第28話

「あ、あの、放課後に時間をもらっていいですか。屋上庭園で待ってます。」


 休み時間に吉田さんからそう言われた。

 え、なんだろう。吉田さんと石なんとかの問題をどうにかこうにかしたときのお礼はもう済んでいるはずだし……。

 それに、屋上庭園って、つまりそういうことだよね?ぼくは別に告白されたわけでもないのになんだかそわそわしてしまう。

 まあ、これも青春の自意識過剰なのかもしれない。そうだとしても、ぼくはこの浮かれた気持ちを大切にして生きていきたいと思う。


「お前、今日はなんかそわそわしてるな。」

「え、そ、そお?」

「普段が落ち着いて見えるから、なおさらそんな感じに見えるのかもな。」


 陽田にわざわざ指摘されるようでは、ぼくもまだまだかもしれない。何に対してまだまだなのかは分からないが。

 何かしら分からないことがある、それが学生時代ってことなんだろう。

……本当か?


 まあ、そんなことを思いながら、残りの授業時間を過ごすことになってしまった。

 こんな浮ついた気持ちではいけないな。ていうか、告白されるとばかり思っているのも良くないかもしれない。

 クッ、静まれ、ぼくの自意識!


 -------


 まあ、自意識が静まったかはキミたちの想像に任せるが、とにかく放課後になったわけだ。


「今日は、一緒に帰れますか。」

「あ、ごめん、用事があるから、園山さん、先に帰ってもらえるかな。」

「そうですか……さようなら、また明日。」


 吉田さんの用事がどんなもんか分からないのもあって、園山さんには先に帰ってもらうことにした。

 ……なんか、すごいナチュラルに一緒に帰ることが日常化してるんだけど……。

 ぼくは、深く考えないことにした。

 とりあえず、約束通り屋上庭園へ行ってみることにしよう。


 屋上庭園へは、校舎中央の階段を上がって行くことになる。

 出入り口はいくつかあるが、一番一般的なのはこの中央階段だ。


 すこし傾き始めた午後の太陽は、屋上庭園を彩る花たちに降り注ぐ光を浴びせている。

 徐々に上がってきた気温は、ぼくたちのやる気をじわじわと削いでいるようだ。

 屋上庭園のベンチの一つに、吉田さんは座って待っていた。

 待たせてしまったようだ。


「ごめん、待たせちゃって。」

「いえ、私こそ来てもらって申し訳ないですか?」

「なんで疑問があるのそこで。」


 吉田さんはなぜかわからんが、いたくご緊張なさっているようだ。

 ぼくもそんな吉田さんの様子を見て緊張しはじめる。いや、別にリラックスムードでここに足を運んだわけではない。


「そ、それでどういったご要件でしょう。」

「あ、あの……そのですね……。」


 顔を真っ赤にした吉田さんが何かを切り出そうとしている。ここは急かしたりせずに待っているのが良さそうだ。

 というか、ぼくも落ち着くタイミングが必要だね。


「あの!夏休みですけど!」

「は、はい。」


「そこまでよ。」


 吉田さんがなにかを話そうと切り出したその瞬間、屋上庭園に乱入してきたのは園山さんだ!

 な、なんで園山さんが?

 というか、そこまでって何が?


「やめなさい、嫌がっているでしょ?」

「いや、誰が嫌がってるの。」

「え、え?どういう。」


 園山さんの突然の来襲に、ぼくはともかく、吉田さんは混乱の渦中に突き落とされたようだ。

 ぼくも混乱はしている。


「あ、もしかして?告白パターン練習だと思ったのか?」

「ここまで言ってもやめないとは。」

「な、なにをですか?」


 吉田さん置いてけぼりすぎる。ぼくも置いていかれている。

 と思ったら、園山さんがぼくに襲いかかってきた。

 学校一の美少女に襲いかかられる男子生徒は、この学校ではぼくだけだろう。

 まったくの不名誉である。


「アイタタ!痛いんだけど!ちから入れすぎ!」

「さあ、今のうちに!」

「今のうちに!?なにをいまのうちなんですか!」


 園山さんに力押しでまたも園山さんに負けたぼくは片膝をつく形になっている。

 未確認生命体第0号戦みたいになってんじゃん!光と闇の対決だよ!


