開かれる。それだけで、タケルはびくりと一歩後ろに下がる。
「急に叫ばないでよ。それはそうと、そのロープレはもういいわ。違う世界に来たのだし、じぃも元の姿に戻っていいわよ。それに、私はもうここでは女王ではなくただのエリザよ。だから、じぃも私の事はエリザと呼ぶ事、いいわね?」
「かしこまりました。それでは、わたくしも元の姿に戻ります」
白髪の、執事服を着て誰がどう見ても執事だなという姿が煙に包まれる。そして、その煙が晴れるとまったく違う姿の者が現れた。その姿は、魔女姿の猫、ケットシーだった。
「それじゃあ、これからはエリザちゃまと呼ばせていただきますね」
「ロープレが終わった瞬間、素に戻ったわねジーナ」
「だって、このロープレはたった数年しかやってなかったですもん。今までの女王ちゃまからのリクエストの長さに比べれば、つい最近みたいなものですし」
「ね、猫がしゃべった!」
「あん? あたしは猫じゃなくてケットシーよ。んで、あんたは誰かしら?」
「さっき、自己紹介したけど……」
「名前だけでしょ? 他に言う事は無いのかしら?」
「ジーナ、ジーナ。そんなに力強く聞いても答えにくいわよ。私が説明するから、ちゃんと聞いてね」
「わかりました、エリザちゃま。タケル、見張ってるから変な動きはしないでね?」
「は、はい……」
タケルは、ジーナの威圧を受けて縮こまる。エリザは、肩をすくめると、ジーナにこれまでの話をする。といっても、そんなに日は経っていないから話の内容は薄いが。
「なるほど、分かりました。まあ、これからはあたしも一緒に行動しますし、タケルが何かをしでかすようならすぐに排除致しますね」
「私としては、できれば仲良くしてほしいんだけど。青年の時の様に、いろいろな話を聞けそうだし」
「確かに、あの者の話は面白いものが多かったですものね。分かりました、利用価値のある間は見逃します」
「まあ、いいわ。そのうち仲良くなるでしょ。それで、ジーナの方はどうだったの?」
「はい。とりあえず、襲ってきた魔物はきっちりと倒して素材は回収してあります」
ジーナは、ポケットから魔石を3個と、目玉1個、爪を1本、牙を1本取り出す。
「もう3体も倒したのね。見た所、目玉はメデューサ、爪はグリフォン、牙はヘルハウンドの物ね」
「さすがはエリザちゃま、素材を見ただけで分かるとは、さすがです」
「えっと、ヘルハウンドはさっき見たから分かるけど、メデューサやグリフォンって強いの?」
「お前は、あたしの強さを疑うの? 焼き殺すわよ」
「ちょっとちょっと、ジーナ。喧嘩腰にならないの。この世界には魔物が居ないんだから、判断がつかないだけよ」
「そうですね。なら、お前が見たヘルハウンドを1として基準にすれば、グリフォンは5、メデューサは10ってとこかしら」
「合わせてヘルハウンド15体分!? それって、ものすごく危険なんじゃ!」
「当たり前よ。強さは単純な足し算では無いけど、まあその認識でいいわ。あたしにとっては、どれも大して変わらないけどね」
「へぇ、ジーナってすごく強いんだ」
「あ、あったり前よ! それに、エリザちゃまはあたしなんかよりずっと強いんだからね!」
タケルに素直に強さを認められ、照れるジーナ。それを少し仲良くなったと判断したエリザは、うんうんと頷く。
「グリフォンとヘルハウンドの魔石は、ジーナの力にしても良いわ。メデューサの魔石と素材は、私が魔道具に加工するわ」
「分かりました、はい、どうぞ」
ジーナは言われた物をエリザに渡す。エリザは、メデューサの目玉を親指と人差し指でつまみながら、何に加工しようか考えるのだった。
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