第40話
[私をデートに誘ってください!!]
ポリン。
スマホにチャットの通知が入った。見ると吉田さんからだ。
この前の勉強会以来だな、というか、別に勉強会をしようと思ったわけじゃないんだ。なんかみんなが勝手に集まってきただけで。
それでも、集まって課題をやるのは楽しかった。それに、クラスメイトがいることでサボろうという気持ちが減少したのだ。
いやまて、冷静になってみろ、ぼくがやってたのはほとんど園山さんに国語を教えることじゃなかったか……?
課題を確認したい。いや、してはいけない気がすると悶絶しているところに来たのが冒頭のメッセージだ。
……デートに誘ってください、って……?
ラブコメなら、男の子としては意中の女の子を必死にデートに誘うという描写はあったかもしれない。
しかし、デートに誘ってください、とは……?女の子からデートに誘えって命令されるパターンもあるわけ?最近のラブコメって。
進んでるなぁ〜。
いや、まて、自分のことをラブコメに押し込めて現実逃避するのはやめよう。
しかし、デートに誘えって言われたの初めてだよ。
もし、付き合ったなら、「次のデートいついく?」「そうだなあ、次は江ノ島に行こうぜ。もしくは夢の島。」みたいな会話があるかもしれない。だけど、吉田さんとは付き合ってるわけではないし、あ、あれ、デートに行くの?私が?なんで?
別に吉田さんが魅力的ではないとかそういうことではないんだよ。
もう、抜群に魅力的。
ファミリーレストランチェーンで言うと……この例えは失敗しそうなのでやめよう。
でも冷静に考えて、その魅力的な吉田さんがぼくとデートするってのがおかしい気がするんだ。
なんで?
いや、吉田さんのことは助けたことがある、その返礼ということでお昼をごちそうになったこともある。
同じ研究グループになったから、一緒に資料館に取材しに行ったことだってある。
あれえ?ぼくってなんかめちゃくちゃ吉田さんと出かけてない?デートではないよ?デートに行ったわけじゃないけど、めちゃ出かけてるなあ。
おおお、落ち着けぼく、今感じている感情はおそらく青春特有の自意識過剰に違いない。
判断に失敗するとめちゃくちゃ恥ずかしいことになるやつだ。
[私をデートに誘ってください!!]
でも、この直接的なメッセージからは、好意が感じられる気がするんですよね、どうですか?
ぼくは誰と付き合っているわけでもない。だから、吉田さんとデートに行っても問題がないわけではない。
……今、これについてぼくは考えてはいけない気がする。
まて、これ考えすぎて、時間かけるとよくない気がする。
[え、デートですか]
[そうです、デートです。私と君は仲良しになったので、一緒に遊びに行くべきです]
[そうかな。仲良くなったのは良いことだと思う]
[そうです、だから、もっと仲良くなるべきです]
そうだろうか……。
仲良くなるのは良いことだと思う。
こうして、友達ってできていくのだろうか……。
[よし、じゃあ、デートかどうかはともかく遊びに行こうか、どういうところに行きたい?]
[そうですね、実は決められないので、連れて行ってほしいんです]
[そうして、ぼくの出方を見ているんだね]
[そうとも言えます]
選択肢を相手に委ねることで自分のことをどう思っているのかを見ることだってできる。
でも、ぼくは考えすぎかもしれない。
しかし、どうするべきだろう。
……恋人同士ではない、しかし、男女で出かけるとしたらどういう場所を選ぶべきなんだ。
ピオンモールでは?しかし、そこはすでに行っている。
資料館は、デートスポットとしては結構、行き着いている気がする。どんな熟練カップルでも、あんまりチョイスしないだろう。
どうしたらいいんだよ。
博物館は、資料館と変わらない……。ああ、なんでこんなデートの行き先の引き出しがないんだろう。
そりゃ、ぼくは、男女交際の経験がないから……。
あとは、誘う相手が満足してくれるかどうか、という点も大切だ。
[どこ行きたいですか]
ぼくはヘタれた。
無理だ……考えるの難しすぎる。
[そうですね、暑いですから、並んだりとかが無いほうが嬉しいかもしれないです]
[ナイスヒント]
[クイズじゃないですけどね]
[じゃあ、水族館とかどう?]
[いいですね。夏っぽい感じです]
[よかった。臨海水族館とかどうかな]
[素晴らしいチョイスです!魚を
[実は嫌だった?]
