第53話

「高須部長!なんとか生き延びてください!ぼくは園山さんを落とします!」

「こ、後輩くん!!!」


 ぼくが選んだのは、攻撃の道、高須部長のアンジェリカを落とすためにこちらへ移動してきている園山さんのライデソと戦うという道だった。

 離脱した吉田さんのフェイと、高須部長のアンジェリカ、現時点では、五分と五分といったところだろう。

 しかし、園山さんのライデソは強い。

 中途半端な対応をすれば、ぼくたちのチームはたちまち二機とも落とされる可能性が高い。


「それに……。」


 このバーチャオフ・フォースは、隊長機を落とせば勝てるのだ。園山さんを落として勝つというやり方にぼくは賭けた。


「やらせてもらう!」

「そう簡単に。」


 ミドル・レンジからのダッシュでぼくの747は距離を詰めようとする。

 そこに突き刺さるレーザー。レーザーの回避のため、ジャンプを余儀なくされる。

 着地を狙われることを危惧したぼくは、ジャンプキャンセルし、再度、別方向へダッシュ。


「ちょこまかと動き回って…落ちなさい!」


 園山さんはバズーカの弾頭をばらまき、ぼくを牽制した。

 足を止めればバズーカをもらう。


「そんな目くらまし!」


 レーザーブレードの光波を飛ばしてこれを対消滅させ、再度ダッシュ。

 この間に、ライデソのレーザーは再度、撃てるようになったかもしれない。

 その可能性が高いだろう。

 ぼくはグレネードを投げて、爆風を作り出す。この爆風は敵の攻撃を遮蔽するし、ぼくのテムを隠してくれる効果もあった。

 爆風が消えないうちに前へ詰め、近接の距離へ。


 ダッシュ近接でブレードを振ったが、園山さんのライデソは見越していたようにガードしていた。


「分かっていたが!」

「……クロス・レンジです。」


 クロス・レンジとは、近接格闘による攻防が行われる間合いのことだ。

 つまり、何を言ったかというと、何も言ってないのと同じである。

 ゲーマーは時々、遊びながら意味のないことをつぶやくものなのである。


「ぴぃーーー!!やられましたーー!」


 ぼくの意識が目の前のライデソ戦に集中している間、フェイとアンジェリカの対戦はアンジェリカに軍配が上がったようだ。

 フェイがダウンしている。高須部長を見ると、Vサインを出して笑っていた。


「やったぞ!」

「やりましたね!すごいです!!」


 でも、安心はできない。

 僚機は、ライフ・コンバートで復活させられるのだ。

 園山さん、どう動く……?


 園山さんのライデソは分散レーザーを放ち、ぼくたちの動きを封じ込めると、ライフ・コンバートで吉田さんのフェイへ向けてダッシュした。(ライフ・コンバートを使用すると、僚機の方へ向かってダッシュするのだ。僚機へ触れることができればライフが分け与えられる。)

 ぼくは、レーザーを回避するため、ジャンプした。

 そして、ダッシュしているライデソへ向けて、最後の賭けにでた。


「うおおおお!!いけーーー!」

「……!!!」


 ブルー・サーフィン。

 テムジソ系の隠し技だ。武器ゲージをすべて使い、レーザーライフルをサーフボードに変形させて相手に突っ込む大技だ。

 当たれば大ダメージとなるが、武器ゲージはすべて使い切るので、避けられればピンチは必死。しかし、このタイミングで勝つにはこれしかないと思った。


 そして。


「……負けました……。」

「勝った……。」


 ライデソのライフを、そのサーフィンで削りきり、ぼくは勝利した。

 ここまで、全力で戦った。

 その結果を得られたこと、そして、チームでの連携ができたこと、達成感でぼくは脱力した。


「やった!やったぞ!!」


 高須部長が喜んでいる。すごい喜びようだ。

 ……ちょっと!ちょっと喜びすぎじゃないですか、抱きつくのはどうなんですか、嬉しいけど良くないですよ。年頃の女の子がだよ!

 ほら、なんかわかんないけど、園山さんも吉田さんもぼくに抱きついちゃってるじゃないですか!

 もう、やめ!みんなやめ!


