第22話
「園山さん……。」
テーブルの横に仁王立ちになっているのは園山風香さんその人だった。
後から、四十四田さんがやってくる。なんか、腕をさすっているな。
全く出会う予定のない人物の登場にぼくはやや面食らっていた。
ここで合流する予定があったのかと思い、吉田さんを見てみると、吉田さんも驚いた顔をしていた。あ、これ全然予定になかったヤツだな。
後からきた四十四田さんが吉田さんとぼくを見て言う。
「やあ、奇遇だね。私と風香ちゃんもピオンで遊んでてさ。」
そうか、このあたりで学生がちょっとしたお出かけに使うスポットといえば、ピオンモールは筆頭だからな。別に園山さんと四十四田さんだけじゃなくて、他に同じ学校の生徒がいてもおかしくない。
みると、園山さんは手にトレイを持っている。四十四田さんもだ。さっき腕をさすっていたが、片手でトレイを持っていたのか、器用だな。
お昼を食べに来たのだろう。せっかく四人がけの席に座っていることだしと思って、ぼくは誘うことにした。
「せっかくだから、一緒に食べない?まだこの席に座れるし。」
「え、悪いな、けど混んでて席も見つからないし、一緒させてもらおうか。」
「ええ、そうですね。」
四十四田さんが園山さんにそう水を向けて、園山さんがいうが早いか、ぼくの横に腰掛けた。四十四田さんは吉田さんの横。
園山さんの持ってきたトレイに載っていたのは、奇しくもきつねうどんだった。
四十四田さんは、野菜がたくさん挟まっているサンドイッチである。
「園山さん、うどんにしたんだね。」
「ええ、以前、あなたのうどんをいただいた時に美味しいと思いましたので。」
「え、あ、ああ、そう。」
四十四田さんがギョッとした顔をした。吉田さんは少し戸惑うような表情をしている。
わかる。
園山さんは頻繁にぼくのお弁当のおかずを自分のおかずと交換しているし、以前、ピオンモールに来たときは、食べきれなかったでっカルビ丼とぼくのうどんを交換したのだ。
しかし、結構言うのは恥ずかしい内容なので、ここはあえて黙っていよう。
「美優ちゃんたちは、何?デートに来たの?」
四十四田さんがニヤニヤ笑顔になりながら訊いてきた。
それまで怪訝な顔をしていた吉田さんが、顔を真っ赤にして答える。
「いえ、あの、助けていただいたお礼に、お昼をご馳走することになりまして。」
「そうなんだ!なんかあの時、カレ、格好良かったんだってね。」
四十四田さんまでそんなこと言い出すのか!
もう、余計なことを言って事態を面倒にするのも憚られるので、ぼくは何も言わずに黙って見ていた。
吉田さんはさらに真っ赤になって、
「その、はい。」
とだけ言うと黙ってしまった。
そして園山さんが、なんか、吉田さんを凝視しながらうどんを啜っている。すごい勢いだ。うどん、もう二口で無くなるんじゃないかという勢いで啜っている。それでも、かけつゆが飛び散らないあたり、もう園山さんだなと言うしかない。
そんな様子を見ていたら、四十四田さんがぼくたちに提案した。
「そうだ、せっかくだから、午後はみんなで遊ばない?」
なるほど、せっかく同じクラスのメンバーが揃ったし、親睦を兼ねてみんなで過ごそうということだな。別にぼくはいいけど、と思って吉田さんをみる。
吉田さんは、少し戸惑っているようだったが、
「そうですね、みんなで遊んだら楽しいですよね。」
と笑いながら答えた。
ーーーー
そして午後は四人でピオンモールを歩く、このピオンモール、わざわざバスで郊外に出てくるだけあってめちゃくちゃ広いし、色々な施設が充実している。
お店を見て歩くだけでもかなり時間が潰せるのだが、スポーツエリアがあるのがさらに魅力的だ。
こういった盛りだくさんのところが、学生たちの人気を集めていると言っても過言ではないだろう。
「それでなんでこうなった。」
ぼくはバトミントンのラケットを持って、コートに立っていた。
向かい側には園山さんと四十四田さん。
ぼくの横には、吉田さん。
みんなラケットを持っている。
「頑張りましょうね!」
吉田さんがそう言って、笑顔でガッツポーズをしてくれる。
なんか、今日の吉田さん、めちゃくちゃぼくに笑顔を見せてくれるんだけど、本当に男子高校生にそんな素敵な顔を頻繁に見せてはいけないと思います。
かと思ったら、向かい側の園山さんは、すごいいつもの無表情でこっちを見ている。と思うんだけど、なんだろうものすごい圧を感じる。いつにも増してぼくのことを凝視している気がするんだけど。どうなってんの?どういう感情?
