第5話 新しい街で

 大きな門の前で俺は足止めをされている。

旅人や商人、冒険者達で列が出来ていたのだ。


 意外と人の行き来は多いな。人々の表情は疲れてはいる様だが、皆生き生きとしている。

人間が5割、獣人が3割、エルフやドワーフが2割って感じだ。種族間の確執も無さそうに見える。


 ルピナス……上手くやってるじゃん。


 そう思いつつ大きな門を見る。

俺はあの時、貳と書かれた門を通過するはずだった。

それがあの失礼なポーに呼び止められて、紆余曲折あって今は別世界の街へ入る門を通ろうとしている。


 あのまま貳の門を通っていたら、今頃俺はカブトムシとなって、どっかの木の幹の甘い汁を――――


「はい、次。身分証だして。無ければ銀貨3枚」


 衛兵のおざなりな声に我に返る。


「身分証ないんで、コレで」


 金貨を1枚渡し、7枚の銀貨を受け取る。


「はい、よーこそ、オーレグへ。旅人だろう?変な事すんなよ。はい、次」


 雑だなぁ……まぁ、それだけ治安が良いって事なのだろう。

門を抜けると、広場になっており、隅の方には屋台がポツポツと並んでいた。

美味そうな匂いが周囲に漂っており、購買意欲をそそられるが、今日は我慢してさっさと宿を探そう。


 そのまま広場を抜け、メインの大通りの左右に並ぶ店の看板を確認しながら歩く。問題無く文字も読めるな。


 居住区は通りが違うようで、店ばかり並んでいる。

だいたいが飲み屋と飲食店だな。あとは雑貨屋、服屋に薬屋か。他にも良く分からん店もあるが……食料品なんかは居住区の近くかな?


しかし、宿屋が無いな……門の近くにあると思っていたが……


 ノロノロと人の流れに沿って歩いていると、中心に大きな噴水があり、花壇やベンチの設置された大広場に到着した。

ここを中心に四方へと道が分かれている。


 広場の周囲を囲むように、少し大きな建物が建っており、念願の宿屋を発見した。

中学生くらいのお嬢さんに元気よく迎えられる。


「いらっしゃいませ!ようこそ憩いの宿アルストロメリアへ!お泊りですね?御一人様ですか?一泊銀貨5枚です!」


「とりあえず、二泊で」


 わら半紙のような紙を綴じた台帳に名前を記入し、金貨1枚を手渡す。


「予定次第では延長するかもしれないけど、大丈夫?」


「キムラさんですね、延長、大丈夫ですよ。では部屋にご案内します!」


 案内された部屋は二階の一番奥だった。

ビジネスホテルと同じような造りだが、こちらの方が広く、風呂とトイレもあり良い部屋だった。


 最初に見つけた宿にそのまま入ってしまったが、ひょっとして結構グレードが高い宿だったのかしら……一泊五千円なら安いと思ったが、これは無駄遣いになるかな?


