第37話

「という訳で、夏休みの部活、第一弾は備品を買いに行く!となりました。」


 高須部長が高らかに宣言する。聞いているのは……。イカれたメンバーを紹介するぜ!

 ぼく!

 園山さん!

 以上!!

 別に夏休みで休みすぎてイカれたとかじゃないぜ。なんならアルバイトで働いてたから賢くなってるまである。

 いや、ないかなどうかな。


 という訳で、今日は夏休み中初めての部活の日だ。

 夏休みの部活は普段の活動では時間が足りないため後回しになっていたことであったり、普段は遊べないような重量級のゲームをやるらしい。

 あとは合宿の計画をするとも言っていたな。


 などという前置きを聞いた上で、冒頭の一言である。

 備品……歴史研究会の備品と言うと、どう考えてもシミュレーション・ゲームである。

 ゲームの在庫を増やすのか……。まあ、ぼくたちが遊ばなくても、後で入ってくるであろう後輩たちが使うかもしれないしな。

 第一に自分たちがやってみたいものがチョイスされるだろうけど。


「はあ、買い物ですね。どこに行くんですか?部長。」

「後輩くん、テンション低いね。買い物なんて夏休みじゃないとできないんだよ。元気出していこうよ。」

「いつもぼくは元気ですよ。」

「あー、これだ、先輩に対して敬意が足りないんじゃないのかね?」

「どうですかね。」

「……敬意、ありますよ。」

「園山くんは、こうして敬意を持ってくれてるようだよ。」


 なんだか、普段よりテンションが高いな、高須部長。夏休みになると何らかのスイッチが入るのだろうか。

 いずれにしてもどこに行くのかが明らかにならんとどうしようもないということが歴然と我々の前に問題として横たわっているんだけれども。


「うむ、まあ、シミュレーション・ゲームを売ってる店に行くのだが、残念ながらこういうマニアックな品を扱っている店は限られているからな。イエロウサブマリーンに行く。」

「ああ、黄色い潜水艦のお店ですか。いつだったか前を通ったことがありますが、ちょっと離れてますよね。」

「そうだ。電車で行くぞ。」

「……わーい。」

「このように園山くんも喜んでくれているようだ。じゃあ、準備をしてくれたまえ。」


 そうだよね、最寄りの商店街にこういうゲーム売ってるところみたこと無いもん。専門店に行くに決まってる。

 というわけで、我々、歴史研究会は列車に乗って、大きな街まで行くことになった。


 ○ ○ ○)))


 という訳で、高校生活始まって以来、最大の都会といえる街へ来たわけだ。

 電車で来られるわけだから、決して我々の街が田舎というわけでもないんだぞ。聞いているのか?スティーブ。でも、考えようによっては都会じゃなければ全部田舎という説もある。

 その辺りはどうお考えですか、歴史研究会 高須部長。


「君は、さっきから何を言っているんだ。さあ、ここで突っ立っていても仕方ないから、行こう。」

「わかりました。場所は分かってるんですか。」

「もちろんだ、私は何度も行っているからね。常連と言ってもいいぐらいだよ。」

「それはすごいですね。」

「ご、ごめん、言い過ぎた。」

「誰に対する自慢だったんですか。いえ、気にしませんけど、あんまり面白くしないほうが部長の株があがりますよ。」

「そ、そうか?まあ、大言は勢いがあるとついやってしまうから気をつけないとな。」


 なんか、部長が恥じ入ってしまった。別にそこまで責め立てたつもりはなかったんだけど、自由に発言している部長が好きだからフォローしておかないとな。


「その、ぼくは勢いであれこれと大言を叩く部長も好きですよ。」

「す、え、その好きか?大言壮語を吐く私が?」

「そこだけ好きというわけではありませんが。」

「そ、そうか、えへへ。じゃあ、気にしすぎないようにするな。」


 えへへじゃねえんだよなあ。分かってくれてるだろうか。ほどほどが一番大事なんだよ。

 しかし、ここで油を売っている場合ではないんではないか。お天道様も大分、その高さを増してきているようですし、と思ったところでぼくは気づく。


「園山さんは、どこに……。」

「え、さっきまでそこに、あれ?」


 忽然と園山さんは消えてしまっていた。待て待て、早まるな。園山さんとて、もう立派な高校生だ。まあ、その、高校一年生にして学校一の美少女と持ち上げられ、ワッショイワッショイ、毎日男子生徒からの告白がひっきりなしに続いていて、二人同時に断るなどの冴え渡る技を持っているという稀有な人ではあるけれどもだ。

 まて、思い出してみろ、園山さんは……。


「大変です、部長。」

「お、どうした、後輩くん、なにか分かったのか。」

「園山さんは方向音痴です。」

「え、何?方向オンチ?誰が?まさか、園山くんがか?こう言ってはなんだけど、園山くん、貼り出された成績は上位にいたぞ。」

「ええ、園山さんは、決して勉学は誰にも退けを取りませんが、地理地形だけは、てんでダメなのです。」

「え、社会とかどうするの。」

「社会の教科書は、この地上に持ち出してはなんの役にも立ちませんからね。」

「君、それは言い過ぎというものではないか。」


 まあ、こんなことを言っている場合ではないんだけど。


「一刻も早く見つける必要があります。」

「そ、そうだな、流石にこの大きい街ともなれば、どんな罠が待ち構えているか分からないからな。」


 なんか、余裕そうなセリフが出てきてるな、さっきから。


「第一、携帯電話くらい持っているんだろう?」

「あ、そうだ、携帯電話がありましたね。」


 園山さんが迷子になったときのために連絡先を交換していたのだった。

 なんか、もっぱら、園山さんからメッセージが思い出したときに送られてくるみたいな使い方に始終しているけど。

 早速、園山さんの携帯電話にかけてみよう。


 prrr...


