第13話 無事でよかった

 う……あれ?俺、寝てたのか?


 ぺちぺちと顔を叩かれている。


 なんだよ、もっと優しく起こして欲しいな……いや、もしかして、ちょっと生意気なミニスカメイド?


 すごく期待して目を開ける。


 真っ白で何も見えない。身体もなにやら凄く痛い。


「気■い■■!お■!大丈■■!■■■か?」


 誰かがなんか言っている。キーンと耳鳴りが酷くて聞き取れない。


「おー■!■識が戻■■■!ポーシ■■■■て来■!」


 やばい……身体が動かん。超痛い。こっち来てから初めてだ……そうだ、ポーション……

なんとか左手を動かし、カバンを手探りで探す。確かこの辺にカバンが……


「■バン■?■れか?ちょ■■■■」


 誰か知らないが、俺のカバンを手に持たせてくれた。

中に手を入れてポーションを探る。このカバン、手を入れて取り出す物を念じると出て来る謎仕様の一品だ。


 ルピナスが準備してくれたポーションを思い浮かべて、取り出した。


 そのポーションを取り上げられる。あ!おい!ちょっと――――


 ポーション瓶が口に当てられて、中の液体が口内に流れ込んできた。

身体も起こされて支えてくれているので、飲みやすい。

どこのどなたか存じませんが、ありがとうございます。


 凄い。喉を通って胃に落ちて行くのが分る。

胃の辺りが心地良い温もりに包まれ、それが全身に広がって行く。


「うぅう……お?戻った!すげぇ!あれ?おっさん?なんで?ミニスカメイドじゃない!」


「お、おう。なんだそれ……そのポーション、ひょっとして……」


 周りを見回す。日はどっぷりと暮れ、何時か判らない。

そんな中を荒くれ者がウロウロして何かしている。20人くらい居る。あ、キリークも居るじゃん。


 そのキリークは俺が起き上がっている事に気付き、近づいてくる。


「キムラ……もう大丈夫なのか?今回の件、本当にありがとう。お前が助けた獣人の子は私の娘なのだ。借りを作ってばかりだな」


「娘?あのお嬢ちゃんが?そうだ!あのお嬢ちゃんは?」


「問題ない。軽傷だった。ポーションで既に治っている。今は眠っているがな。お前のお陰だ」


「そっか……良かっ――――」


 おっさんが会話に割り込んでくる。


「それで?今回は何をやらかした?この有様はなんだ?」


 更地を指さして問われる。見て見ぬふりをしていたが、改め見ると……すげぇ、周囲に何もない……


 俺は8体のオークと遭遇した時からの一部始終を話した。



「オークロードの集落……あの爆発でこれか……あー……上になんて説明を……」


 おっさんは頭を抱えて、キリークは俺が覚醒者である事に驚いている様だった。


「とりあえず俺達は戻るぞ。お前、もう怪我は大丈夫なんだよな?

キリークはさっさと娘を連れ帰って、奥さん安心させてやれ。


 おい!お前ら!10人くらい残って周囲の調査だ。

オーク共の生き残りが……この状態だといねぇだろうが、一応周囲を見てこい。残りは戻るぞ!」


 テキパキと皆に指示を出すおっさん。こうして見ると優秀なんだろうな。

山賊のボスみたいな顔してるのに。


 キリークが娘さんを抱きあげて近づいてくる。


「キムラ、今回の礼は後日改めてする。本当に世話になった。ではな」


 お嬢ちゃんも健やかに眠っている。オークロードの血肉も綺麗に拭われている様だ。


 笑みが浮かぶ。護れて良かった。俺はキリークに頷いた。


「よし、戻るぞ!」


 おっさんの号令で動き出した。


 帰り道、おっさんと雑談しながら歩く。


「おっさんが来るほどの事だったの?」


 おっさんが溜息を吐く。


「あのなぁ、すげぇ爆発だったろ?街まで聞こえたんだよ。大混乱だ。当然調査に来るだろ」


「キリークも?」


「キリーク達は娘の救出で、数人でこの近くまで来ていたらしい。

んで、爆発の後血まみれのお前と娘さんを発見。治療しているところに俺達が合流って流れだ」


 血まみれだったのか……今の姿が綺麗なのは拭ってくれたのか、この装備や服のお蔭か……それにしてもこっち来てから初めてだな。怪我をしたのもポーションを飲んだのも。


 格が違っても無敵ではないって事を身をもって知った訳だ。

まぁ怪我したのはPASSING WINDでの大爆発だろうから、自業自得になるのかしら……


 俺が考え込んでいる間、おっさんもなんか考えている様だった。

周りを確認してから、声を抑えて口を開いた。


「なぁ、今回の爆発、お前の能力は隠した方が良いと思うんだ。覚醒者って広まると上が五月蠅くなる。そうとう面倒になるぞ。

だから、ユーコミスの婆さんの魔道具を使った事にしようと思う。どうだ?」


「どうだ?って言われもな……まぁ面倒事を避けられるなら、それで構わないよ?

