第36話
「れーくん、はいこれ、ボーナス。」
明日は最終日で、午前中働いたら帰ることになっていたため、荷造りをしていたところに美智夏さんの声がした。
見ると、ドア枠に寄りかかって、茶封筒を振っている。
「どうしたの、急に。」
「いやあ、れーくん、今回めちゃくちゃ頑張ってくれたじゃない?風香ちゃんという戦力も連れてきてくれたし?だから、ボーナスくらい出さないとなって。」
「そしたら、園山さんに出してあげなよ。ぼくはまあ、いつももらってるからさ。」
「そうじゃないよ、れーくん。このボーナスはねえ、君にあげるけど、君はこれで風香ちゃんにプレゼントを買うの。」
ぼくはなんか、変な顔をしていたと思う。ぼくの考えていたことを見抜かれたのか……?とか、そういうことぼくにやらす?みたいなこと。
言ってみれば、ぼくはてんで人付き合いが苦手なタイプだから、アレコレと口を出したくなるのだろう。
「そういうことなら、ありがたく頂戴いたします。」
「うむ。明日はクリーニング終わったらもうさっさと終わっていいから。車出そうか?」
「あー、そうだね、明日は送ってもらえると嬉しいかも。」
「アウトレットモールもできたんだよ。せっかくだから行ってみたら?」
「そうだね、行ってみたいです。」
オッケーオッケーと言って、美智夏さんが部屋を出ていった。茶封筒の中身を見て、ぼくは想定外のことに唸った。
あとで園山さんを誘っておかないと。
△△△△△△△△△△
「じゃあ、最後のコテージに行こう。」
「はい。」
園山さんと二人でコテージを回りながらクリーニングをしていた。週末が終わって、今日が最大の宿泊率だっただけあって、クリーニングしなければならないコテージは多かった。
しかし、今回は園山さんが一緒に入ってくれたおかげで本当に助かったと思う。一人でやるより二人でやるほうが早いし、何より園山さんは細かいところによく気がつくので、失敗がほとんどなかった。
「よし、じゃあ、これでクリーニングは終わりだね。」
「はい……。良かったです。」
「じゃあ、美智夏さんに報告して、帰る準備をしようか。」
「わかりました。」
管理棟にいる美智夏さんに声をかけて、終わったことを伝える。
「はいはい、じゃあ、車を回してくるからねん。」
「あ、そうだ、園山さん、帰る前にアウトレットモールに行ってみない?」
「アウトレットモールですか。わかりました。」
「分かってなさそうだから言うけど、お店の集まったショッピングモールだよ。アウトレットって、時期が終わった服とか、在庫品とかを集めて通常より安く売ってるんだ。」
「そういうお店もあるんですね。知りませんでした。」
やっぱり知らなかったんじゃん。でも、まあ、一緒に出かけられて嬉しい。
……今、嬉しいって思ったか?
「じゃあ、準備ができたら、ロビー集合ね。」
「わかりました。すぐに行きます。」
「急がなくてもいいよ。」
ぼくは昨日ほとんどの準備を終えていたので、制服を着替えて終わりだ。
ロビーに行って少し待っていると、すぐに園山さんも出てきた。
ふたりで美智夏さんの車に乗り込み、アウトレットモールへ移動した。
見慣れたこの山道もほんのしばらくお別れになる。まあ、夏休みはまだあるから、アルバイトにはまた来るんだけどね。
「ほい、着いたよー。私は次の準備があるから、一旦コテージに戻るけど、2時間後くらいに迎えに来るから。」
「ありがとう、おばさん。」
「じゃあ、頑張ってね。」
何を頑張るというのだ。何も頑張ることなどない。と思って、園山さんを見たが、いつもの無表情で立っている。あったな、頑張ること。
さて、園山さんにはどういうお礼をしたらいいのか……。
「園山さん。」
「はい。」
「美智夏さんのコテージを手伝ってくれてありがとう。とても助かった。だけど、貴重な夏休みをアルバイトに使わせてしまってごめんね。」
「いいえ。私が来たいと言ったことですから。」
「それでも、その、ありがとう。なので、何かお礼をさせてください。」
「お礼ですか。それには及びませんが……。」
「ぼくがしたいんだよ。何か、贈らせてくれない?欲しい物はある?」
