第49話
「待たせたな、後輩くん。」
「高須部長、おはようございます。待ってませんよ。」
「そうか?まあ、まだ集合時間の30分前だもんな。」
「そうだぜ、この兄ちゃんが来たのも、ちょうど5分くらい前だからな。」
「その……そちらの方は知り合いかなにかか?」
「いえ、その……。」
「俺は行くぜ、じゃあな。」
駅前に現れるナンパ野郎は去っていった。そういえば、知り合いでもない高校生に話しかけると通報されますよって言ってなかったな。
「あの人はこの駅前広場によく現れるナンパ野郎です。ラノベだと導入によく使われる人です。」
「え、ラノベ?何を言ってるんだ?現実と混同してはいけないぞ。」
「……ええ、そうですね、ぼくもそうは思うんですけど。」
それはともかくとして、今日は高須部長と映画を見に行く約束の日だ。
今日の高須部長は、ネイビーに水玉のワンピース。麦わら帽子に、ショルダーバッグ、キュートなワンポイントがあしらわれたミュールだ。
諸君らはこういう女の子のファッションに関する描写はどうだい?これ、ぼくが一生懸命、頭の中で服とその名前を結びつけてるからね、もしかしたら間違ってるかもよ。ファッション的におかしいとか。
そういうのは容赦してくれ。
「高須部長のファッションは、普段学校で見ない分、新鮮に見えますね。すごくお似合いですよ。」
「そ、そうか?そう言ってもらえると、不動を呼び出して選んだかいがあったよ。」
「え、不動会長を?その、ちゃんとお礼は言いましたか。」
「君は私のことをなんだと思っているのかね。礼など、あれ、言ったと思うけど。」
「改めて言っておいたほうがいいですよ。あと、そういうネタバレはしないほうが良いと思います。」
「ね、ネタバレ?誰かに頼ってがんばりました的なことか?そ、そうか、まあ、いい!映画まで時間があるから、ピオンモールでショッピングと洒落込もうじゃないか。」
「はい、じゃあ行きましょう。」
高須部長は、いつもの通り、大股でバスのりばへ歩き出した。ぼくも慌てて横にならんでついていく。
ピオンモール行きの直通バスは利用者が多いので、頻繁に出発しているようだ。
バスの中で高須部長に話しかける。
「高須部長はピオンモールにはよく行かれるのですか。」
「そうだな、あそこはちょっとマニアックなシミュレーション・ゲームが無いからな。馴染みは薄いな。」
「理由が。」
「黄色い潜水艦の店の方が行ってるかもしれないな。」
「そうですか、じゃあ、今日は新鮮な気持ちで楽しめるかもしれないですね。」
「君は、その前向きな発想がすぐに出てきて素晴らしいな。」
「ありがとうございます。」
「あと、もっとくだけた話し方でもいいぞ。」
「そうですか、気をつけますね。」
「うむ、その方が、その、なんだ、仲がいい感じがするだろ。」
「あ、もうすぐ到着ですよ。」
バスはピオンモールに着くようだ。高須部長と話しているとあっという間に時間が過ぎていく感じがするな。
ピオンモールを見て、高須部長がつぶやくのをぼくは聞き逃さなかった。
「……こんな大きかったっけ。」
「本当にあんまり来てないんですね、高須部長。」
すると、高須部長は顔を赤くして、
「た、たまにくるぞ、不動とかと。」
「そうですか、ぼくもあんまり来てないから大丈夫ですよ。行きましょう。」
お、おうと言いながら、高須部長は店に入っていく、ぼくも横に並んで歩く。
空調が効いており、過ごしやすい気温になっている室内は、すでに人が多く歩いていた。
高須部長は、中に入るなり、左右をキョロキョロと見ている。
「ど、どうしようか。何か楽しいところはあるかい。」
「そうですね、変わったものをいっぱい置いてある雑貨屋みたいな本屋がありますよ。行ってみましょう。」
「そ、そうか。行ってみよう。」
変なものを大量に陳列している面白い書店へ向けて二人で移動した。
夏休みということもあるし、人が多いな。
「そ、その、はぐれると困るから手をつなごう。」
「え、そうですね、わかりました。」
確かに困るけど、もう高校生だぞ大丈夫じゃないか?とか考える脳みそはもう手をつないだ段階でなくなってしまった。
高須部長みたいな美人と手をつないだら、舞い上がってしまうに決まっているのだ。
道中のことはあまり覚えていない。
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「面白いものがあるな!こういうの、私は結構好きだぞ。」
高須部長のテンションがただただ上がっている。わかるよ、このお店、見てるだけで楽しいもんね。
「じゃあ、早速入ってみましょう。見てるだけでも楽しいですよ。」
「そうだな、じゃあ、行こう。」
テンションが上がりきった高須部長が大股でお店に入ろうとする、しかし、その勢いが良くなかった。
高須部長の長い足が、しこたま積み上げられていたレトルトカレーのパッケージに触れ、崩してしまったのだ。
「あ、ああああ。す、すみません……。」
高須部長が目に見えて動揺し、しゃがんで拾おうとしはじめた。
ぼくも急いで拾い集める。
「大丈夫ですよ。結構、ぶつかっちゃう人が多くて、別の場所にしようかって言ってたんです。」
駆けつけてくれたお店のお兄さんが、そんなフォローをしてくれた。
三人で崩れたカレーのパッケージを拾い集めて、お兄さんに謝り、おとなしく店内を見て回った。
「ごめんな、後輩くん。私がガサツなばっかりに。」
「気にしないでください、高須部長。あそこのお店はちょっと陳列の密度が高すぎるので、仕方ないですよ。」
あんなにテンションが上がっていたのに、今はすっかりションボリしてしまっていた。
ぼくもちょっと心が痛い。そうだな、こういうときはどうしたらいいだろう。
好きなものをみたり、楽しんだりするのがいいかもしれないな!
「高須部長、部長は何が好きですか?ゲームは好きですか?動物が好きとかありますか。」
「え、そうだな、動物は割と好きかな。」
「じゃあ、ペットショップに行ってみましょう。」
「え、わわ、待ってくれ。」
ぼくは高須部長の手を握ると、ペットショップへ向けて歩き始めた。
ペットショップでは、ガラスケースの中に子犬や子猫が展示されている。
まだ生まれたての犬や猫は、好奇心旺盛で、コロコロと動き回っている。
「お、おう、可愛い……可愛いな!みろ、後輩くん、じゃれあっているぞ!」
「可愛いですね。高須部長は犬と猫、どっちが好きですか。」
「どっちも可愛いから決められないな。」
「そんな真剣に悩まなくてもいいですよ。」
ケースの中ではしゃぎまわる犬や猫を見て、高須部長が柔らかい笑顔になっている。
よかった。少しは気持ちを上向きにできたようだ。
「そうだ、ゲームができるのか?後輩くん。」
「ええ、ゲームセンターがありますから。」
「そうか、じゃあ行ってみないか?私は普段、ゲームはやらないが、たまにはやってみたいからな。」
「いいですよ、色々ありますから、好みのゲームがあると思います。」
そして、ぼくたちはゲームセンターへと向かったのです。
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