第38話

 ○○○)))


「なんか、どっと疲れた。」


 イエロウサブマリーンについた僕たちは、店内を物色していた。

 といっても、なんか炎天下の中、三人で押し合いへし合いしながらここまで来たんだけど。……なんで?それに答えられる人は誰もいないだろう。


 気を取り直してシミュレーション・ゲームを見る。

 伝統的な戦車や地上部隊を扱うタイプのウォー・シミュレーションから、戦争全体、つまり、第二次世界大戦なら、第二次世界大戦をすべて扱うようなマクロな視点のゲームまでさまざま揃っていた。

 まあ、現代戦のものばかりではなく、戦国時代や、ナポレオン戦争時代みたいなものもあるんだけど。


「高須部長、ナポレオン戦争時代のゲームなんかいいんじゃないですか。うちの備品にはまだありませんでしたよね。」

「ああ、そうだな、候補に入れておこう。それより後輩くん、これなんかいいんじゃないか、『宇宙英雄伝説』のシミュレーションだぞ。」


 名作と言われるスペースオペラ、宇宙英雄伝説の艦隊戦を扱ったウォー・シミュレーションのようだな。

 しかし、ウチの部は歴史研究会だぞ。宇宙英雄伝説を現代で扱うのは未来すぎるんじゃないかな。


「宇宙英雄伝説は、歴史上の出来事じゃないでしょ、高須部長。ちゃんと歴史研究会っぽいテーマを選んでくださいよ。」

「むう、しかし、未来史ということでなんとかならんか。」

「個人持ちで買う分には止めません。」

「割といけずだな、君は。」


 園山さんは、シミュレーション・ゲームコーナーを離れてなにか見ているようだ。ぼくはそっちにも行ってみる。


「園山さんは何を見てたの?」

「これです。なんか面白そうじゃありませんか。」


 園山さんが手に取っているものを見ると、ボードゲームのようだった。

 ああ、このお店、ボードゲームも扱っているから。園山さんはボードゲームに馴染みがないのかな。


「ボードゲームだね。これは、手札のカードが悪い虫かどうか当てるゲームだよ。」

「面白そうですね。」

「まあ、割と簡単なルールのものから、難しいものまで色々あるみたいだよ。」


 ぼくは割とボードゲームは詳しくないんだよね。高須部長はもっと詳しいかもしれないな。


「高須部長!部長はボードゲームは詳しいですか?」

「うん?そうだなあ、まあ、人並みと言ったところだが……。」

「じゃあ、これは知ってます?」

「ああ、『ナメクジポーカー』だろ?」

「高須部長は多分、人より色々知ってる方だと思いますよ。」


 パッケージだけ見てゲームの名前を当てられるのは割と詳しい方だと思うよ。

 高須部長も一緒になってボードゲームを漁りだした。流石に部費で買うということはないだろうけど。

 でも、たまにはボードゲームも見てみたくなるもんだよね。


「ナンジャラモンジャラは、怪物のイラストに名前をつけて、あとから同じイラストが出てきたときにつけられた名前を答えるゲーム……か。」

「記憶力の勝負になりますね。」

「ぼくは、とっさに思い出せないことが時々あるから苦手そうなゲームだな。」

「後輩くんでも苦手なことがあるんだな。」

「ぼくのこと、なんだと思ってるんですか。」

「え、いやあ、わりかしなんでもできる方かと。」


 過大な評価を受けているようだが、ぼくはどちらかというとできないことの方が多い。困っちゃうね。

 しかし、ボードゲームというのも随分種類があるんだな。


「……これ。」

「え、何なに?相性チェックゲーム?気になるあの人との相性は?パーセンテージで分かっちゃう。」


 わかんねえ、なんも分かんねえよ。


「楽しそう。」

「え、楽しい要素あった?どこらへんが?」

「お、園山くん、なにか見つけたのか?何だ?相性チェックゲーム、気になる……。いいな。」

「え、いいポイントありました?」

「相性チェックしたいです。」

「誰と?ぼくと、高須部長としか、いないんだけど、チェックする相手としては。」

「気になるよなあ!園山くん!」

「ここで高須部長も乗ってきた?!なんで?園山さんとの相性が気になる感じ?」


 なんと言っても、学校一の美少女だからな。高須部長も、新入部員との相性が気になるのかも知れない。


「そこはなんで自分だと言わないんだ。」

「高須部長ほど、ぼくは自己肯定感高くないんです。」

