第3話 地球へ
「ここは……? 奇妙な建物が多いの」
女王が目覚めたのは、東京にあるビルの屋上だった。女王は体を起こして辺りを伺う。
「くぅっ、魔力を使いすぎた。ここがどこかは知らぬが、魔素が薄い。この姿を維持できぬ」
女王は、省エネモードの少女の姿になる。下の方が騒がしいので、端の方へ行って下を覗く。そこには、逃げ惑う人々と、それを追いかける3メートル程の黒い犬が居た。
「あれは、ヘルハウンドね。私みたいに、次元の裂け目に吸い込まれてきちゃったのかしら」
見た目同様に言葉遣いも幼くなった女王は、ヘルハウンドに襲われる人々を特に気にすることなく視線を動かし、状況を把握しようとする。そこに、一人の青年が目に止まった。ヘルハウンドを前に、その青年は紙袋を両手に持ったまま立ちつくしていた。
「な、なんだこのバカでかい犬は!」
青年は、熊を前にしたかのように少しずつ後ずさる。しかし、ヘルハウンドはそれ以上の速度で青年との距離を縮めてくる。
「お、俺なんか食ってもうまくないぞ? 久しぶりに外に出たら、なんでこうなるんだ! いくら異世界転生や異世界転移に憧れたからって、現実になるとは思わねえよ!」
青年は、少しでも動いたら、すぐにでも飛び掛かってきそうなヘルハウンドに対し、何とか逃げ道を探す。店に逃げ込もうにも距離があるし、武器になるようなものも無い。持っている紙袋の中は同人誌とゲームであり、背中のリュックから突き出ているものはポスターである。
なぜ襲うのを待っているのか分からなかったヘルハウンドが、とうとう青年に飛び掛かる。
「とぅ!」
「ギャワン!」
「着地成功ね!」
ヘルハウンドの頭部に、女王が着地を決める。体重の軽い女王では、ヘルハウンドの頭部を踏み割る事はできず、地面に亀裂を少し入れただけに終わる。
「そこの君、大丈夫?」
「き、君こそ。それに、一体どこから……?」
「建物の屋上よ。この上の」
青年は、少女が指で示した場所を上を見て確かめるが、確かめたところでそれが本当かどうかは分からない。それに、本当だとしたらなぜ無事なのか。
「ぐるぅぅぅっ!」
ヘルハウンドが、頭を振って女王を振り払い、唸り声を上げる。
「君、逃げないと!」
「ヘルハウンドから走って逃げるなら、時速200キロは要るわね。できるの?」
「無理です! でも、少しでも生き延びる確率が上がるようにしないと!」
「それなら、大人しくそこで待つ事ね。下手に動いて、他のヘルハウンドが来たら面倒だもの」
「君は逃げないの?!」
「私は、魔力を失っているとはいえ、この程度の魔物に負けるほど弱くないわよ」
「ぐあぅ!」
ヘルハウンドは、標的を女王に変え、飛び掛かる。女王は、右手の爪を伸ばして構える。
「特に技名は要らないけれど、かっこいいから叫ぶわ。スカーレット・スカー!」
青年には、軽く振り抜いた様にしか見えないその右手は、ヘルハウンドの前方の空間を空ぶっただけに見えた。しかし、その空間に赤い爪の傷跡がつくと、そのままヘルハウンドを3枚卸にする。
「えぇ! 一体、君は……?」
「私達魔法生物には、名前をつけるという習慣が無いのだけれど、私には青年が付けてくれた名前があるの。青年は言っていたわ、私はエリザベートの様だと。エリザベートが誰かは知らないけど、私の事はエリザと呼んでいいわよ」
「あ、僕の名前はタケルって言うんだ。って、犬が砂になっていく!」
「魔法生物……青年は略して魔物って言ってたかしらね。魔物は死ぬとすぐに砂になるのよ。けれど、残るものもあるわ。それは、魔力のこもった魔石と部位ね」
エリザは、ヘルハウンドの砂の中から手のひらサイズの魔石と、牙の一部を拾う。
「ほら、これよ」
「へぇ、綺麗な石だね」
「これにはいろいろと利用価値があるわ。それよりも、安全な場所へ移動しましょう。私の掴まって」
「えっと、それはどういう」
「いいから」
エリザは逆にタケルのてを掴むと、翼を生やして飛び上がる。そして、さっきの屋上へと戻るのだった。
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