「あ、園山さん、今どこにいるの?」

「あなたこそ、どこに行ってしまったの。なんか、ここ、公園みたいな広場があるんだけど。」

「え、公園みたいな広場?ぼくたちはまだ駅前だよ。」

「……なんででしょう。」


 そりゃぼくのセリフだよ。なんで駅前から謎の公園までワープしちゃったの。イスカンダルも間近だよ、その調子だと。


「駅前に戻ってこられる?」

「……やってみましょう。」

「そんな悲壮な決意でやること?駅前に戻ってくることが?」

「あ、なんか、電池の充電が……。」


 プッ、プープープー。


「プープープーじゃねえんだよなあ。」

「どうだった?合流できそうか?」

「どうも電話の電池が切れたようです。」

「どうしてこんな出かけるときに限って電池って切れるんだろうな。」


 今はそんなこと言ってる場合じゃない気がしますね。とにかく、駅の方に戻ってくる園山さんを探さないと。

 しかし、この広さで探し出すのはなかなか難しいぞ。


「部長、こうなったらローラー作戦です。」

「え、ローラー作戦だと?地球クリーン作戦か?」

「なんで今、バイク戦艦の話を始めちゃったんですか!?違いますよ!ぼくと部長でふた手に別れて園山さんを探すんです。」

「なるほど、スタックしているユニットを分割することで、Z.O.Cを大きく取ろうということだな!」

「その例え、ガチでシミュレーション・ゲームをやってる層にしか伝わらないんでやめてください!」


 第一、地球クリーン作戦だって、今の若い子には通じないぞ。

 とにかく、この駅の出口から進める方向としては一方向で、広く視界をとりながら園山さんを探したほうが効率的だろう。


「じゃあ、部長は、ここの右側の通りを進んでいってください。たしか、その先に、商店街の公園広場みたいなのがあったはずです。」

「うむ、分かった。まかせてくれ。え、ふた手に別れるということは、私一人になるのか?」

「そうです、みつけたら電話してください。ぼくはこの左側の通りを進んで行きます。」

「そ、そうか、分かった。では、後で落ち合おう。」


 そうして、ぼくは左側の通りへ進んで行った。左側の通りは少し細くて、人通りはそこそこ。

 ただ、人口密度が高いので、見落とす可能性がある。

 ここは慎重に進まないとな。


 そうやって、気をつけながら進んでいたが、人混みが増してきた、結構人にぶつかりそうになってしまう。

 そして、少し歩いている人たちに気を取られながら歩いていると、腕に誰かがぶつかってしまったようだ。


「あ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」

「う、うむ、大丈夫。どこも悪いところはないぞ。」

「高須部長、何やってるんですか。」


 ぼくの腕にぶつかった、というよりは、なんかひっついているのは高須部長だった。

 なんでえ……?


「なんか、せっかくみんなで出かけることになったのに、一人になるのはちょっともったいなくて。」

「え、なんかそれ、今飛び出すセリフとしては、とりわけチョイスされないタイプのやつじゃないですか。」

「だって、後輩くんと二人になれたし。」

「いや、なってない、なってるけど、なってる場合じゃないですよ!」

「そ、そうなんだけど。」


 どうしちゃったの高須部長。普段の沈着冷静な部長を返してほしい。暑いからか?気温が高いもんな。


「とにかく、こうやって二人で移動したほうが、二次遭難が避けられると思うんだ。」

「に、二次遭難?おっしゃることはわかりました。でも、腕にしがみついているのはなぜ……。」

「ほ、ほら、歩いている人がいっぱいいるだろ、だから、ふとしたことで離ればなれになるかも知れないし。」

「いや、大丈夫でしょ。さすがに。」

「後輩くん!さっきからそんな屁理屈ばかりこねているがね!部長の言うこともちゃんと聞きたまえ!」

「え、ここでそういう強権が飛び出してくる?高須部長にしては珍しいけど、なんかものすごいびっくりするタイミング!」


 歩行者天国となっている道路ではあったが、人通りの多いその道をわいのわいのとぼくたちが言っていると……。


「なにしてるんですか。」


 すごい表情で園山さんがぼくたちのことを見ていた。

 ち、違う。ぼくたちは園山さんのことを探しに行こうとしてて、あの、その。


「園山くんを探してたところだ。」


 ぼくの腕にしっかりしがみつきながら、高須部長はいけしゃあしゃあと言ってのけた。

 高須部長のある意味、開き直れるところ、羨ましいと思う。



○○○)))


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