第52話

「バーチャオフとは、どうするものなのだ?」


 高須部長の疑問はもっともなことです。そもそも何でバーチャオフで何かを決めるという事態なのかもわかってないぼくのような人間もこの世界にはいることにはいるのですが。


「えーと、ロボットを操って戦い、相手と対戦するゲームです。」

「え、ロボットバトルってそういう感じなのか。」

「そうです。園山さんがいたく気に入りまして……。」


 高須部長と吉田さんは園山さんの方をばっと見た。


「園山さんが遊びたいだけじゃ。」


 ぼくが言うと、園山さんは目を閉じて頭を振る。


「意見が食い違ったとき、その意見を通すことができるのは勝者なのです。」

「その理論で行くと、世界は途端に世紀末になるんだけど。」

「今世紀はまだ前半ですが……。」

「いや、そうじゃなくて……。」


 説明が難しいな。


「文明を否定することになるってこと!」

「バーチャオフは充分文明的でしょ?」

「一概に否定できなくなった。」


 殴りあいじゃなくてゲームで決めるんだから、文明的かもしれない。

 となると、バーチャオフをやったことのない高須部長と吉田さんのフォローが必要になるな。


「トレーニング時間を設けよう。」

「トレーニングですか。」


 すぐさまバーチャオフをやりたいらしい園山さんは少し不満そうな雰囲気だ。


「吉田さんも高須部長もバーチャオフで遊んだことがないんだから、必要でしょ。」

「……それもそうですね。」


 ぼくが高須部長に、園山さんが吉田さんにレクチャーすることになった。

 対戦台を占拠してレクチャーを開始する。


「じゃあ、ツインスティックの基本的な使い方から……。」

「ひゃ、ひゃい!」

「緊張しないでください。」

「そういってもな……。」

「操作方式の間だけですから。」

「そ、そうか……。」


 ぼくは出来る限りわかりやすくバーチャオフの説明を高須部長に教えた。対戦でいきなり勝てたりはしないだろうが、少なくともゲームに参加できるようになったはずだ。


「こう言ってはなんだが、結構面白いな、このバーチャルなんとかは。」

「面白いですよね!ぼく、このゲーム大好きなんです!」


 そういうと、高須部長はなんか下を向いてしまった。あれ、なんか気に障ることでも言っちゃったかな?

