第2話 次元回廊

「まさか、自ら死を選ぶとはの……」




「あのものは最近、ずっと日本へ帰りたいとしか言っておりませんでした。暇がそれほど苦痛であったとは思い至りませんでした……」




「せめて、墓は遺品と共にあ奴がこの世界に来た場所へ立ててやるか」




女王の世界では、死体はすぐに風化し、砂と化すため墓を建てるという習慣はない。けれど、過去に現れた流浪の民から日本の常識をある程度学んでいたため、女王は墓を建てる事にした。




「さて、どこが良いか。やはり、洞窟の中かの」




「女王様……」




「何じゃ? じぃに何か案があるのか?」




「いえ、墓の事ではなく空を見て下され」




「空じゃと?」




女王が空を見上げると、小さな粒が見えた。その粒は、徐々に大きくなってきている。




「魔法か?」




「いえ、どう見ても自然現象だと思います。あれは、隕石でございましょう」




「ほぅ、初めて見たな」




しばらく見ていると、拳大の大きさになり、段々と落下地点がはっきりしてくる。




「……のぅ、じぃや。あれはこの近辺に落ちるのではないか?」




「だとすれば、こうしては居られませぬぞ! すぐに避難しなければ!」




「この地を、あの者のゆかりの場所を破壊させる訳には行かぬ。私があれを排除する」




「正気でございますか!? 大きさを見るに、数キロはありますぞ!」




「城を維持している魔力をすべて戻せばあるいは。じぃは逃げてよいぞ」




「わたくしの命は女王様のものでございます。微力ながら、わたくしも力を尽くします」




「ふっ、では参ろうか」




女王は、隕石に向かって飛ぶ。隕石のスピードはすさまじく、すぐに地表へと到達しようとしていた。地表数十メートルの所で、女王は城の魔力をかき集め、前方に障壁を展開する。じぃは女王へと魔力を供給する。




「くぅぅ、思ったよりも、遥かに重い、のぅ」




「女王様! やはり無理がございます!」




「無理など初めから分かっていた事。何としても、何とかするのじゃ!」




女王は、自分の生命力も魔力へと転換し障壁を強める。しかし、隕石は衝撃で砕けながらも止まる事は無い。




「くぁぁああああ!」




「女王様ーー!」




隕石は、障壁によって落下地点こそ反れた。地表にぶつかりクレーターを作り、破壊的な暴風が辺り一面を吹き飛ばすはずだった。




「…………何も、起きぬ?」




「…………一体、どういうことでございましょう?」




「!! じぃ、あれを見よ!」




「あれは、次元の裂け目ですぞ!」




隕石の衝突エネルギーは、すべて時空に亀裂を広げることに使われた。洞窟の近くには、元々不安定な時空の亀裂があり、隕石によってそれは次元回廊と呼ばれる現象へと変化した。その変化は、女王の世界のすべてに時空の亀裂を入れる。




「周り中に次元の裂け目が出来ておる! 逃げよ!」




「女王様、す、吸い込まれますぞ!」




女王とじぃは、それぞれ近くに出来た次元回廊へ吸い込まれる。女王の世界各地で発生した時空の亀裂は、近くに居た生物や物質を吸い込み消滅していった。


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