アフター

斉藤一

第1話 プロローグ

辺り一面、砂漠の様な風景が広がっていた。空は赤く、うっすらと光り輝く太陽が浮かんでいる。その砂漠の一角に、西洋風の城がそびえ立っていた。60メートル程の高さのあるその建物は、今にも崩れそうなほどバランスが悪かった。




「暇ね~」




その城の最上階に、少女が居た。簡素な装飾の椅子の手すりに足をかけ、大層行儀が悪い。扉が開き、執事の格好をした老人が入ってきた。




「女王様、お行儀が悪うございます。女王様がそのようでは、他の者に示しがつきませぬ」




「そう言われても、私が守護するこの城にも、もうほとんど誰も居ないじゃん。魔力で保護するのやめよっかなー」




「そのような言葉遣いをしてはいけませぬ。少数とはいえ、女王様の庇護下にある民も居るのです。そのような事は口にせぬようお願い申し上げます」




「じぃは堅苦しいのよ。それで、何の用? それとも、だらけてそうな私に注意しに来ただけ?」




「流浪の民が現れました」




「何と! それを早くいいなさいよ。場所はどこ? すぐ行くわよ」




「案内いたします故、まずはきちんとした身なりを」




じぃがそう言うと、女王の周りに黒いもやが集まり形作る。もやが消えた後には、少女ではなく美女がドレスを着て立っていた。




「では、案内せよ。数百年ぶりの客人ゆえ、丁寧にもてなさねばな」




「さようでございます。それでは、案内いたします」




じぃは蝙蝠の姿に変身すると、城の窓から外へと飛び出す。女王は、背中に蝙蝠のつばさを生やすと、じぃの後ろについて飛ぶ。




「遅いのぉ。私がお前を掴んで運んだ方が早いのではないか?」




「おやめください。女王様にそのような事をさせては、面目がありません。それに、慌てずとも流浪の民は逃げようがありませぬゆえ」




「私が早く会いたいのだ。楽しみが伸びたと思って我慢するか」




「申し訳ございません」




女王は、速く飛ぶのを諦めて、じぃに並走する。しばらくすると、洞窟が見えてきた。




「あそこか?」




「さようです。たまたま、次元の亀裂を感知した者がおりまして」




「その者には褒美を取らさねばな。では、先に行くぞ」




「お、お待ちください!」




じぃの数倍の速度で飛ぶ女王。その女王を慌ててじぃは追いかけるが、追いつけるはずもなく、あっという間に女王は洞窟へと入っていった。




「わわっ、何者でござるか!」




洞窟には、ジーパンとポロシャツを着て、リュックを背負ったメガネの青年が居た。そして、両手には同人誌の束が入った紙袋を持っている。




「ござる……? そう言えば、数百年前に現れたちょんまげの男もそのような口調だったな。髪型は違うが、こやつは同じ国のものか?」




過去に江戸時代の侍が、同じく流浪の民として女王の治める城の近辺に現れた事がある。女王は、その者を城に招待し、死ぬまで城に住まわせていたので日本語を理解する事が出来た。




「お主は江戸の者でござるか?」




「こ、言葉が話せるのでござるか?!」




「驚くに値せぬ。拙者はお主と同じ国の者と話したことがある故」




言葉が通じる事で、一応すぐに襲われたりすることは無いと安堵した青年は、女王と会話する事にした。その過程で、ござる口調はやめ、現代日本の標準語を教えた。そして、ある程度うちとけた所で女王は青年の持ち物に興味を示した。




「それは何じゃ?」




「同人誌のこと? それともゲーム?」




「両方じゃ。見た事も無い物質じゃな。前に来たものは刀くらいしか所持しておらんかったからな」




「はははっ、江戸時代の武士ならそんなもんだよ。今の時代の僕の住んでいる場所の事を教えるね」




女王は青年を城へ招待し、数年の時を一緒に過ごし、日本という国を理解した。ただ、青年は何も娯楽の無いこの世界に絶望し、自殺してしまった。

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