第48話
「うどん……完売です!」
お昼に巻き起こった怒涛のお客様ラッシュをさばききり、ぼくたちのうどん屋は売れるものをすべて売り切った。
うどんを茹でる釜からの熱で、ぼくたちはドロドロになりながらうどんを茹で、天ぷらをあげ、ネギを切った。
そして、すべての、本当にすべてのうどんを売り切ったのだった。
「やったなあ、後輩くん!これは偉大な業績だよ!」
「信じていたとおり、そのうどんが評価されました。」
園山さんと高須部長が手を取り合って喜んでいる。
ぼくも、感無量だ。まあ、あの二人と手を取り合うのはちょっと思春期の男子としては恥ずかしいので遠慮しておくが。
とにもかくにも、売上をすべて集計して、ハイパーうどんにギャフンを言わせにいってやろうじゃないか。
というわけで、松園さんとぼくとで、集計作業をやっている。
おふたりは、板間でだらーんとのびきっていた。
これだけのことをやったんだ、そりゃ疲れるわ。と思って、ぼくは放っておく。
それくらいの休みは当然、あっていいはずだ。
******
そこに到着して、ぼくはまったく、基本的なことを忘れていたんだなということに気がついた。
さて、戦をする上で、やらなければならない基本的なこととはなんだろうか。
孫子は言いました。
「己を知り、敵を知れば、百戦危うからず」と。
ぼくたちは知らなかったのです。
敵を。ぼくたちが戦うべき、ハイパーうどんとはどういうものなのかを。
デカデカと掲げられた看板にはこう書いてあった。
『サーフショップ ハイパーうどん』
「うどん屋ですらないっ!!」
これをツッコまずにいられようか。
横では高須部長と園山さんが看板を見て立っている。立ち尽くしていると言っても良い気がした。
と、とにかく、ハイパーうどんの中に入ってみなくては。
「いらっしゃいー!もう、今からだとあっという間に日が沈んじゃうよ!」
「これはどういうことだ……!」
「お前は!そのうどんの!」
お前は!じゃないよ……。前提がまず違っていた。
ハイパーうどんは、そもそもうどん屋じゃなかったのだ。
小粋なサーフショップだ。サーフボードや関連用品の販売、レンタルをするお店だったのだ。
「う、うどん勝負は……?」
「これを見てみろ。」
「あ、ひっそりとカウンター席があって、そこのメニューにうどんが入っている!ていうか、これ、このカウンターに座ったら頼むのはせいぜいサンドイッチくらいで、基本、コーヒーとか、レモンスカッシュとか、サーフィン談義向きのドリンクを頼むに決まってるだろ!!」
「ああ、だからうどんはほとんど出ないんだ。」
出ないんだじゃねえんだよなあ……。出していこうよ、じゃないと勝負にならないから。
サーフボードのレンタルと、かけうどん(大)じゃ、全然勝負の次元が違うんよ。戦わせちゃいけないやつだからそれ。
「うどん屋は……俺の夢だったんだ。」
「なんか言い始めた。」
「この辺りで、誰にも負けないうどん屋をやるって思ってたんだ。」
「お店のコンセプトとあってないだろ、そしたら……。」
「だがな、情熱は負けない!」
「情熱があったら、もっとなんかあっただろ!趣味の店にいちゃもんつけるとかじゃなくて!」
「お前たち、俺を目覚めさせてくれたな。」
「勝手に目覚めてくれよ、ぼくたちを巻き込まないで。」
「次の勝負じゃ、こうはならないぜ。首を洗って待ってな。」
なぜかキメ顔でそう言い放った小茂田を見て、園山さんが言う。
「……お断りします。」
ぼくも、もう勘弁してほしかった。
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「まあ、なんだ。貴重な経験だったじゃないか、うどん屋をやるなんて。」
「そうですかね。」
「私、うどん大好き。」
めいめい、適当なことを言っているな。ところで、園山さんの別荘というのはうどん屋とは別にちゃんとした古民家があって、そっちに寝泊まりができる造りになっていた。まあ、うどん屋の板間で寝るのかなと思っていたのは、早とちりだったようだ。
夕食も、入浴も済ませ、ぼくたちは囲炉裏の周りでなんとなくこう話をしている。
「明日からは、ついに歴史研究会の活動ですね。」
「おお、そうだな、楽しみにしておけよ。ちなみに内容は、シミュレーション・ゲームは二面指しだ。」
「なんですか、そのハードな内容は。」
シミュレーション・ゲームは考えることが多いので、1面やるので精一杯だとおもうのだが。
「なに、部員が三人だろ?一人で二面持てば、こう全員で対戦をできると思ってな。」
「部長は頭がいいんだか、なにか抜けてるんだかちょっとわかりかねますね。」
「私は楽しそうだと思うわ。」
本当でござるかぁ?
でも、二面指しなんて、たしかに合宿じゃないとできないかもな。
次の日からの歴史研究会の活動は大いに盛り上がった。
といっても、この暑い中で二面指しされているシミュレーション・ゲームは大混戦。
ぼくが二敗、園山さんが1勝1敗、高須部長が2勝となり、これ、負けてるのぼくだけじゃね。
園山さん、いつの間にかシミュレーション・ゲームも腕を上げていた。
「……研究しました。」
「良かったよ、好きなことが増えたようで。」
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その次の日は海水浴にでかけた。
生来のもやしっ子かつ、運動はからっきし苦手なぼくだったが、ふたりが勇気を出して水着で練り歩いてくれた恩を返さないといけなかった。したがって、ぼくも一緒にビーチへ行ったわけだ。
もうね、本当にオーバーキルだよ。
高須部長は普段から考えられないようなセクシーガールぶりだし、園山さんは、なんか形意拳みたいな動きしてたし。なんでだ?
いや、園山さんの水着姿は直視していられなかった。
「……どうですか。」
「すごく似合ってる。可愛いよ。ところでこれホントの話だから恥ずかしいんだよ。」
「こ、後輩くん、どうだ?私の水着姿は?なんかおかしくないか。」
「高校生にしてそのセクシーさはおかしいです。」
「それ褒めてるのか?い、いや褒められて悪い気はしないな。」
これで男性がぼくひとりなんだから、ものすごくいたたまれないよ。
嬉しいかと言われると、当然嬉しい。合宿に来てよかった。
ビーチではビーチバレーやら、バナナボートやらで随分と楽しませてもらった。
躍動する美少女たちが目の前にいて、本当にやりづらかった。ホントだよ。
こうして、ぼくたちの合宿は終了した。
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