「そうか?まあ、その、そういう謙虚なところも……。」

「部長、いきなり聞こえない声量に変えないでください。」


 突然、黙ったかとおもってびっくりするから。高須部長はなんかゴニョゴニョ言い出して下を向いてしまった。まあ待て、ぼくが引率してるのは高須部長だけじゃない。

 視点を変えてふと見ると、園山さんはさっきから相性チェックゲームのパッケージに首ったけだ。


「これ、買ってきます。」

「え、買うの?」

「はい。」

「いや、別に止めたりはしないけど。」


 誰との相性チェックするつもりなんだろう。ぼく以外の誰かとあれで遊ぶのかと思うとすごくもやもやする。


「大丈夫だぞ。」

「何がですか、高須部長。」

「なんか、心配そうな顔をしていたから。」

「え、どういうことですか。」

「ちゃんと、後輩くんと遊んであげようじゃないか。」

「は、はあ。でも、あれ歴史研究会と関係なくないですか。」

「それは、その、個人持ちだろう。あ、待ってくれ、私も払おう。割り勘だ。」


 割り勘って、ボードゲーム買うときにもあるもの?!

 なんか、シミュレーション・ゲームじゃないものを二人でお金出して買ってる。

 いや、ぼくには止める権利なんて無いんだけど。


「合宿の夜とかにやる分には問題ないだろ。」


 高須部長がなんかすごい勝ち誇った顔で言う。

 それだと、ぼくと、園山さんと、高須部長の三人しかいないんだけど……。


「それはともかくとして、シミュレーション・ゲームはどうしますか。」

「適当でいい……というわけにはいかないな。」

「高須部長、しっかりしてくださいよ。」

「そうカッカしないでくれたまえ、余裕というものが必要だろ。」

「余裕ですか……。」

「そうそう。」


 ぼくもちょっと二人のペースに巻き込まれて、焦っていたかも知れない。

 まあ、誰に急かされているわけでもないし、たしかにゆっくり考える方が良さそうだ。


「あ、お昼ご飯の時間ですが。」


 なんか、園山さんが急かしだした……。


「お、そうか、じゃあ一旦お昼ご飯を食べに行こうか?」


 余裕つっても、ちょっと余裕ぶっこきすぎじゃないですかね。ダラダラやっても良くないと思いますよ。


「今から行っても混んでますから、ちょっとゆっくり見てから行きません?」

「そうですね……。」


 そう言って、園山さんがぼくの横にスススと寄ってきた。シミュレーション・ゲームを見るのだろう。

 すると、その様子をみた高須部長もぼくの横に突っ立った。

 ……シミュレーション・ゲームを見るのだろう……。


「こんなにギュウギュウに詰まって見なくてもよくありません?」

「みんなで見て決めた方がいいだろ、ほら、良いからもっと寄りたまえよ。」

「そうですね。」

「イタタタ、挟まってる挟まってる、両側から押したら潰れちゃうから!中身が出てくる!」


 嬉しくない訳ではないが……物事には限度というものがあるだろう。ぼくの腕がひしゃげて取れちゃうぞ。

 そうして、また三人で押し合いへし合いしている。


「ナポレオン戦争のヤツでいいじゃないですか。このワグラムの戦い?なんか面白そうですよ。」

「そうだな、マップも大きそうだし、時間も……180分か。この合宿のときにやる題材としてはいいんじゃないか。」

「ではこれにしましょうか。」

「(こくこく)」


 園山さんもそうだそうだと申しております。


 ぼくたちは、新たな備品としてワグラムの戦いを手に入れた。

 提案しておいてなんだけど、ナポレオン戦争のことなんてよくわからないから勉強しておかないと……。


「今日は、なかなかの大戦果だったな。」

「そうですね、色々見られて良かったです。個人持ちでなにか今度買おうかな。」

「そしたら、また出かけてこられるな。」

「……そうですね。」


 誰も迷子にならなければ、それでもいいですけど……。







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昔、秋葉原のイエローサブマリンで、「グリーンノア1」を見たことがあるんですよね。機動戦士Zガンダムのシミュレーションゲームなんですけど。あれ買えばよかった。


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