第54話
「どうしてこんなことになってるんだと思う?」
「お前、自分が原因じゃないと思っているんだとしたら、世紀の愚か者だぞ。」
高須部長との映画会から帰ってきてその夜、ぼくは陽田に電話をかけていた。
相談したかったからだ。何を?それは、その、ここのところ、ぼくの周囲に女性が多いということだ。
「吉田さんとでかけたのは、吉田さんがお礼をしたいと言ったからでぼくは断りきれずにそうなったわけで。」
「普通に考えたら、学校で礼を言うくらいでいいんじゃないか。あとは、まあ菓子折りでも渡せば、それで随分と手厚い礼になると思うぞ。」
「そ、そうかな。」
「そうだろ、助けてもらったからって一緒に出かけるのは、あんまり聞かないな。」
ぼくだって、鈍感じゃない。吉田さんが普通に礼をしたいと言うだけで、一緒に出かけたりはしないとは分かる。
いや、本質的には分かっていない。だから、こうして陽田と話しているんだろう。
「高須部長も、なんだか最近は変なんだ……。妙にくっつきたがるというか、距離が近くて。」
「お前、なんかやったのか?」
「別に何も……。過去に告白されて困ってた部長を助けたことがある。」
「お前……完璧にパターンじゃないか。」
「そういう言い方ある!?」
「なんでそうホイホイ、人を助けちまうんだ。」
「逆に助けない方が人でなし過ぎない!?そういう場合。」
クックックッと陽田の笑う声が受話器ごしに聞こえてくる。
「でも、高須部長は男女交際なんて興味ないって言ってたけどなあ。」
「女心と秋の空くらい当てにならないものはないんだぜ、お前。」
「そういう言い方は良くないんじゃないか。」
「これだと決めつけて、相手のことをよく見ない方が俺は良くないと思うけどね。」
陽田の言うとおりだろう。先入観だけで相手を見て、相手のことをわかろうとしないのは、相手に対しての敬意が足りないかも知れない。
しかし……いや、これは考えても仕方のないことでもある。
「……ぼくはそんなに魅力的な人間じゃないよ。」
「お前のことをどう評価するかは、最終的にはお前じゃなくて、お前を見る人なんだよ。」
そうだろうか、そうかも知れない。しかし、その評価と本当のぼくというもののズレがあるとしたら、失望させてしまうことが恐ろしい。
「園山さんに告白したときのお前はそんなこと考えてなかったぜ。」
「あのときは、本当に恐れ知らずだったね。」
「でも、ウダウダ考えているより、あのときくらいの勢いがあった方がおまえらしいと思うけどな。」
「はっきり言うが、勢いは無かった。」
しかし、後悔したくはなかった。
「その問題の園山さんとはどうなんだ?」
「どうって?」
「付き合ってるんだろ?お前たち。」
「いや……付き合ってないけど。」
「あれだけ一緒にいて、付き合ってないんだとしたら、お前、どうかしてるよ。」
どうかしてるのは、ぼくじゃなくて園山さんじゃないのか?
ぼくははっきりとフラレた。
付き合えないと。あなたのことは知らないからと。
「……はっきりさせておいたほうが、お前のためでも、園山さんのためでもあるぞ。」
「そうかも知れないけど。」
「けど、なんだ?」
「怖いんだ。今の関係が崩れるのが。」
「言っておくが。」
「何?」
「もう、お前は何回もフラレてる。それが1回増えたくらいでなんだっていうんだ。」
そ、そうか。
言われてみれば、ぼくはもう何回も園山さんに告白してはフラレている。
てか、まて、ぼくが自分の意志で告白したのは、最初に一回目だけで、あとはなんかお前たちがやらせたんじゃないのか?
ぼくのせいじゃなくない?なくなくないない??
