第51話
「こ、このカップルシートというのがいいんじゃないか!後輩くん!」
映画のチケット窓口でそう早口でまくしたてたのは高須部長だ。
正直なところ、カップルシートはハードルが高い。映画どころではない気がする。
「その……ぼくと部長はカップルではありませんので、普通の席でよろしいのではないかと。」
「そうか……。」
そんなに残念そうにしないでくれよ、良心が痛むだろ。なんで、カップルシートを断ってこんな心が傷まないといけないのか。
カップルシートって、いわゆる、そのお付き合いをしてる人がチョイスするやつだろ?
「こっちの席なんか、周りが空いてますから、ゆっくり見られますよきっと。」
「じゃあ、そっちにするか。」
そう言って、ぼくたちは隣り合う席を確保した。もし、カップルシートに座るときがきたら、それは……ぼくが誰かと男女交際をするときだろう。
映画が始まるまで時間があるので、ポップコーンと飲み物を買い、ぼくたちは指定されたシアターへと向かった。
「実はこの映画館にくるのは初めてなんだが、キレイで広いんだな。」
「そうですね、ぼくもあまり映画は見ませんが、とても快適にすごせそうです。あ、席はあそこのようです。」
見ると、どうも先客が座っているようだ。ぼくたちが席を予約したときは空席だったはずだが、その後誰かが予約したんだろう。
ぼくたちは予約した席の方へ歩く。歩いていくと……ん?どうもあの姿は見たことがある気がするぞ……。
「そ、園山くん!」
高須部長が気がついて声をかけていた。
そう、誰あろう、その席に座っていたのは園山さんだった。
なんでえ……。
なんで園山さんがここにいるんだ?そしてなぜピンポイントでここに座っている……?
「すまん、映画に来るということは私が教えた。」
「ぶ、部長!!」
犯人は部長、高須 花江さんでした。
「なんで、そんなことを。あ、みんなで楽しもうと思って?」
「いや、合宿の夜、私と園山くんは同じ部屋だったろ?で、色々話をしてて、君と映画を見に行くという話をしたんだ。」
「それは……なんというか。」
自爆じゃないのか?まあ、別に、部長が言ったんだったらいいんじゃないの、という気もしてきていた。
園山さんが、こうついてきてしまうのは、もはや運命めいている……。
「私もいますよ!」
「よ、吉田さん!」
「え、だ、誰?お友達かい?めちゃくちゃ可愛い子だけど。」
「同じクラスでお友達の吉田さんです。」
後ろの席に陣取っていたのは、吉田さんだ。
な、なんでえ……?
「私が吉田さんを誘って映画に来たんです。」
園山さんが言う。吉田さんも、なんか頷いている。
「ぼくたちとは別にふたりで映画に来たんだ。随分、仲良くなったんだね。嬉しいよ。」
「ええ、園山さんとは本当に色々お話したりして、仲良くなったんですよ?」
「……仲良し。」
本当か……?
「その割には、なんか、席のとり方が、僕を中心にしてインペリアル・クロスみたいになってるんだけど。」
よいか、吉田さん、お前が一番安全な位置だ。
どうなっちゃうの、ぼくが初代皇帝になるのこれ。
前衛にいるべきパリイ持ちがいないけど。
「なんででしょうね。」
「なんででしょうね。じゃないよ!わざとでしょ!」
「静かにしないと、迷惑ですよ。」
「ぼくが悪いのこれ……。」
映画の予告が始まり、ぼくたちは席に座った……。
●●●● ●●●● ●●●●
「神の!神の怒りに触れたのだ!!」
「ああ、殿!どうされたのですか!!」
グラグラ揺れる画面、現れたのは、異形としか言いようのない恐ろしい怪物。
映画の場面的には、一番盛り上がるところ。恐ろしい怪物もでてきていよいよクライマックスだ。
と、そこにきて、ぼくの腕を抱きかかえるものが現れた。
高須部長だ。なんか、高須部長がぼくの腕をぎゅっと抱きかかえている。
あの、本当、良くないです。
美人のね、女性がですよ。思春期の男の子に不用意に触れては、もう間違いなく勘違いするからね。
とその次は反対の腕が抱きかかえられた。
園山さんだ。
え、園山さんも!?
ぼくは、もう映画どころではなくなった。園山さんの身体の柔らかさが伝わってくる。
悪霊退散!悪霊退散!煩悩よ!去れ!!じゃないと死ぬ!何かが!
とかって言ってたら、後ろから、ぼくの首を締めるものが現れた!
吉田さんだ!!
最後の刺客、吉田さんが的確にぼくの首をキメにかかる。
もう、柔らかいとか、思春期とかそういうレベルじゃない。
この、美人だらけのインペリアル・クロスの中でぼくの意識は刈り取られようとしていた。
「神よ!!お鎮まりください!!」
ぼくもみんなに静まってほしかった。
さよなら……現世……。
●●●● ●●●● ●●●●
「大丈夫か!後輩くん!!」
誰かがぼくを揺り起こす。ぼくは遠のいていた意識をなんとか引き留めて、覚醒させた。
「い、異世界に着きましたか?」
「そんな乗り合いバスみたいな感じで行けるのか?異世界って。」
「どうでしょうね?やっぱり行くならトラックでしょうか。」
「……なにの話なの?」
ごめん、ちょっと意識が朦朧としていて、現状を掴みかねたんだけど、現世だったようだ。一緒に映画を見ていた友達がみんなぼくの顔を覗き込んでいる。
「すみません、寝ちゃってましたね。」
「あのクライマックスでよく寝られたな。」
なんで、あの大暴れする怪物のシーンをみて寝ちゃったんだろう。ぼくもよくわからない。
ただ、なんかやたら柔らかいなにかに包まれたような気はするんだけど。
「とりあえずでませんか。」
園山さんが提案する。こう、状況が有耶無耶になってしまったときに的確なところに戻してくれるのって、案外園山さんだったりしてるよな。
同じくらい、とんでもない状況に叩き込んでくれるのも園山さんだったりするけど。
映画は楽しかった。多分。なんか記憶がところどころ飛んでいるんだけど。
それよりもだ……なんか、高須部長と二人で来たはずなのに、いつの間にか四人になっている。高須部長も同じようなことを考えていたようで、全員の顔を見回して口を開いた。
「こう集まっているところ、悪いんだが……二人はここでお別れだよな?」
「……。」
「えーと……。」
高須部長の質問に、園山さんも吉田さんもなんかだんまりを決め込んだ。
高須部長がふたりを引っ張って向こうにあるいていった。
「(なんでだよー!私が!私が勝ち取ったデートなんだぞ!)」
「(ズルいです、部長。)」
「(ず、ズルくなんかないもん!ちゃんと電話して誘ったんだぞ!)」
「(そうそう、抜け駆けですよ、先輩。)」
「(ぬ、ぬけっ!?抜け駆けも先駆けもあるか!こういうのはちゃんと心を射止めたものが勝ちなんだ!!)」
「(勝負で決めましょう。)」
「(勝負ってなんの勝負だ、園山くん。)」
「(バーチャオフです。)」
「(バーチャオフ?)」
「(バーチャオフってなんだ園山くん。)」
「(ロボットバトルです。)」
「「(ロボットバトル……?)」」
あ、なんか、三人が戻ってきたな。
「というわけで、バーチャオフで決めることになりました。」
「何を決めるんだよっ!?」
次回、バーチャオフ・フォース! フォーマン・レスキュー!
助けてほしいのは専らぼく!! ご期待ください。
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