第5話 魔道具
エリザは、魔石と牙を指に挟みながら、タケルに講義する。
「魔物のドロップ品は、基本的には魔石よりも柔らかいの。だから、牙や骨なら魔石で削って簡単な武器に加工できるわ。もし、この世界で魔物同士の争いや、あまりないかもしれないけど障壁以上の物理攻撃を受ければ素材は落ちるし」
「障壁以上の物理攻撃? さっき、拳銃すらまったく効いてなかったのに」
「ヘルハウンドの障壁が強いせいね。もっと低ランクの魔物なら、あの武器でもダメージを与えることは出来ると思うわよ。けれど、自分の意思で障壁を張れる私みたいな魔物になると、絶対に魔力無しの攻撃ではダメージを与えることは出来ないわ。いえ、絶対とは言わないけれども……巨大隕石並みの攻撃力が要るわね」
「巨大隕石並み……ははっ、そんなの核兵器でも無理だよ……」
タケルは、例えがやばすぎて顔が引きつるのを感じた。そして、エリザは指に挟んだ魔石を見せて話を戻す。
「それで、さっきの続きだけど、魔物のドロップ品を加工するには魔力を使う方法もあるのよ。というか、普通はそうするの。魔力を通すと、見た目がなんであれすぐに加工する事が出来るわ」
そう言ってエリザはヘルハウンドの牙に魔力を通す。すると、硬そうに見える牙がぐにゃりと形を変えた。
「このままナイフや剣に変える事は簡単だけど、それじゃタケルは使えないわよね?」
「うん、どっちも使った事も無いよ」
「魔力視を得た事で、タケルは魔力を扱う事が出来るようになったはずだわ。だから、私が魔道具を作成するの」
ぐにゃりと溶けた牙が、飴細工の様に魔石を囲むように変化する。エリザは、少し指を動かして形を整えていく。最終的に、聖火リレーで使うようなトーチに似た形になった。
「はい、お終い。この持ち手部分に魔力を通せば、魔石に蓄えてある魔力を使って現象を起こす事が出来るようになるわ。青年が言うには、魔法みたいって事だから魔法と呼んでも差し支えないわよ。試しに使ってみなさい」
エリザはトーチをタケルに投げ渡す。タケルは、慌ててキャッチする。見た目よりもずっと軽く、元が牙だったからか硬かった。
「どうやって魔力を使うの?」
「知らないわ。私は意識しなくても普通に使えるもの。昔、同じ様に人間に魔力視をあげた時は、うまく使えなかったようだったし」
エリザは、武士の事を思い出す。そういえば彼は、魔力視で悶絶し、切腹を失敗した時の様に痛かったと言っていた。そして、結局魔力が何なのか理解できず、役に立つ事は無かったはずだ。
「うーん、魔法使いの様に、集中させればいいのかな?」
タケルは、少しの時間、いろいろと考えて試していた。そして、何となく目にある違和感を、手の方へ移動するイメージで動かしてみる。すると、トーチの魔石が少し光り、火の玉が発射された。両手に握るように胸の前で組んでいたため、真上に発射された火の玉はタケルの前髪を焦がす。
「わわっ! 髪の毛の先が焦げた!」
「すごいじゃない、成功ね。そういえば、どんな効果があるのか、先に私が試せば良かったわね。どんな属性があるかは、使ってみないと分からないもの。あと、魔力は形を持たないから、自分のイメージでどんな形にも出来るはずよ。タケルのイメージが火の玉だったから、火の玉になったのね」
「やっぱり、魔法と言えばこれだからね」
タケルは、練習のために何度か火の玉を空に向かって発射する。大きさを変えたり、形を変えたりと色々な事を試す。すると、次第に火の玉が生成されにくくなってきた。
「あれ、使えなくなったみたい?」
「魔力切れね。魔石は、放っておけば空気中から勝手に魔力を補充すんだけど、ここは魔素が薄いから微妙ね。そうだ、さっきのヘルハウンドの魔石を拾いに行きましょう」
エリザは、タケルの手を掴むと、翼を広げる。そして、そのまま屋上から飛び降りた。
「ぎゃああー! 落ちる、落ちるー!」
「落ちないわよ! だから、変なところを触らないで!」
タケルは、上昇する時とは違い、地面が見える状態での飛び降りに恐怖し、慌ててエリザの足にしがみついていた。エリザは、滑空するように交差点へと近づき、タケルの手を放す。
「ぐえっ」
タケルはそのまま尻もちをつく。エリザは、ふわりと着地すると、さっそくヘルハウンドの魔石と牙を回収した。
「魔石は取り換えるとして、この牙は普通の武器にした方が良さそうね。さっきみたいに魔石の魔力が無くなった瞬間無防備になるのは困るでしょ?」
エリザは、さっそく牙を変化させてナイフを作る。
「鞘もそのうち何かで作りたいわね。とりあえず抜き身で危ないけど渡しておくわ」
「あ、ありがとう……。とりあえず、ハンカチで包んでおくよ」
タケルはハンカチで刃の部分を包み、簡単には切れないようにし、ベルトの間に挟む。しかし、動きづらかったためリュックへ仕舞った。タケルは、何かホルスターの様なものが要ると感じた。
「さて、どうしようかしらね」
エリザは、まだところどころで起きる破壊音と悲鳴を聞いて、どうするべきか考える事にした。
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