第58話
「すごいキレイな湖ですね!ここでレースがあるんですね。」
ぼくたちは哲太郎さんに連れられて、龍神湖に来ていた。奉納競技だというボートレースのためだ。
「ボートレースつっても、まあ、手漕ぎボートだ。カヤックってやつだな。」
「参加者は、まあまあいますね。」
「そうだな、実は俺の大学の後輩が来てくれたようでな。」
みると、たしかにスポーツマンという感じの男性が参加者のゼッケンをつけているのが見える。
あたりを見回していたその男性は、なにかに気づいたようにこちらを見ると、歩いて近づいてきた。
「哲先輩、おはようございます。」
「おう、
「先輩の頼みですからね。それに、ボートはトレーニング向きですし。」
そのスポーツマンは釜石と言うらしい。釜石は園山さんと吉田さんに気づくと、哲太郎さんに言う。
「ええと、こちらのキレイなお嬢さんたちは……?」
「あそこのコテージにアルバイトに来てる子たちだ。こちらの園山さんはレースに参加するぞ。」
「そうなんですね、こんにちは、俺は
「園山 風香です。」
「吉田 美優といいます。」
「ぼくは。」
「あ、きみはいい。」
なんだこいつ、めちゃくちゃ腹が立つ態度取ってくるな。今どき、珍しいくらい嫌なやつだよ。
こんな人当たりで世の中渡っていけるのか?
逆に心配になってきた。
「どうですか?一緒に湖の様子でも見に行きません?あなたのこともっと知りたいな。」
すごい、今までにないタイプの露骨な誘いをしてくるタイプの人だ!
園山さんにめちゃくちゃ熱視線を送っている!
「……お断りします。」
「ああ、大会直前ですからね。それじゃあ、終わったらゆっくりお食事でも。」
「……お断りします。」
「恥ずかしがることはありませんよ。あなたのような美しい女性なら当然の誘いです。」
「あんた、人の話し聞かないタイプだなって言われることないか?」
さすがにぼくもツッコミをいれざるをえなかった。
しつこすぎる……。
「釜石、おまえ、大学の評判を下げるつもりか?」
「いいえ、そんなつもりはありませんよ。でも、あまりにも美しいのでね。では、終わったらまた会いましょう。」
そう言って、釜石なる人物は自分のボートの方へ戻っていった。
「哲太郎さん、大学の後輩って彼みたいな人ばっかりなんですか。」
「い、いや、あいつは特別だ。」
「……不愉快。」
え、珍しい!園山さんが不快を表明した!
いつも何言われても特に反応がないのでナンパしてくる人もなんかどんどん諦めていく園山さんが!
不快感を表明!
「私も、ああいう強引すぎる人はちょっと……。」
「ああいうタイプが好きな女の子っているのかなあ。」
「どうでしょうね。」
吉田さんとぼくは頭を突き合わせて悩んだ。
そこに園山さんがぎゅうぎゅう挟まってきた。
「負けたくありません。」
「ろ、露骨!」
「ぼくもああいう手合は好きじゃないね。」
「がんばりましょう。」
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カヤックに腰掛けて、パドルを動かしてみる。
ゆるやかにカヤックが前に進む。水の飛沫が心地良い。暑い夏にぴったりのスポーツだなという感触がある。
……てか、このイベント、宣伝すれば人気出るんじゃないか。
「あんな意気込んたけど、コレで勝てるという気がしない。」
「弱気じゃだめよ。」
「そうは言うけどなあ。」
園山さんに発破をかけられる。まあ、たしかに戦う前から気持ちで負けていては仕方ないな。
よし、頑張ろう。とにかく、あの釜石とかいういけ好かない男には勝ちたいところだ。
「それに……。」
「それに?」
「優勝したら、金一封ですよ。」
「そんなにお金には困ってないつもりだけど。」
「え、中に入ってるのはお金?」
「逆に何が入ってると思ったの?」
「金?」
「え、貴金属封入されてるの?そっちの方が出すの大変そうだけど。」
「金粉が入ってます。」
「それもらって何に使うんだよっ!」
「螺鈿細工に使うことができるわ。」
「それ、できるのごく一部の伝統工芸技術を持っている人だけだからね。」
「この際だから、学んだらどうかしら。」
「このボートレースで将来が決まっちゃうんだ。」
「毎年、優勝を狙っていきましょ。」
「優勝できないと、細工用の材料が手に入らないの、仕事としては厳しすぎない?」
「次の年から、優勝賞品はお米になってるかもしれないわ。」
「そしたら、即廃業じゃない!」
フフ、と園山さんが笑顔になる。ぼくも、なんだか笑顔になってリラックスできてしまった。
「はい、これ、スポーツドリンクです。」
吉田さんが、飲み物を持ってきてくれた。ありがたくいただく。
「頑張ってくださいね!」
「ありがとう、がんばるよ。」
「あの大学生、私も好きじゃありません。優勝、お願いしますね。」
「あら、私は応援してくれないの。美優。」
「風香さんのことも応援してますよ!」
「そう、フフフ。がんばるわね。」
「でも、彼に優勝してほしいですね。」
「そしたら、私が優勝して、彼を自由にするわ。」
「ず、ズルいです!」
「あの、ぼくの意思を無視して勝手に話しを作り上げないでくれない。」
そうね、と言って、園山さんはスタートラインへ漕ぎ出していった。
ぼくも、スタートへ向かわなくては。
吉田さんが、手を振って応援してくれている。
ぼくもパドルを持ち上げて、それに応えた。
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