「はやくにげて。」

「え?え?え?」

「はやく。」

「アイタタタ!痛い!容赦がなさすぎる!友人に対しての思い切りが良すぎる!」


 混乱した吉田さんは、屋上庭園から走り去った。

 ぼくは、完璧に押し負け、両膝つく形で、園山さんの前で力尽きている。


「完璧にうまくできました。」

「指の間が痛い……。」


 このときやっと気づいたんだけど、ぼくはとんでもない女の子に告白しちゃったんだな。


「用事は終わりましたか?」

「園山さんが無理やり強制終了したんじゃん……。」

「では帰りましょうか。」

「ぼくのことをここまで完膚なきまでに叩きのめしておいて、それで普通に帰ろうって言えるのすごいよ。」

「練習ですから。」

「何の練習なの?プロレスに飛び入りするときくらいしか使わない感じじゃなかった?」

「……次はプロレスを見に行きたいということですか?」

「そんなことこれっぽっちも言ってなかっただろ!」


 園山さんは、ベンチの影に置いてあった自分の通学カバンを持ち上げて見せてきた。

 ぼくも、脱力して、ベンチの上に置いてあった自分のカバンを取り上げる。


 帰り道を歩きながら園山さんがぼくに話しかけてくる。


「今日も、マックいきますか?」

「今日は、もう帰ろう……。」


 なんか、身体が痛いし……。


 ---------


 その夜。

 ポリン。

 スマホが通知音を鳴らして、チャットが入ったことを知らせてきた。


[あの、今日はすみませんでした。]


 吉田さんからのメッセージだ。

 ハッキリ言って、あれは園山さんの暴走であって、吉田さんのせいではないと思う。


[ごめん、なんかむちゃくちゃなことになって、それで用事ってなんだった?]


 ポリン。


[あの、夏休み、一緒に資料館に行きませんか。]


 ああ、総合学習の取材か、行かないといけなかったもんな。


[いいよ。じゃあ、予定を合わせて行こうか。]


 ポリン。


[良かったです。じゃあ、7月XX日でどうですか?]


 まあ、大丈夫だろう。まだ夏休みは予定がないし。


[いいよ。じゃあ、10時に駅前広場で待ち合わせでいいかな。]


 ポリン。


[はい。それでよろしくおねがいします。]

[(頭を下げる猫のスタンプ)]


[うん、じゃあ、その日に]

[(手を振るカワウソのスタンプ)]


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 もっとお話したかったけど、とりあえず一緒に出かける予定を入れられた。

 場所も本当はもっとデートらしいところにしたかった。

 だけど、いきなりデートっぽくすると、警戒されちゃうかな?と思って、資料館にしたのだ。

 そしたら言い訳もつくじゃん、とはかすりちゃんのアイディアだ。

 良いアイディアだった。勉強の取材だから、と言い訳もつくし、一緒に出かけることになれば、そこから発展もさせられるだろう。って言ってた。掠ちゃんが!


 メッセージを送るだけでもドキドキした。

 彼が私からのメッセージを見たらどう思うかな、と思ってなかなか送れなかった。

 でも、大丈夫、最初は事務的な内容だから、おかしくないはず。


 いずれにしても、ちゃんと約束できて良かった。


 園山さんが来たのは驚いたけど。

 なんか、私が彼に乱暴されるって思ったのかな。

 そんなことないのにね。


 何を着ていこうかな。前、褒めてもらった服でも良い。

 明日、会うわけでもないのに、私はドキドキしてなかなか眠れなかった。




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