第46話

「それで、うどん売上合戦に勝つための作戦はあるのか?」


 事情を聞いた高須部長が素直な疑問を口にした。

 これ負けても良いやつでしょ……普通に営業すればいいじゃないと思ったが、ハイパーうどんの小茂田こもだは帰りがけ、こんなことを言っていった。


「勝った方は負けたほうに命令できるってことにしようぜ。俺が勝ったらそうだな、そのキレイな女に相手してもらうかな。」


 なんの相手だ、何の……。言っておくが、園山さんはめちゃくちゃ強いぞ。3メートルをひと飛びで距離を詰め、武術の達人もかくやという抜き手を放つ。園山さんが立会の相手になりゃ、生命がいくつあっても足りない。おまけに恋愛フラグもぼくの心もバキバキ折りまくりだ。最強すぎるだろ。

 ただ、ハッキリ言って、園山さんも、高須部長もあんなヤツの言いなりになるかもしれないというのは癪に触った。

 別に独占欲があるわけじゃない、と思う。でも、つまらない勝負事でどうこうされていい人じゃない。


「……うちのうどんは美味しいです。」


 まっとうに味で勝負するということか。飲食店としては当然、その路線で戦うのが普通だろうな。

 未確定な要素が多すぎるとも思うし、ぼくはそもそも、一介の学生であって、飲食店のプロというわけでもない。

 せいぜい、宿泊業のアルバイト。

 料理くらいはまあできるけど……味で勝負すると言っても、今から新メニュー開発というわけにも行かないし……。


「んー、わからんな!」

「普通に営業を始めて、適宜、作戦を考えて工夫するしかないんじゃないですか。」

「そうですね。」


 今から緊急で新しいことは無理だなあということで営業を開始することにした。

 大釜でグラグラと湯が沸いている。

 準備はとりあえずできたかな。

 高須部長に声をかけて、オープンすることにしよう。


「高須部長、看板を出してのれんもかけてもらえますか。営業を始めましょう。」

「任せてくれ!これだな。なになに、『そのうどん』」

「なんか、シャレが効いた名前ですね。」

「肩の力が抜けていていい名前だと私は思うけどね。」


 そう言って外に出ていき、なんか、表のあたりでアワアワしながら看板を立てている高須部長。

 あんまり看板とか扱ったことがなかったのかな……?あ、ちゃんと立てられたようだ。


「なんか追加で書いておこうか、後輩くん。」

「いいですね、おもわず食べたくなるような感じでお願いします。」

「そうだな……長宗我部元親御用達!って書いておこう。」

「歴史研究会っぽい!でも、完璧にウソでアウトですよそれ!そんな歴史あるうどん屋じゃないですから!」

「そんな……。」

「なんでショック受けてるんですか、誰だってわかりますよ、さすがに。」

「南部曲り家なのに?」

「ここ、岩手県じゃありませんからね。」


 岩手県にはうどんの文化無いし、長宗我部元親もまったく関係ない。諸君らは知らないかもしれないが、岩手県はどちらかというとそば食文化圏なんだ。だってわんこそばとかあるんだぜ。ちなみに、わんこそばってのは、無限にそばを食わせるタイプの拷問だ。


「まあ、新鮮なうどん!って書いておくか。」

「新鮮さを売りにしちゃう……?まあ、いいですよ、とりあえずそれで。」


 トンチキな看板を出してもらいつつ、ぼくは天ぷらの準備をする。

 揚げたてが一番だけど、作り置きしておかないと供給が間に合わなかったりするからな。

 ある程度は揚げておく。シュウウと音を立てて揚がっていくそれらをぼくは見ていた。


「あなた、揚げ物もできるのね。」

「え、まあ、できると食べたいときにすぐ作れるからね。油を大量に使うからそんなにやらないんだけど。」

「そう、上手にできてるわ。」

「あ、あの、ありがとう。」


 手放しで褒められるとすごく照れる。園山さんがなんか褒めてくれるのとかあんまり無かったから新鮮だ。

 とかって言ってると、お客さんが入ってきた。

 ……来るんだ、お客さん……。


 お客さん第一号は、近所に住んでいるらしいおばさんだ。


「いらっしゃいませ。」

「あらー、風香ちゃん、久しぶりねえ。」

「お久しぶりです。しばらく来られなくてすみませんでした。」

「いいのよお、学生さんなんだから。でもすっかり美人になって!」

「ありがとうございます。どうぞ、食べていってください。」

「はいはい、じゃあ、いただくわ。」


 おばさんはかけうどんとかき揚げをもらって板間に上がっていった。

 ぼくとしては、情報収集しなくてはいけなさそうだなと思い、板の間にあがっていく。


「あのー、こんにちは、うどんのお味はどうですか。」

「おいしいわよ。あら、こんにちは。貴方、風香ちゃんの彼氏かしら。」

「いえ、そんな立派なものじゃありません、友達です。」

「そうなの?ぴったりだと思ったのに。」

「ハハハ、あの、このうどん屋って、どういう方が利用されますか。」

「そうねえ、この辺に住んでて、知ってるひとが来るって感じよねえ。」


 そんなに知名度は無い感じか。表から見ても、あんまり目立たないものな。

 とすると、売上をあげるには、宣伝をしたほうが良さそうだな。


「ありがとうございます。じゃあ、ごゆっくりどうぞ。」

「どういたしまして、ところで、本当に風香ちゃんの彼氏じゃないの。」

「なんでそんな疑問なんだ!」


 と思ってちらと見ると、園山さんがぼくの方をガン見している。ぼくのことを気にしないでうどん、茹でて……。

 ちらほらとお客さんは来てるから。


「園山さんのことは気にしないでください。」


 ぼくはお礼を言って、キッチンに戻る。

 さて、この辺で宣伝をして効果がありそうな場所ってどこだろう。この辺りの様子を思い出す。鬱蒼と茂る森……。ん、宣伝するべき場所なんかなくないか?この辺は繁華というわけでもないし。

 いや、なにか見落としている気がする。

 あ、ビーチだ!海岸が近くにある!


「園山さん、この辺に海水浴場ってある?」

「ええ、少し歩いたところにありますよ。」

「そこに行こう。」

「……海水浴しますか?」

「そうじゃなくて、宣伝をするんだよ。」

「宣伝ですか。」

「そう、このうどん屋の宣伝をするんだ!海水浴客に来てもらおう!!」







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