 なにが気に障ったのかわかないんだけど。


 吉田さんと園山さんのチームに目を向けると、なんか、吉田さんが頭を抱えながらやっているようだった。


「どう?楽しめそう?」

「う、うん、園山さんは丁寧に教えてくれるんだけど、やることは多いし、ロボットは早いしで私がついていけなくて……。」

「ああ、分かるよ。」


 バーチャオフはハイスピードロボットバトルと言われるだけあって、ロボットが動く速度が早い。

 この早い状況に対応するのが大変なのだ。ちなみにこのスピードが爽快感を生み出しているので、これを失くすというのも難しい。


 有り体に言って、人を選ぶゲームだ……。


「とにかく、がんばってみるよ。」

「私と練習で対戦しましょう。美優。」

「ぴ、ぴぃー!?」


 なんか、すごい鳴き声出てたけど、大丈夫かな。とりあえず園山さんにまかせておこう。


 --------


 というわけで、バーチャオフ・フォースの対戦が始まる。

 チームはぼくと高須部長、園山さんと吉田さん。まあ、師弟で組んで戦う感じだな。


 バーチャオフ・フォースはバーチャオフの続編で、2vs2で戦うというチームバトルのロボット対戦ゲームだ。

 バーチャオフのロボットたちがほとんどそのまま使えるし、操作方法もほとんどそのままなので、バーチャオフを楽しんだプレイヤーなら違和感はないはず。


「というわけで、このマッチを制したチームの勝ちということで。」

「……異存ありません。」

「まかせてくれたまえ!ばっちりやっつけてやるからな!」

「あ、あの、よろしくおねがいします。」


 という訳で、4人が同時に対戦台に座る。このコクピットを模した筐体は座るだけで気持ちが盛り上がってくる。


「なんとしても勝つぞ!後輩くん!」

「はい、高須部長!」


 なんか、ぼくの方が弟子みたいな感じになってるんだけど、いいか、楽しんでくれるなら。


 ぼくがテムジソ747、部長がアンジェリカ。園山さんがライデソ、吉田さんはフェイ・ウィンを選んだ。

 リーダー機はぼくと、園山さん。

 リーダー機のライフを0にすれば勝ちだが、チーム内ではライフ・コンバートという自分のライフをチームメンバーに分ける能力がある。

 ライフ・コンバートをどう使うのか、どう攻めるのかがこのゲームのポイントだ。


『Get Ready...』


 ついに始まった。


「部長、吉田さんをお願いします。ぼくは園山さんを抑え込みます。」

「よし!では行くぞ!」


 遠距離から魔法を放つアンジェリカが吉田さんのフェイを攻撃し始める。

 アンジェリカは装甲が薄く、攻撃を受けると大ダメージになってしまうため、ぼくは高火力機体である園山さんのライデソの注意を引くため、ライデソに接近した。


 ライデソとテムジソの足の速さであれば、近づくのは容易であるはずだ。一般的には。

 しかし、ライデソの特徴である高火力がそれを阻む。肩から放たれる極太レーザーをくらえば、テムジソなんてあっという間に蒸発してしまう。

 弾幕のように使われるレーザーとバズーカによってテムジソの接近はうまく行っていない。

 しかし、ある意味では、アンジェリカから意識を逸らすことに成功していると考えるべきか。


 フェイとアンジェリカの戦いは、一進一退だ。

 ある意味では、二人共初心者でほとんど初対戦なのだから、もう、そりゃ楽しいレベルだ。

 なんといっても、ボタンを押して攻撃が出て、それが相手に飛んでいく、そういうのを見ているだけでも楽しい。

 それが、バーチャオフの楽しさでもある。

 まあ、初心者でありがちなのが、足を止めての打ち合いなんだけど。

 でも、それが楽しいのなら、それでいい。ゲームは楽しまなくちゃ。


 それはそうと、テムジソvsライデソ戦。ぼくのハンドグレネードでカス削りはあるけど、決定打にかける。

 ぼくもレーザーでもくらおうものなら、ダウンして抜かれ、アンジェリカを落とされるのは明白だった。


「ぼくもフェイに行きます。部長は攻撃を続けてください。あと、ライデソの攻撃に気をつけて。」

「ま、まかし、難しい!難しいよ!?ふたつのことをいっぺんにやるのは。」

「わかってる!」

「わかられてもなあ!」


 ぼくはターゲットをフェイに変更して、ダッシュした。ライデソが追ってくる。

 ジグザグにダッシュしているところにレーザーが飛んでくる、めちゃくちゃこええ。

 そうこうしたが、フェイに接近できた。


「あ、これ、貴方なの。」

「そうだよっ!っと。」


 前ダッシュからのレーザーライフル。フェイからダウンを奪えた。追撃の近接でさらに少し。


「ぴぃー!やめてー!」

「悲しいけど、勝負だからねっ!」


 起き上がったところに、近接のレーザーブレード。これで落とせると思ったところに後ろからグラインド・ボムが来てぼくのテムジソはダウンした。

 ライデソはアンジェリカを攻撃せずにぼくを追い続けたのだ。

 ダウンで攻撃の手が止まる。

 その間に、フェイは距離を取った。

 アンジェリカの魔法がライデソに飛んでくる。ぼくは立ち上がり中。

 ライデソは、アンジェリカの魔法をアーマーで受けながら、レーザーをアンジェリカに放った。

 あ、いけない。

 高須部長はまだ回避がおぼつかない。

 アンジェリカはレーザーをまともに食らってダウンした。8割のライフが削られている。


 ぼくは選択を迫られた。

 ここでフェイを追ってフェイを落としてしまう。これは確実だが、高須部長のアンジェリカを犠牲にする可能性が高い。高須部長を信じているか、切り捨てているかになるのだ。

 次に、アンジェリカにライフ・コンバートをするために下がる選択肢。これは高須部長を信じていない風にも見えるが、戦力を保ち、継続して攻撃を行う戦略でもある。ただ、勢いは落ちるので、その後の攻撃は難しくなるだろう。


 ぼくは……。


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