第50話
「おお、これがゲームセンターか、いや、知ってる。知ってるぞ。初めて来たわけじゃない。」
「別にそこはごまかさなくてもいいですよ。」
高須部長はゲームセンターの様子を見て、すこし感動しているようだ。
高須部長はどちらかというと、自分の興味のあるもの以外は気にも止めない性格なので、目に入ってはいたが、それがなんなのかについては覚えたりしてないのだろう。
「早速入ってみよう、後輩くん!」
「はい、行きましょう。」
二人でゲームセンターのフロアに入る。少し前に来たけど、ゲームセンター自体のラインナップに変化はなさそうだな。
光と音の洪水に高須部長は目を輝かせ、辺りを見回している。
「まあ、こう眺めてもなんなのか分からないな。」
「ひとつひとつ見ていきましょうか。」
「そうしよう、エスコートを頼むよ、後輩くん。」
「はい、では、順番に見ていきましょうか。」
そう言ってゆっくり歩き始めた。最初に見えてきたのは、ゲームセンターの定番となったあれだ。
「これはクレーンゲームですよ。あの景品を取れたらもらえます。」
「クレーンゲームくらい知っているぞ。なんでも元は港で動いているクレーンらしいな。」
「え、そんな元ネタがあったんですか?」
「さあ?私も聞きかじったくらいしか知らないけど。」
ガセネタじゃないかそれ?とは言え一概に否定もできないかもしれない。理由としてもそれっぽいし。
「高須部長はやっぱり物識りですね。」
「いや、私も知らないことは多いし、たまたまだよ。」
「なにか、遊んでみますか?」
「うーん、そうだな、つぎのコーナーも見てみよう。」
「はい。じゃあ行ってみましょう。」
次のコーナーはビデオゲームが並べてある。昔ながらのゲームセンターといえば、このゲーム台が中心だったな。
「ここはビデオゲームのコーナーです。色々あるから、気に入るものもあるかもしれませんよ。」
「おお、すごいな。この、画面……ブラウン管というやつか?もうほとんど見ないから貴重だな。」
「ビデオゲームのコーナーで真っ先に注目するのがブラウン管っていうところが高須部長だなって感じしますね。」
「え、そ、そうか?」
ビデオゲームを遊ぶ人はもれなくこのブラウン管を注目はしていると思う。ただ、ブラウン管として注目しているわけではないが。
高須部長は物識りだし、クイズゲームなんか良いかも知れないな。
「高須部長、このクイズゲームなんかどうですか?クイズに答えて猫を育てていくゲームです。」
「クイズゲームか。面白そうだな、一緒にやろうか。」
「いいですよ、じゃあ、私はこっちに座りますね。」
高須部長の隣に座る。ゲーム台の前に二人で座るのは、ちょっと狭いんだよな。
「部長、狭くありませんか、大丈夫ですか?」
「え、だ、大丈夫!」
なんか、声が裏返ってるけど、本当に大丈夫だろうか……。ちょっと心配になったが、クイズゲームは楽しめているようだ。
「負けた……。」
「その、なんだ、すまん。」
ただ、高須部長は知識量がとんでもないので、ほぼ予想通りストレートで負けてしまった。これ、それぞれのプレイヤーが自分の猫福を育てるんだったな、そういえば。
「楽しかったですか?」
「ああ、なかなか楽しいな!あ、その、二人だからかな。」
「みんなで来ても楽しいと思いますよ。」
「そういうことじゃないんだが……。」
じゃあどういうことだ……。次は体感ゲームのコーナーだな。実際に身体を動かして楽しむタイプのゲームだ。
パンチングマシーンが目を引く。気にしてなかったけど、あんなのもあるんだな。
「後輩くん、あれはなんだ?」
「あれはパンチングマシーンですね。パンチ力を測定することができるんです。」
「へえ、ゲームセンターでなんでパンチ力を計測するんだ?」
「そこら辺は深く考えても仕方ないので気にしてはいけません。」
そんなものか……、と高須部長がつぶやいて、機械を眺めている。
まあ、パンチ力なんてわざわざ計測しなくてもいいよな、とぼんやり考えていると。
「よし、やってみよう。」
「なんで!?」
「せっかくだからな。」
「なんとなく、ぼくの知ってるせっかくと使い方が違う気がします。」
「まあ、いいじゃないか、あっちで私の勇姿を見てくれよ。」
どうして……と思ったけど、楽しんでくれているならいいと思うので、指さされた通りにぼくはパンチングマシーンの横に立って高須部長のことを見守る。
グローブをつけた部長が腕を振り回している。
「気をつけてくださいよ。」
「大丈夫だ、まかせておけ!」
そう言うと、部長はすこし下がって助走をつけた、そして、腕をふりかぶると。そのまま走って……ぼくの方にツッコんできた!
「いてえ!思わぬところからの殴打を受けた!」
「す、すまん!後輩くん勢いが余ってしまって!!大丈夫か!?」
したたかに部長の鉄拳を受けることになってしまった。
可憐な部長なので、そんなに強いパンチというわけではなかったが、勢いがあったので、身体がぶつかってしまい、ぼくは部長を受け止める形となってしまった。
「す、すまんな。」
「いえ、その部長はどこか痛いところはありませんか?」
「そ、その、大丈夫だ、君が受け止めてくれたから。」
なんか、部長が腕を回してぼくに抱きついている。どこか、やはり悪いところがあるんだろうか。
「本当に大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だけど、もう少しこうさせて。」
ぶつかったときのショックがあったのかもしれない。ちょっと落ち着くまではこうさせてあげよう。
「ちょっと、身体を動かすのもなれてないと難しいな。」
「部長は体育は得意なんですか?」
「ん?私か?その、いつも普通にしてるぞ、なんとかな。」
「なんでもできる部長だと思ってたので、ぼくと似たところがあって安心しました。」
「そうか?私だって、普通に、女の子だぞ。」
「ええ、知ってますよ。とっても魅力的な女性だってことは。」
そう言うと、部長はやっと離れてくれた。
「そ、そういうのはズルい。」
と言った。
ズルいのは部長です。
ぼくの心臓はさっきからドキドキが止まらないから。
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