けど、婆ちゃんが、その‘’上‘’って奴等から文句言われたりしない?」


 そうなるとあの婆ちゃんにそうとう嫌味を言われそうだ。


「あぁ、それは問題ない。あの婆さんに文句言える奴なんていねぇよ。

あのババアなら仕方ない。で、この話は終わるはずだ」


「でも俺、こっち来たばかりだよ?冒険者も登録したてだし。そんな奴に偏屈だって噂の婆ちゃんが、そんな強力な魔道具を渡すってのは無理があるんじゃない?」


 あー、それが有ったか、と苦い顔をするおっさん。


「あー……うーん、そうだな……」


 じっと俺の顔を見るおっさん。目付き悪いなこの人。


「お前は、あの婆さんの身内だ。孫だがひ孫だかって事で。どうだ?」


 うーん……それなら良いのか?どうだろう……婆ちゃん次第か。


「なら、婆ちゃんに話を通しておかないとなぁ……明日行って来るか」


 今何時ごろなんだろう。


 東門が見えてきた。

おっちゃんのお蔭で顔パスで街に入り、門の広場に皆で集まっておっちゃんの話を聞く。


「あー皆、ご苦労だった。お前らどうせこの後飲みに行くんだろ?残ってる奴等もすぐ戻ってくるだろうしな。

代金は俺に付けとけ。店に迷惑かけるなよ。以上だ。解散」


 おっさんのおごりと聞いて歓声が上がった。数人の荒くれ者が近づいてくる。


「おう、キムラだっけ?お前も行くだろ?おやっさんを破産させてやろうぜ」


 荒くれ者と飲み会!ぜひ行きたい!が、流石に疲れが酷い。明日も婆ちゃんに会わないといけないし……残念だが断る。


「あー行きたいのは山々ですが、流石に疲れて……」


「そういや当事者だったか。なら仕方ねぇな。んじゃまた今度な!」


 気の良い荒くれ者達は連れだって歩いて行った。西区に向かうのだろう。

入れ替わる様に、おっさんが渋い顔をしながらやって来る。


「キムラ、どうやら領主は待ちきれない様だ。俺は今から報告に行って来る。

例の件はさっきの打ち合わせ通りに進めて来るから、お前は婆さんの機嫌をしっかり取っておけ。

明日朝一で行ってこい。んじゃな」


 そう言って広場の隅に停まっている豪華な馬車に向かって歩いて行った。

背中が煤けている。


 なんか……迷惑かけっぱなしだな……お詫びとお礼を考えた方が良いな……


 何が良いかな……普段の様子を見るにルピナス関連だと喜びそうだな。

アイツから貰ったもので、使っていないもの……パンツか?何故か大量に在庫が有る。


 パンツ貰って喜ぶかな?いや、喜ぶな……女神から授かったとか言ってパンツ一丁で踊りだしそうだ。


 パンツで良いか。いや、待て待て、そうなるとおっさんとお揃いのパンツって事になってしまう。

それは何と言うか、嫌だな。この話は無かった事にしよう。


 そうこう考えながら歩いているとアの宿に到着した。


「キムラさん!生きていたんですね!良かったぁ、戻ってこないから死んだのかと思ってましたよ!」


 なんかこのセリフ聞き覚えがあるな。名前はちゃんと覚えてくれてる様だ。


「あぁ、うん。俺は見ての通り元気ハツラツだよ。それより食事ってまだできる?」


「はい、大丈夫ですよ。でも朝は森に行くって言ってませんでしたっけ?

そしたらあの爆発でしょ?絶対キムラさんは死んだと思ってました」


 このお嬢さんは、なんでこんなに俺を死んだことにしたいのか……


「ふっふっふ、実はあの爆発、俺の仕業なのさ。軽く魔法撃ったらあーなってね。

いやぁ参った参った」


「もーそんな南の魔女様みたいなこと、キムラさんが出来る訳ないでしょ。

あ!もしかしたら魔女様だったのかな?どんなお方なんだろう……会ってみたいなぁ」


 へー婆ちゃんの評判ってこんな感じなのか。人に賞味期限切れのクッキー食わせる人なんだが……


「ふふふ、んじゃ食事してくるよ」


 お嬢ちゃんのはーいって声を聞きながら食堂へ行く。

時間が遅いせいか、客入りはまばらだ。食事している人より酒飲んでる人の方が多いな。


 夕食のメインはスープだった。トマト風味の……なんかボルシチみたいな、ゴロっとした野菜が多くて中々美味い。

それを食べながら客の会話に耳を傾ける。


 まぁ予想は付いていたが、爆発に関しての憶測話ばかりだった。

犯人は南の魔女説が濃厚って感じ。婆ちゃんごめん。


 部屋に戻り、風呂に入ってから寝る準備をする。

今日はさっさと寝てしまおう。明日の予定もいつの間にか決まっているし……明後日は休みにするぞ。


 ベッドで休みの過ごし方を考えている内に俺は眠った様だった。





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