「そうですね……。その、じゃあお店をみて回りませんか。」
「分かった。じゃあ行こう。」
そうして、ぼくたちはお店を回り始めた。アウトレットモールって面白いよね。服なんかは大体、主要なサイズが無くて、極端に大きいか、小さいかばっかりある。(そういうものなんだけど)
だけど、時々ピッタリのサイズが売ってたりしてそれも面白い。
他にも、おもちゃや、雑貨のお店なんかもあったりして、結構楽しい。
そして、色々見て次に入ったのは、アクセサリーのお店だった。
ハンドメイドアクセサリーが売られていて、どれも綺麗な品だ。
ハンドメイド品の面白いところは、同じものがふたつと無いところだと書いてある。まあ、そうかも知れない。
園山さんが、何かを手に持ってじっと見ている。
「それが気に入ったの?」
「ええ、そうです。」
見ると、鳥の羽根をモチーフにしたペンダントのようだ。
「鳥の羽か。綺麗だね。」
「そうですね。……。」
なにか考えてる雰囲気だ。
「どうしたの?」
「いえ、あの……焼き鳥……。」
「焼き鳥!?このシルバーでできた羽根のアクセサリーを見て、なんで焼き鳥のことを考えちゃった!?」
「銀でできた鳥の羽根を抜いてきたのかと。」
「いないよ!?そんな鳥?!比重を考えても到底空を飛ぶとは思えないでしょ!」
「ペンギンかも知れませんよ。」
「そんなペンギンいたら、海底に沈んじゃってるよ!」
そして、フフと園山さんが笑う。
焼き鳥かはともかくとして、でも、そのペンダントは、園山さんにすごく似合うようにぼくは感じた。
「じゃあ、それにしようか。お礼。」
「え……でも、そうですか、ありがとうございます。」
「うん、銀の焼き鳥の羽根。」
「もう。」
園山さんが不服そうな雰囲気を出す。ぼくはペンダントを持って、お会計に行った。
お礼の品も買えたし、またゆっくりとお店を見て回った。
アウトレットモールの近くに、湖が見える。
ベンチに座りながら、湖を眺めた。
「そういえば、まだあるんでしたよね、湖の話。」
「うん、そうだった。」
「どういう話なんですか?」
そうだな、確か、続きはこうだ。
「身分違いから結ばれないことを嘆いて、湖に身を投げた二人だったが、湖の底に住む龍が、二人を天にあげ、そこで夫婦となった。って話だったと思う。なんでも、娘は信心深く、龍のために毎日、ミズキの枝を祈りを捧げて投げ入れていたんだって。」
「ミズキですか。」
「そう、小さい白い花が咲く木なんだけど。花が綺麗だからかな。」
「死んで、やっと結ばれたというのも、なんだか物悲しい話ですね。」
「どうだろうね、でも離ればなれになって終わるより、その後、ずっと夫婦でいられるっていうのも幸せな話かも。」
「そうでしょうか、はっきりどっちがいいとは分かりません。」
そうかも知れない。今の世の中に認められて結ばれることが一番いいかもしれないけど、でもぼくは認められる相手と他の世界でくらすのだって悪くないかもしれない、と少し思う。世界がすべて優しいとは限らないから。
「まあ、だから、ミズキのお守りが神社にあって、それが縁結びのご利益があるんだってさ。」
「そうなんですね。」
「せっかくだから、神社に寄って帰ろうか。」
「……どうでしょう。あなたが欲しいなら。」
「どうかな、今はいらないかも。」
園山さんにはフラレたけど、こうして友達として一緒にいられる。
ぼくは、それだけでもかなり嬉しい。だって、もう話すこともないんじゃないかと思っていたんだから。
園山さんはどうなんだろう。
どういうつもりでぼくと一緒にいるのか、それを知るのは怖い。
ピロン。
スマホが通知を知らせてくれた。美智夏さんが迎えに来てくれたようだ。
「迎えが来たみたいだ。じゃあ、帰ろうか。」
「はい、じゃあ帰りましょうか。」
ぼくたちは、前より少し仲良くなって、またあの街へ戻っていく。
「ショッピングモールなのにバーチャオフありませんでしたね。」
バーチャオフ気に入りすぎじゃない!?
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