「じゃ、俺は妹の面倒みないといけないから。」
プッ、ツーツーツー。
この夏休みの間には、はっきりとさせる必要があるんだろうな。
そのことだけは、わかった気がした。
□□□□□□□
「不動、聞いてくれ、不動。」
「花、貴方最近、遠慮というものが皆無になってきたわね。」
「そんなことより、デートへ行ってきたんだ。」
「あら、今日だったの?良かったじゃない。進展はあった?」
「まず、映画だが……。」
「うんうん。」
「チョイスを誤った。」
「やっぱり。」
「面白い歴史映画なんだが、まったくデート向きじゃなかった。」
「歴史映画で進展する男女関係って嫌だわ、私も。」
「それもそうなんだけど、まず、部活の後輩とその友達が映画に乱入してきた。」
「なんて???」
私は今日起きたことを思い出しながら、数少ない友人である
今日起きたことをぶちまけないと、私のキャパシティはとっくにオーバー。
「だから、映画デートに園山くんとそのお友達が乱入してきたんだ。」
「情報が増えてない!」
「それ以上言いようがないんだ!」
「まずなんで、映画デートのことを知ってたの。」
「それは私が言った。」
「このスカポンタン!!デートのことなんでペラペラ喋っちゃうのよ。こっそり二人で行くからいいんじゃない!」
「お、おま、不動だってデートのこと知ってるだろう。」
「それはあなたが電話してきて言うからでしょう!」
「そうだった。」
「そこ忘れてもらったら困るわ。ていうか、私以外に相談できる人いないでしょうし。」
「見透かすのやめてほしい。」
「あなた、頭がいいのに、あの後輩くんが絡むとなんでいきなり小学生以下になりさがるの。」
「そういう言い方されると傷つく。」
「恋愛は傷つけ合いだから。」
「後輩くんが私を傷つけるのはいいんだ!不動は関係ないだろう!」
「それもそうね。」
電話の向こうから不動が心底うんざりしたような雰囲気を感じる。
「それで、なんかみんなで映画を見ることになった。」
「どこからツッコんだらいいの。」
「そう言われてもな。そんなことがあったので、映画ではとにかくいい感じという雰囲気にはならなかったんだ。」
「映画のチョイス以前の問題じゃない!他の女の子が乱入してきたデートが盛り上がるわけない!」
「そうなのかな、なんかみんな現れたから私も後輩くんの腕を抱くことに成功した。」
「え、どんな状況?」
「みんな、後輩くんにくっつき始めたんだ。」
「ちょっとどころじゃなくドン引きなんだけど。あの後輩くん、あんなおとなしそうな顔してそんな女たらしなの。」
「いや?」
「全然、否定できる要素ないんだけど。」
「なんか、困った顔するんだよな、腕を抱きしめると。」
「えぇ……困った顔してるならやめてあげなよ。」
「負けちゃいけないと思って、あと手を握ると暖かいからえへへ。」
「えへへじゃないわよ!なんか、ヤバイ相手好きになってるわよそれ。」
「そんなことない。すごく優しい。」
「小学生みたいな言い訳しないで。」
「後輩くんは、いつだって一生懸命だし、周りにいる人みんなに優しいんだ……。どうしよう、私、このままだと。」
「花、あなた、その後輩くんから手を引いたほうがいいわ。」
「なんで、そんな急に。応援してくれてたのに。」
「普通ならね。あなた、冷静じゃないわ。」
「ばかな、私は冷静だ。」
「あなたのためでもあるんだけど、後輩くんのためでもあるのよ。」
「どういうことだ?」
「あなた、このままだと、後輩くんを刺すわ。」
「……まっさかぁ!」
「冗談じゃないわよ。花、あなた、後輩くんのことを好きすぎてる。幻想を見すぎてるわ。」
「幻想なんて見てないぞ。本当だ。」
「それでなくても、後輩くんを狙ってる女の子が多いのも懸念よ。」
「そうか?3人くらいだぞ。」
「多い!おおよそリアルな恋愛関係で許容できる人数をオーバーしてるわ!」
「漫画とかだと10人くらいいるんだろ?」
「漫画と現実を一緒にしないで!」
そうだろうか、私が後輩くんに幻想を見てる。
でも、後輩くんが私にしてくれたこと、あの優しい声、気遣い、そういうものを考えると私の頭はぽーっとしてくる。
……考えてみれば。
あれだけ魅力的な男性が、いつまでも放っておかれるわけがないんだ。
気づくのが、みんなと一緒のタイミングだっただけで。
「夏休みの間は少なくとも、もう会わない方がいいわよ。」
「え、そんな。」
「冷静になるのよ、花。そうね、もしこの競争に勝とうと思うなら。」
「思うなら?」
「冷静さが絶対に必要よ。バカのひとつ覚えではダメ。」
「そ、そうか。死して屍拾うものなし、というものな。」
「なにかいい引用をしようとして盛大に失敗してるわ。」
「三十六計、逃げるに如かずというものな。」
「逃げ出してる。」
「凡そ戦いは、正を以て合し、奇を以て勝つ、というものな。」
「もうそれでいいわ。」
「夏休みの終わりに、夏祭りがあるんだ。それに誘うのは、いいだろう?」
「……そうね、それくらいなら。」
「よし、それまでは兵を伏して、勝機を待とうじゃないか。」
「大丈夫?守れる?」
「大丈夫、できるとも!あ、後輩くんに電話して誘おうっと。」
「何も分かってない!やめ!連絡やめ!!」
その後も、私は不動にアレコレと怒られた。
なんだ、デートの話をしてやるつもりだったのに……。ん、おおよそできたか?
私は不動と話しながら、今日のことを思い出して、どこか切なくも楽しい気持ちに胸を焦がしていた。
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