第44話

「それじゃあ、行こうか!」


 高須部長の元気な声が響いて、我々、歴史研究会の部員は合宿に向かうはこびとなった。

 さっきから、園山さんの横に立っているお姉さんが気になるね。

 お姉さんは大学生くらいで、背が高く、ストレートパンツにカーディガンと控えめな服装だ。

 容姿も整っていて、園山さんのお姉さんかなと思ったが、血縁というほど二人は似ていないようにも思える。


「それでは……ええと、そちらの方は?」

「この方は、お手伝いの松園さんです。」

「松園みえと申します。お嬢様がお世話になっております。」


 園山さんのお家で働いているお手伝いさんのようだ。

 お手伝いさんとかいるの……なんか、純粋にお金持ちって感じがする……。


「それほどお金持ちではないです。」

「園山さん、相変わらずぼくの顔から心の中を読み取るのやめてくれる?」

「……すごく驚いた顔をしていたので。」


 相変わらずの読心力を発揮されて、ぼくはすこしたじろいだ。

 しかし、そんなぼくをお構いなしで高須部長が松園さんに話しかけていた。


「そうでしたか、はじめまして、歴史研究会部長の高須です、よろしくお願いいたします。」

「よろしくお願いいたします。それでは、お車にみなさん、どうぞ。」


 松園さんがそつない動きでぼくたちを車に誘導する。

 てっきり電車で行くと思っていたが、車で行くらしい。


「……車で行きます。」

「教えてくれるのが遅いよっ!」


 □ ))))))))


 車は山を超えて、海を目指す。

 鬱蒼とした深い緑に囲まれた山麓を抜けて、トンネルの先に見えてきたのは、キラキラと輝く海だった。

 この辺りは、自然の海岸なんだな。

 見慣れている港湾との違いを感じて、少し感動する。


「高須部長、今回の合宿でやることは決めてきたんですか。」

「ああ、心配するな後輩くん。バッチリみっちり、予定を考えてきたぞ。」

「……別荘の手伝いもあります。」

「忘れてないぞ、園山くん。大丈夫、ちゃんと時間を取ってある。」


 別荘の掃除ということだったが、どれほどのもんなんだろう。

 あんまり大きいと、時間がかかって大変だぞ。


「園山さん、別荘の掃除って、正直どれほど掛かりそうなもんなの?」

「そうですね……。掃除はいらないみたいです。」


 ん?なんか考えていたのと違うぞ。


「別荘についたらわかります。」

「え、なんか急に不安になってきたんだけど。」

「大丈夫だ、後輩くん。私がバッチリ仕切ってやるから!」

「心強いですね、高須部長。その自信が根拠のないものでなかったなら……。」

「き、キミねえ、失礼だろ、それは!」

「すみません、大丈夫です。頼りにしてますよ。」

「え、あ、あ、うー。ま、まかせとけ。」


 高須部長は急にしおらしくなってしまった。

 まあ、最近、時々あるんですよね、こういうことが。

 多分、深く考えるだけ無駄でしょう。それが思春期というものです。


 そんな風にくだらない話をしながら過ごしていると、松園さんが声をかけてきた。


「もうすぐ到着いたします。」

「わ、もう着くのか。あっという間だったな、後輩くん、園山くん。」

「ええ、そうですね。」

「感覚的には30分くらいでしたけど、時間も距離も大分かかってますね。」


 車が林を抜け、視界が開ける、海の照り返しと、白い砂浜が目を焼いた。

 砂利の道を進んでいくと一見の古民家の前で、車は止まった。


「……到着です。」


 園山さんが言うと、松園さんがドアを開けてくれた。

 ありがとうございます。と声をかけながら降りると、きれいな海と砂浜が目に入ってくる。

 さっき、窓ガラスごしに見たのと全然印象が違うなと思いながら、荷物を持ち上げた。


 松園さんが、戸を開けてくれているようだ。歴史研究会の一同はぞろぞろとその別荘へ入っていく。


 ○ ○ ○ ○   ○  ))))


「うどん屋じゃないか!!!」


 戸をくぐった高須部長の第一声がそれだった。

 確かに、もうどこからどうみてもうどん屋だった。

 大きな釜に、天ぷらの揚げ台、ネギを切るまな板台……。

 うどんを茹でてはいないものの、もう完璧、うどん屋である。


「……うどん屋ですね。」

「別荘じゃないのか、園山くん!!」

「別荘です。」


 園山さんが一切の動揺無く言ってのける。


「別荘じゃないよ!うどん屋だよ?!」

「うどん屋の別荘です。」

「うどん屋が、別荘を構えたとして、じゃあそっちでもうどん茹でるかってなる?!」


 さすがにぼくもツッコんだ。


 どうなってんだ……うどん屋……?


「みなさんには、うどん屋を手伝っていただきます。」

「「えっ!?うどん屋を!?」」


 ぼくと高須部長の心がひとつになった。

 松園さんが園山さんの横に立った。

 見ようによっては美人姉妹だ。

 やってることは、うどん屋での強制労働だけど。


「この別荘を使用する条件が、夏季限定のうどん屋営業なのです。」

「……そういうこと。」


 そういうことなん?どういうことなん??


 僕たちは、別荘にきたはずなのにうどん屋で労働という驚きの合宿を迎えることになってしまった。







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