第47話
「もうすぐお昼どきです。今すぐに海水浴場に行きましょう。」
ぼくは園山さんと高須部長に言った。
そもそもこの「そのうどん」は知名度が低い、低すぎる。その原因はそもそも商売を目的として営業していないこと。だから、たまに来た園山さんやら、松園さんやらがやってるだけで、売り上げだってささやかなものだったんだろう。
しかし、売上で勝負となれば、それでは勝ちが見込めない。
ぼくは園山さんと高須部長、あと多分、松園さんの貞操を守るため、この勝負なんとかして勝たないといけなくなった。
そして、宣伝と言っても、これはもう普通の方法では無理だ。
人目を引く方法に訴えなければ……となると、本当はやりたくないが、仕方ない。
「お二人には、水着になっていただきます。」
「え?わ。私がか?水着?宣伝でなんで。」
「現役女子学生が水着になって、練り歩いた方が断然宣伝になるからです!」
「……仕方ない。」
園山さんの諦めが良すぎる。高須部長は、さっきから顔を真っ赤にしてフリーズしてしまっているが、もうこれはなんとか諦めていただくしかない。
「高須部長の美貌がグワングワンに海水浴場に響き渡り、ビーチを焼き尽くすことになるでしょう!」
「何でそんな物騒な褒め方しはじめた!?」
「今、ここで立ち止まってる場合ではありません!皆さんの貞操を守るため、なんでもやります、ぼくは!」
さあさあとぼくは二人を別荘の奥へと追いやり、着替えさせる。
ぼくは、うどんを茹で、紙コップに小分けにして入れた。看板を持たせて歩くだけでもかなりの宣伝にはなるだろうが、試食があれば、うどん自体の売り込みになるだろう。
「うう、出るぞ、後輩くん。」
しばらくして、二人が着替えから戻ってきた。
「お、おお……。」
その姿にぼくは絶句した。
園山さんは、花柄のセパレート水着、元々スタイルがいい園山さんは、少しスポーティなセパレート水着がめちゃくちゃ似合う。透き通るように白い肌が、水着の柄を際立たせ、全体の調和が健康的かつ、ほのかな色香を漂わせる。
高須部長は、いわゆるワンピースの水着だが、ワンポイントでついたフリルの花が可愛い。そして、高須部長もスタイルが抜群なことよ。普段は目立たないんだが、体のラインがはっきりすると、色気がすごい。普段は適正な距離を保てているぼくだって、この部長を見たら、正直変な気を起こしてしまうかもしれない……。
はっきり言って直視できねえ。この二人を海水浴場に送り出さないといけないの?本当に?これオーバーキルだよ、きっと。
ぼくのライフは0だったが、もうとにかくなんとか頑張らないといけなくなってしまった。
「よし!行きましょう!試食もバッチリ用意しました!」
「お、おい、なんとか言えよ!感想とか。」
「今、言ったらきっと高須部長は動かなくなってしまうでしょう。はい、行きますよ!」
「……おー。」
二人にラッシュガードを着せて、色気ゲージを控えめに落とし、ぼくたちは海水浴場へ宣伝へ出かけた。
その間、松園さんがうどんを茹でている。
ーーーーー
海水浴場は、すごく綺麗な場所だった。
ゴミはほとんど落ちていないし、漂着物も少ない。砂も目の細かい綺麗な白砂で、正直、外国なんじゃないかと言うほどの幻想的な場所だった。
しかし、目を向ければ、海の家もあるし、パラソルもポツポツと立てられている。
いい場所だなと思うだけあって、人は予想以上に来ているという印象はあった。
「じゃあ、宣伝して歩きましょうか。ぼくが試食を持って歩きますので、お二人は宣伝をお願いします。」
「よ、よし、まかせろ。」
「……わかりました。」
そして、「そのうどんでーす。うどん屋でーす。茹でたてのうどんー。ぜひお店に来てくださーい。」などと、お店の宣伝文句を言いながら、ぼくたちは海岸を練り歩く。