 装備を外し、カバンに入れてベッドに横になる。寝心地は悪くない。


 ぼーっと天井を眺める。


 PASSING WINDが驚くほど有用だったな……おならなのに。

しかも、まだ気付いていない使い方が有りそうだし、しばらくは森でゴブの相手をしながら色々試そう。


 武器と魔法はやはり、師が欲しいな。転写された情報によると、冒険者組合では訓練場が有るとの事だから、明日組合に加入して師を探そう。身分証も必要だしな。


 あぁ、ルピナスにも無事着いたと連絡をした方が良いか。教会も探さないと。


明日は朝から教会行って、それから冒険者組合に加入。

その場で師事することが出来たら訓練して、ダメだったら森でゴブ退治、で良いかな。

で、少し早めに切り上げて、戻って街を探索。意外と忙しいな……


 大雑把な予定を立て終えたと同時に鐘の音が鳴り響く。

この街は8時、12時、18時に鐘が鳴る事になっている。

今の鐘が18時の鐘で、この宿で夕食の提供が始まる時間だ。


 先に風呂に入りたかったが、今入ると風呂で寝てしまいそうなので、我慢して食事に行く。


 いそいそと食堂へ向かうと、既に三分の二ほどの席が埋まっていた。

結構繫盛しているんだな、この宿。

カウンターの隅っこに座ると、受付をしていたお嬢ちゃんが俺の食事を持って来てくれた。


 ちょっと固めのパンと良く分からん野菜のスープ、オーク肉のステーキが本日のメニューだった。

朝晩の食事は宿泊料に含まれている様で基本無料。他の料理やサイドメニュー、お酒やジュースが欲しいときは別料金となっております。


 エールを銅貨5枚で一杯追加し、食事に臨む。

肉は柔らかく、正直美味い。美味いが、とんかつやかつ丼で食いたいなぁ……

エールはあまり美味しくなかったが、料理は満足した。

もうここを常宿にしようかな。


 チビチビと不味いエールを減らしながら、利用客達の会話に耳を傾ける。が、ほとんどが内輪ネタの会話ばかりで、ルピナスの違和感に繋がりそうな話は無い。


 ま、初日だし、こんなもんかと適当に切り上げ部屋に戻る。


「あー……」


 ゆっくりと風呂に浸かる。少しぬるめなのが残念だが、入れただけで良しとする。

なにせ、風呂に湯を張る方法が魔石に魔力を投入するというやり方だったのだ。

1時間の格闘の末、湯が出始めた時の悦びと言ったら……部屋の灯りはすぐ点いたのに……


 この世界の住人は皆魔法が使える。それ故に生活の全てが魔力を使う事を前提とした様式になっているのだ。


 これは魔女先生を探すのが最優先だな……


 さっぱりした俺は、平常心Tシャツと芋ジャージに着替え、ベッドに横になった途端あっさりと眠りについた。






 鐘の音で目が覚める。鐘は大規模な魔道具で、街の中に居る住人には、どこで何をしていても音が届くようになっているらしい。


 のそのそと起き上がり、身支度を整えて食堂へ向かう。朝食はパンとスープだった。


 眠そうにしている受付のお嬢ちゃんに、教会の場所を聞いたので早速足を運ぶ。


 大広場から北の通路へと足を向ける。向かう先には城が建っており、領主の住処の様だ。

その手前に白を基調としたシンプルだが荘厳な教会あった。


 両開きの扉は開かれていたので、中に入ると広い礼拝堂に椅子が並んでおり、まばらに人が座っている。

天井も高く、室内は神秘的な雰囲気を醸し出している。

部屋の奥に祭壇があり、そこにルピナス像が安置されていた。


 おお!似てるな!……胸以外


 ルピナス像は本人より胸が盛られている事以外良く似ていた。

ここまでそっくりって事は、アイツ降臨した事があるのかな?


 周りを窺うと、お祈りの順番は特に決まってはいない様で、適当に祈って適当に帰っている。

帰る時に壁際に設置された箱に、ほとんどの人が献金していた。

金額は銅貨1枚を入れている人が多い。銀貨を入れている人も居たので額に決まりはない様だった。


 従者を連れた身なりの良い、ずんぐりとした体形のおっさんが金貨を入れた。

貴族って奴か……忘れていたな。この世界は貴族社会だ、このおっさんは熱心なルピナス信者のようだが、面倒な貴族もいるのだろうな。


 揉めると面倒だろうし、あまり関わらない様注意しとこう……


 人が途切れたのでルピナス像の元へ行く。

しかし、参ったな。ルピナスは像に触れろと言っていたが、人の目が有る状況で神像に触れるのは無理だ。

どうしよう、とりあえずこのまま祈ってみるか。


 ルピナス……ルピナス……私の声が聞こえますね……

私は全てのおならを司る者、あなたはやがて真の勇者として――――


『聞こえてますよ!なんですか!全てのおならを司るって!』


 おぉ、良かった。人が多くてさ、ルピナス像の胸に触れなかったんだよ。会話できて良かった。


『言葉が足りていませんでしたね、会話だけなら今の状態で問題ないです。

像に触れないといけないのは、こちらに転移する時です。ただし!胸を触った時は壁の中に転移させますから!』


 了解した、俺は壁の中でもどんと来いだ。

それでな、まぁ一応無事にオーレグ着いたよって報告なんだが、問題が一つあってな。


 魔法が使えん。使うには師がいないとダメそうだと感じた。

それでメガネで巨乳美女な魔女先生を探そうと思ってる。

今のところはそんな感じだ。


『巨乳……ま、魔法の事はちょっと考えてみます。こちらからは今は特にないですね。

また連絡してください。待ってますから』


 わかった、んじゃまたな。


『はい、ではまた』


 ルピナスとの会話を終え、銀貨1枚を献金してから退出した。


 大広場まで戻ったが……今は10時過ぎたぐらいかな、屋台から漂う香ばしい匂いが小腹を刺激してくる。

ちょっと軽く摘まもうか、一際良い匂いをさせている串焼き屋で購入を決める。


「おっちゃん、1本頂だい。これ何の肉?」


「おうよ、1本銅3だ。肉はオークだぜ。今安いんだ。なんかオークが増えてるらしくてよ」


 威勢の良い大将に銅貨3枚を渡し、肉串を受け取る。


「おお、でかいね。美味そうだ、ありがとう、また来るよ」


 おうよ!と快く送り出され、空いているベンチに腰掛ける。

四角く切られた大きな肉が4つ串に刺さっている。脂身も多いが、塩コショウがしっかりと掛かっていて実に美味そうだ。


 早速齧り付く。

一目見て思っていたが、まるっきり豚バラ串だった。もう超美味い。

俺は鳥皮と豚串は好物で、飲み屋でもこればっかり食っていた。

あと5本は買っておけばよかった。


 少しの間余韻に浸って、串をゴミ箱に捨てて次の目的地、冒険者組合に向かう。

広場の周辺に主要な建物が固まっているのは便利で良いな。

冒険者組合は東側の通路の入り口にあるでかい建物だ。


 俺は目的地へ向けて、ゆっくりと足を踏み出した。





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