「ええい!分かったから離れて!」


 ------


「その、なんていうか、楽しかった。ありがとう、園山くん、吉田くん。」

「……私も、ありがとうございます。」

「……その、ゲームは得意じゃないんだけど、私も楽しかったです!」


 三人が熱く手を握り合っている。これで、夕日があったら完璧、スポ根ものなんだが。

ピオンモールのゲームセンターだからね……。


しかし、この感動的な場面を打ち壊すように、ニヤリと笑みを浮かべた高須部長が口を開いた。


「それで、私の勝ちということでいいかな?」

「……はっ!」

「うう、うう……。」


 結局、何を決めるんで対戦してたんだ、ぼくたち。

 三人の中ではなにか協議があったみたいなんだけど、ぼくにはさっぱりわからないんだよな。


「じゃあ、私と後輩くんのデートは続行ということで……。」

「仕方ない……。」

「そうですね、じゃあ、私たちは帰りますか。」


そう言ったふたりにぼくは声をかけた。


「え、でも、もう結構良い時間だし、みんなで帰らない?」

「え?」


 高須部長がなんか心底びっくりした顔をしている。

 な、なんでびっくりしてんの。だってそうでしょ、映画見て、ゲームセンターでバーチャオフのトレーニングして、対戦したら、もう帰る時間だよ。

 吉田さんも心なしかびっくりした顔をしていた。

 園山さんだけは、いつもどおりの表情をしている。


「そ、そ、そ、そんなぁ……。」


 高須部長がなんか言っている。

 ぼくは高須部長を慰めるためにこういった。


「もっと遊びたいのはわかりますけど、また今度みんなで来ましょう。」

「君って、どうしてそう、ドンカンなんだ!?こういう肝心なところに関してだけは!」

「え、ワンツーどんの話ですか?」

「なに言ってんだ!?いま音楽番組の話はしてない!!」


 何を言っているのかわかんないけど、バーチャオフ・フォースをやろうってことだろ?

 分かってる。面白いもんね、バーチャオフ。


「じゃあ、帰りましょう。」


 そう言うと、ぼくは高須部長の手を握って、バスのりばへ向かって歩き始めた。もうこうなったら議論してるだけ無駄なのだ。それに、口論で高須部長に勝てる気がしない、そうなったら日がまたぐまで遊んで暮らすことになるかもしれない。それは避けたい。


 高須部長はなにかモゴモゴと言っていたが、一緒に歩いてくる。

 しばらく歩くと、吉田さんがぼくの反対の手を握ってきた。

 ……もし、幼稚園のときとかからの友人がいたなら、こうしてみんなで歩いたりしていたんだろうか。

 対戦の興奮が残っているなか、すこしウキウキしながら、ぼくは歩いていた。


 □□□□□□□□


「じゃあ、また今度ね。」


 そう言って、駅前で別れる。

 楽しいことに、終わりはつきものだ。

 映画も楽しかったし、みんなでゲームで遊ぶというのは、ぼくにはあまりない経験で、やはり嬉しいという気持ちでいっぱいになっていた。


「帰ろうか、園山さん。」

「ええ、帰りましょう。」


 園山さんと二人で歩き始める。


 陽の光が、僕たちの影を地面に落とす。影を見ながらぼくは歩いていた。


「最後。」

「はい、なにかしら。」

「なんで、吉田さんのことを助けに行ったのかなって。」

「……。」


 フォースの対戦、最後のライフ・コンバートの理由、なんとなく聞いてみたくなった。

ぼくと同じように、園山さんはぼくのテムを落とすという選択もあったはずだ。どちらの選択肢がいい、という話ではない。ただ、理由があるなら知りたいと思っただけだ。


 園山さんの目が、ぼくの目を見た。

 あの刺すような鋭い眼光。それもずいぶん久しぶりに感じる。

 ……吸い込まれそうな、園山さんの瞳。

 でも、ぼくは安心感をなんとなく感じている。

その瞳の中に潜む光の訳を、知っているような気がするから。


「美優は、大切なですから。」

「そう。それは良いね。」

「……そうなのよ。」


 フフフと、園山さんが笑う。

 バーチャオフ・フォースの対戦、楽しかったね、などとぼくたちは話しながら帰る。


 いつの間にか、ぼくと園山さんの手は、繋がれていた。

 ぼくは、そのことに違和感を感じることがなかった。


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