高須部長が真っ赤になりながら一生懸命、声を出してくれているのをみて、ぼくは本当に本当に申し訳ない気持ちにも、少しなった。
「美味しいね!」
小さい子にあげた試食が喜ばれた時はやっぱり嬉しいと感じる。親御さんも顔を綻ばせ、
「じゃあ、お店に行ってみましょうか。」
と言ってくれた。
「水着に軽く何か羽織って貰えば、そのままお店で召し上がっていただいて構いませんよ。」
そこまで考えてなかったが、アドリブで決める。じゃないと、海水浴場近くっていう利点を活かせないものな。あとで松園さんに連絡しておかないと。
などと、やっていたら、向こうで園山さんと高須部長が男たちに絡まれていた。
……こうなるかなって、少し思ってはいたんだよ。
ぼくは急いでそっちへ歩いて行く。
「うどんねえ、いいけど、そしたら君たち、ちょっと俺たちと遊んでよー。」
「水着ってことは、そういうことも期待してたんじゃないのー。」
チャラ男っていう表現がまさにピッタリという男たちが二人にまとわりついている。
「なんだ君たちは、冷やかしならお断りだ。私たちは忙しいんだ。」
高須部長がいつもの通りの物言いをぶちかましていた。そういう点は本当に信頼できる。でもその正論パンチが前回のトラブルを引き寄せていたということもあるんですけどね。
「なんだコイツ、こっちが下手に出てりゃよう!おい、向こうに連れて行こうぜ。楽しませてもらおう。」
「あ、なんだ、やめろ。」
あ、これはいけません。何がいけないって、横に園山さんがいるのがいけない。
これがどうなるかというと……。
「がああああ!!」
はい、そうです、園山さんが実力行使に出てしまうんです。
高須部長をつかもうと伸びてきた手首を園山さんが掴むと、いとも容易く捻り上げ、砂浜に打ち倒してしまいました。
「イタタタ、おい、やめろ。」
「なんだこの女!おい、やめやがれ!」
「あー、はい。あなたもやめた方がいいですよ。ほら。」
もう一人の男が園山さんに掴みかかろうとしているのを静止した。ぼくは、ライフガードの人に声をかけて、きてもらう様に頼んだのだ。
「困りますねえ、こういうことは……。」
屈強なライフガードのお兄さんが、にこりとすごい笑顔をナンパ男Bに向けると、ナンパ男Bは怯んで止まった。
園山さんに打ち倒されていたナンパ男Aはぐったりして動かなくなっている。
砂浜に焼かれて体力がなくなったかな……?
「ちょーっとお話聞かせてもらいますねー。」
ナンパ男たちはライフガードのお兄さんたちが来て、持っていってしまった。
いやあ……助かったな。
「園山くん、君は随分と強いんだなあ。男一人をあんな簡単に打ち倒してしまうなんて。」
「……ぶい。」
「ぶいじゃねえんだよなあ。でも、怪我がなくて良かったですよ、二人とも。」
「い、いや、後輩くんが助けに来てくれて良かったよ。」
「本当、危ない目に遭わせてしまって申し訳ありません。」
高須部長の様子をみていたが、精神的なショックは少なさそうだな。多分、園山さんが怯えたりしてなかったことと、すぐさま男を打ち倒したのが良かったのかもしれない。
……考えてみると、本当にとんでもない女の子だな、園山さんって。
「試食も無くなりましたし、一旦お店に戻りましょうか。」
「そうですね。」
「よ、よし、戻ろう諸君!」
お店に戻ると、そこは思った以上の来客にごった返していた。
宣伝効果はあるだろうと踏んではいたが、まさかこんなに目に見えるほどとは……。
「お嬢様、早く助けていただけますか。」
松園さんがうどんを茹でながら言う。
ぼくは二人を急いで着替えに押し込めると、キッチンで天ぷらを揚げ始めた。
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