第45話
「……父が、私がうどんを好きなのを喜んで、うどん屋を作ってしまったんです。」
「好きだからってうどん屋作っちゃう……?」
ぼくは、さすがにお金持ちの考えることってわかんねえなーって思いながら、店の掃除をしていた。
大抵の場合、うどんを大量に買ってしまって困るとか、毎日うどんばっかり出してしまって、怒られるとかそういう程度のことじゃないのか。
じゃあ、うどん屋作ろうって、ならない気がするんだよね。
「でも、なにぶん、場所が場所ですので、夏の数日だけ営業することになったんです。」
松園さんがあとを受けてぼくに説明してくれた。
「それでやめないで営業しようっていう気持ちがすごいよ。」
店内はそんなに広くない。
というか、いわゆる、古民家そのまんまだ。
土間が広く取られていて、そこにうどんを作る道具類なんかが整然と並べられている感じ。
こういう土間が広い造りの家って、なんかで見たことがあるな。
「あ、南部曲り家だ」
「お、後輩くん、きちんと勉強していたね。そう、南部曲り家だよ。昔の岩手県で作られていた家だね。」
さすが、歴史研究会部長だけあって、高須部長はそうそうに見抜いていたらしい。
「馬屋の部分が取っ払われて、キッチンになっているが、この土間と馬屋の部分でうどんを作って、板間で食べるっていうのは、理にかなっているつくりだよ。」
なんか、現代と中世の合わせ技って感じの建物なんだなこれ。
「私、この別荘の雰囲気が好き。」
「そうだね、別荘っていうか、うどん屋なんだけどね。」
ネギを切りながら、園山さんがそう言う。
ぼくは、天ぷらの衣になる小麦粉を混ぜて食材を切り、天ぷらのタネをつくっていた。
なんか……今度は園山さんのところでアルバイトしてる感じだな……。
「……一緒にこうして料理してるの、楽しい。」
「そ、そうかな。コテージでもやったじゃない。」
「……そうですが。」
どこか、超然とした雰囲気の園山さん。こういう雰囲気を出してるの、本当に久しぶりに見た気がする。
「この別荘で一緒になにかしたかったの。」
「そ、そうか、じゃあ叶ってよかった。」
と、そこへ高須部長がやってきた。
「テーブルを全部、きれいに拭いておいたぞ!次は何をするんだ?」
「高須様、それでは、表の掃除をいたしましょう。」
松園さんがやってきて、高須部長に言う。
「あ、私もなにか、料理を……。」
と言いながら、松園さんにひっぱって行かれてしまった。
園山さんはどこか遠くを見るような目でその様子を見ている。
「これ、うどん屋をやって、合宿もできるのかな。」
「お店は、今日と最終日だけ。」
「じゃあ、あいだの日は合宿に集中できるってことか。」
園山さんがこくこくと頷いている。
まあ、歴史研究会の合宿つっても、やるのはシミュレーション・ゲームなんだけどね。
「おう、邪魔するぜ!」
そんな声が聞こえて、入口の方を見る。
ガタガタと、戸を開けて入ってきたのは、どうにもお行儀のいい感じではない雰囲気の男だ。半袖と短パンだが、なんつーの、剃り込みを入れた感じのヘアー?とか安っぽいサングラスとかいろいろ。
なんだ?と思ったがぼくが応対しようとそちらへ歩いていく。
「申し訳ありません、まだオープンしてないのですが。」
「ちげえよ、客じゃねえ。おめーら、まだやってんのかよ、この店を。」
何を言ってるんだ。別に店をやろうがやるまいが関係ないだろという気がした。
「お前らみたいな弱小うどん屋がなあ、ウチの『ハイパーうどん』の横で営業されると困るのよ!」
「ハイパーうどん!?」
ネーミングセンスなさすぎか!?
「え、横にありましたっけ、そんなうどん屋。」
「あるよ!この先1キロのところになあ!」
「ああ……。」
田舎のスケールは、都会のそれと違う。北海道なら近所のコンビニが12キロ離れてるとかザラらしい。
もう1キロくらい離れたら、もはやお互いの商圏は重なってないと思うんだが。
「えっと、純粋にいちゃもんはやめてください。」
本当に、いちゃもんだ。なんの因縁もない。距離的にも。
「うるっせえよ!ウチの店の方が上だってことをなあ、証明してやるよ!」
「はあ、別に勝手にやっていただいて構いませんけど……。」
「売上で勝負しろつってんだよ!」
売上もなにも、この店、完璧に趣味の店だ。本腰入れてうどん屋で食っていこうという姿勢はゼロである。
それで売上って言われてもなあ……。
「わかりました。やりましょう。」
「園山さん!?」
「うちのうどんを馬鹿にされて、黙っていられません。」
馬鹿にされたって、うちのうどんも何も、素人が寄り集まってうどん屋をキャピキャピやろうっていう感じだったよ?!
「いいぜ、じゃあ、今日の売上で勝負だ!営業時間は午前11時から午後3時まで!いいな!」
「ええ。」
「ええ!?」
ええじゃないんだよなあ。
どうなってんの、勝負にならなくない?ハイパーうどんと!?
「……がんばりましょ。」
「頑張らないといけないのか?これは……。」
ぼくは困惑していた。園山さんは手を握りこぶしにして、ぎゅっと胸の前で締めた。
なんでそんなやる気なの……?
松園さんと、高須部長が帰ってきた。
「どうした、後輩くん。なんか困った顔してるぞ。」
「ええ、その、困りました。」
なんで困ってんのか分からないレベルで困ってる。
「うどんの売上勝負をすることになった。」
園山さんが言う。
「は?売上勝負?なんでかね?」
なんでだろうね。ぼくにはわからない。悪いのはハイパーうどんだ。
へんてこなネーミングセンスのくせして!
「ああ、あの変なうどん屋ですね。」
知っているのか、松園さん!
どうも、迷惑をかけてるのは今回が初めてではないようだな。
「みなさまでしたら、大丈夫です。」
「そ、そうですか?」
「よくわからんが、私もがんばるから、やってやろうじゃないか!歴史研究会の実力を見せてやろう!」
歴史研究会の実力……?わからん……うどんなのに……。
とにかく、ぼくたちはうどん勝負をすることになった。
「……がんばりましょ。」
「これ、勝っても負けても、色々と何にも影響しない気がする。」
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