「じゃ、行くよー。」
「おー。」
四十四田さんのサーブでバドミントンのダブルスが始まった。
まあ、こう学生のやるバドミントン、休日にやるそれなんてレクリエーションみたいなもんだよね、と和やかに進んでいくんだが、吉田さんの打ったシャトルが園山・四十四田チームのコート、絶妙に二人の間でカバーしにくいところに入った。
「やった!」
と笑顔になった吉田さんが手をあげて、ぼくの方にくる。あ、何?これ、ハイタッチか。そうか。あまりにも他人と関わることがなさすぎて何したらいいか分からなかった。
ぼくは、吉田さんとハイタッチした。
「やったね!この調子」
「はい!頑張ろうね」
吉田さんがそう言ってくれ……たところに目に飛び込んできたのがすごい雰囲気を出してる園山さんだ。
え、何、そんな悔しかったの?めちゃくちゃ吉田さんのこと見てる。表情はいつもの通りだよ?でも、何その呪詛みたいな視線は?あ、四十四田さんもやばい雰囲気出しすぎの園山さんを止めにかかってる。めちゃくちゃ美人である四十四田さんが、なんかあんまり人には見せられない焦り顔で止めてるよ。そんな顔させちゃダメだろ。
なんか、四十四田さんに言われてしょんぼりした雰囲気になっちゃったよ、園山さん。
いずれにしても……仲良くやってくれ。
その後も、ぼくたちはバドミントンを楽しんだ。
なんか、その後の園山さんの本気具合がめちゃくちゃで、垂直にジャンプしたかと思うと、コートにめちゃくちゃ刺さるスマッシュとか打ち込んできたんだけど……。
これ、レクリエーションだよね……。インターハイとかではなく。
それでも、点数が入るたびにぼくと吉田さんはハイタッチしたりもあって、始終、ぼくの心は揺さぶられっぱなしだった。吉田さんと園山さんの両方から……。
いい加減、遊び尽くしたところで、そろそろ帰ろうかということになった。
駅前に直通のバスにみんなで乗る。
ぼくと吉田さんは隣り合って座る。
「楽しかったね。」
ぼくはなんとなくそう吉田さんに言った。疲れもあったが、気だるげな雰囲気が、心地いい。
吉田さんも笑顔で、でもなんとなくアンニュイな雰囲気だ。
「はい、楽しかったです。お礼だったのに、楽しませてもらってなんか悪かったかな。」
「別に、お礼なんて良かったのに。でも、楽しんでもらえたら良かった。その、気になってたから。」
怪我も何もなかったとはいえ、精神的なショックがあっただろうとぼくは心配していた。笑顔で過ごす日を作ってあげられて良かったなと思ったのだ。
「その、ありがとうございます。」
吉田さんが言う。なんとなく照れくさくて、ぼくは顔を見られない。
「あ、到着したみたい。」
バスは駅前のロータリーに吸い込まれていく。ぼくたちは、バスから降りた。
吉田さんは四十四田さんと家の方向が同じだから、と言って二人で帰って行った。
ぼくと園山さんは二人で取り残される。
「じゃあ、帰ろっか。」
「ええ、そうですね。」
園山さんが答える。今日みた中で一番、落ち着いた雰囲気を感じる。
二人で歩きながら、ぼくはなんとなく今日のことを思い出していた。
吉田さんと二人でお店を見て、ゲーセンへ行って……。
そんなところに園山さんがぼくの顔を覗き込んでいるのに気がつく。
「楽しかったですか。」
園山さんから話しかけてくるって、珍しいかな。
「そうだね、楽しかったよ。」
「吉田さんといたからですか。」
「まあ、そうだけど、みんなで遊べたじゃない。それが楽しいなって。ほら、ぼくって友達がいないだろ。だから、こうやって過ごすことってなかったから。」
「そうですか。じゃあ、良かったです。」
園山さんが、歩きながらそう言う。
ぼくも園山さんの横を歩きながら、楽しかった今日のことをしみじみ感じる。
ふと、園山さんが、早歩きになってぼくの前にでた。
ぼくは止まって、その様子をみる。
園山さんは、ぼくの目をいつものようにじっと射すくめると、戸惑いがちにこういう。
「また、出かけましょうね。」
いつもの無表情ではない、何かを期待するような、そんな笑顔で言われたら。
まだ心の中にいる君に言われたら。
ぼくの心は平静ではいられない。
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