[そんなことないですけど?]
[じゃあ、明後日でいいかな?]
[はい、楽しみです]
[ぼくも楽しみだよ、じゃあまたね]
[(手を振っている猫のスタンプ)]
なんか、なんだろう。
いや、楽しみだ……。でも、ぼくの身の丈にあってないイベントが立て続けに起こりすぎじゃないだろうか。
------
ふふふ、私の作戦は成功しました。
彼にデートの約束を取り付ける、その作戦です。
私だって、プライドがあります。いつだって、私から誘って、デートに行くだけになんてするわけないじゃないですか。
だから、彼にデートに誘ってもらうのです。
いやあ、華麗に成功しましたね。
色々と、こう策を巡らせてデートに誘ってもらうということも考えたのですが、もう待てませんでした。
一緒にデートに行きたくて行きたくて仕方なかったのです。
もうプライドとか言ってる場合じゃありません。
でも、デートに誘ってもらったんだから、体裁としては誘ってもらったんです!
「というわけで、デートが決まりました。」
「よ、良かったネ。なんか、すごいゴリゴリに押してたように見えるけど。」
「だって……待てなかったから……。」
「美優ちゃん、大丈夫……?もうそんなカレのこと好きなの?メーター振り切るの早くない?」
私だって、こんなに彼のことばっかり考えるようになるなんて思わなかった。
誰かと付き合うなんてこと無かったし、誰かと付き合いたいと思うようになるなんてこれっぽっちも考えてなかった。
あの、助けられた日から、もう私の胸の中では、小さな火が消えずに燃えていた。
チラチラと揺れるその火は、彼と一緒にでかけたその日に、大きな炎となってしまった。
顔を合わせるたび、その笑顔を見るたびに、私の炎は大きく揺らめく。
恋が、身を焦がすという表現があるが、あれは比喩なんかじゃない。
本当に手に負えない熱が私を焦がす。常に、彼のことを考えて焦らせる。
「そうなんですけど……。もう、すぐに会いたくて……。」
「ぞっこんじゃん。」
「うう……恥ずかしい……。」
「まあ、頑張りなよ。カレ、いまは誰とも付き合ってないんでしょ。」
「そうなんですけど……本当に園山さんと付き合ってないんですよね。」
「そのはずだけど?」
そのはずなんですよね?本当ですね?
じゃあ……。
「じゃあ、なんで同じところでアルバイトしたりしてるんでしょう……。」
「え、アルバイト?同じところで?」
「はい。」
「風香ちゃん、フッたって言ってたけどなあ。」
「彼からも、フラレたって聞いたんですけど、でも、なんかすごくよく一緒にいるような気がするんですけど。」
「それは、ワタシもそうかなってちょっと思うよね。」
「謎ですね……。」
「うーん、なんだろうね。風香ちゃんに会うことがあったら聞いてみるよ。」
「お願いします。」
別に、彼は私と付き合ってるわけじゃないんですよ。だから、別に園山さんと仲が良くてもいいんです。
でも、気になるじゃないですか!フッた相手と仲がいいの、すごく気になる!そんなことあるんでしょうか?
「あ、次は私も同じアルバイトすることになりました。」
「美優ちゃん、風香ちゃんのことをどうのこうの言えないよ!?同じアルバイトを?!やるのぉ?」
「そうです。楽しみですね。」
「ええ、何その行動力……。」
だって、うかうかしてたら、園山さんと付き合ったりするかもしれないじゃないですか!
これは、私もいち早く告白して、彼と付き合ったらいいんじゃないですか?
武田信玄は言いました。疾きこと、風の如しと。
「いつ、告白しましょう!」
「気が早いんじゃない!?」
「兵は拙速を尊ぶといいます。」
そんなことを言っていました。中国の兵法家が。多分。
「まあ、でも、どうだろう……。」
「あぁ……でも、断られたら……私、立ち直れません……。」
「あんまり口を出すのは差し出がましいかも知れないけど、もうちょっと彼の気持ちを探ったほうがよくない?」
どうでしょう。
そうかもしれません。
好きという気持ちが膨れ上がりすぎて、爆発して、あんなことを口走ってしまったのかも。
「そうですね、しばらくは様子を見ましょうか……。」
今は焦らなくても大丈夫。
絶対、私のことを好きにさせてみせるね。
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