第4話 魔力
「ここなら安全でしょ」
辺りではまだ爆発音や悲鳴が続いているが、今のところ高い場所は安全だった。
「これから、どうすればいいんだ……」
タケルは、突然現れた化物たちの事について不安でいっぱいだった。これからどうなるのか。どうすればいつもの日常に戻れるのか。とりあえず、言葉が通じるエリザが居る事が唯一の安心材料ではあったが、まだ完全な味方かどうかは分からない。
その時、パンッと乾いた音が響いた。
「えっ、この日本で銃声?」
タケルは反射的に音のした方へ顔を向ける。そこには、交差点でヘルハウンドと対峙する警官の姿があった。
パンッ
もう一度銃声が響いたが、ヘルハウンドにダメージは無い。
「へぇ。結構速度の速い飛び道具みたいだけど、肝心の魔力をまとっていないじゃない。そんな攻撃じゃ、魔物が常に展開してる障壁を貫くことは出来ないわ」
「障壁……? 何も見えないけど」
「私もまとってるわよ。見えないって事は、魔力視が無いからね。こっちを向いて」
エリザは、言うが早いかタケルの両頬を手で挟んで強制的に自分の方へ顔を向けさせる。
「私が、視えるようにしてあげるわ」
「えっ? は、はい」
「痛いけど、我慢してね?」
エリザは、タケルの返事を待たずに自分の両眼に魔力を集めると、その魔力をタケルの左目へと注ぎ込む。紫電がエリザの目からタケルの目へと走った。
「ぎゃああぁぁ! 痛いいいぃぃぃ!」
タケルは、左目を押さえて転げまわる。今まで感じた事無い痛みが全身を走る。いっそ、死んだ方が楽なんじゃ無いかと思えるほどの痛みが数秒続いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
痛みが引いたタケルは、押さえていた手をどける。タケルの黒目は金色に代わり、オッドアイとなっていた。
「どう? 視える?」
そう言われ、タケルはエリザを視る。
「黒い、もやみたいなものが視える……」
「そう。それが障壁よ。慣れれば、視界を切り替える事も出来るけど、慣れない間は片目を閉じればいいわ。それで、ヘルハウンドを視てみて」
タケルは警官と対峙しているヘルハウンドを視る。うっすらともやがみえるが、エリザよりも薄いと感じた。
パンッ、パンッ
さらに2発の銃声が響き渡る。魔力視と共に動体視力も上がったタケルの目には、銃弾が見えた。その銃弾は、ヘルハウンドのもやに入ると、まるで粘土に入り込むようにとたんに速度を失い落下した。
「障壁を貫くには、それ以上の魔力を込めた攻撃をするのが一番楽ね。もしくは、魔力を含んだ武器で攻撃すればいいんだけど、無いのかしら?」
「普通は持ってないよ! それより、あの人たちが危ない!」
警官の後ろにいる母親と娘らしき親子は、恐怖のあまり座り込んでしまっていて逃げる事も出来なさそうだ。警官の拳銃も弾が切れたのか、それ以上銃弾が発射されることは無かった。
「それじゃあ、手本を見せるから視てて」
エリザは、デコピンの様に指を構えると、ヘルハウンドに向かって指を弾く。
「オニキス・バレット」
タケルには、エリザの弾いた指から黒い塊がヘルハウンドに向かって高速で飛んでいくのが見えた。先ほどの拳銃の弾よりも早い。そして、その弾は正確にヘルハウンドのこめかみを撃ち抜く。ヘルハウンドは、ぐらりと倒れ砂と化す。
ヘルハウンドが砂になったのを見て、警官は親子を連れてどこかへ避難していった。
「す、すごい……」
「よかったわね、たまたま私が居て。魔力が使えないんじゃ、誰も魔物は倒せないわよ」
「僕たち、地球人では倒す方法は無いの?」
「あるわよ。私、こう見えても道具作りは得意なのよ」
エリザは、そう言うと先ほど拾った魔石と牙を取り出した。
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