第20話(裏)
「おはようございます。」
「おはよう……。」
朝、8時、駅前広場でその美少女は待っていた。
背筋の伸びたその姿、女子にしては少し高めの身長、そして何よりバランスの取れたプロポーション。
その上、おめめぱっちりの美人ときてらあ。私だって、そんなに悪い見た目じゃないけど、この子の前に出ると里芋も同然だ。
しかし、その美少女こそ私の友人、
「こんな早くなくて良かったんじゃない……?」
「絶対に見逃したくないので。」
そして、そんな園山風香ちゃんは、最近仲良くなったカレが、同じクラスの
どうしても行くと、ついていって見届けるといって聞かない上に、私がついていくことになった。
なんでぇ……?
風香ちゃんはモテる。
というか、その美貌のためにひっきりなしに学校中の男子生徒から告白されている。
噂では80人くらいの告白をすべて断ったとか。
男子生徒に対するパーセンテージにすると……ちょっと考えたくない。やめておこう。
カレはそんな風香ちゃんに告白した男子生徒の一人だ。もちろん、風香ちゃんは告白を断っている。
だから……そんなカレのことを気にする必要はまったくないのだ。本当は。
そんなカレは美優ちゃんが暴力を振るわれそうになっているところに割って入って、彼女のことを助けたらしい。
私が見たのはもうすべてが終わって怪我をして保健室に運ばれていくカレだけ。
美優ちゃんも学校を1日だけ休んだけど、次の登校日、ちゃんと出席していた。
どころか、すぐに私のところに来てこういったのだ。
「ねえ、
そして、カレと美優ちゃんが話せるようにしてあげて、美優ちゃんとカレが出かける約束をして……。
あれ、これってやっぱり、ついていっちゃダメなヤツじゃん?
「やっぱりついてっちゃダメだよ、風香ちゃん。」
「いえ、もうここまで来たら引き返せません。」
引き返す気、ゼロでしょ。考慮すらしてないもん。
何がそんなに彼女を突き動かしているの……。
そして……。
「そして、何その格好!隠れて追いかける気ゼロでしょ!なんでそんなバッチリ決めちゃってるの!めちゃくちゃ目立ってる!」
そう、風香ちゃん、めちゃくちゃファッションをキメてきてるのだ。
腰のところで締まったフレアスカートは、少しタイトめのニーハイソックスと相性抜群。
ハイカットスニーカーはすこしミニ気味のスカートともバッチリ合ってる。
そして、しっかり身体にフィットしたミニTの上には、腰よりも上でカットされたキュートなスクールっぽいジャケット。
肩から脇に降りているチェーンもアクセントになっていていい感じだ。
ミニTだけだとちょっと過激すぎるけど、ジャケットがうまくコーデを取りまとめている。
ちょっとしたアイドルのステージ衣装みたいだ……。
しかし、これから行くのは隠密ミッションなんでしょ?
なんで、そんな、彼氏に褒めてほしくてめちゃくちゃ頑張りました、もしくは一緒にくる女の子にマウント取るようなファッションにしちゃったの。
「ぶい。」
「褒めてるんじゃないからね!」
もう、どうしようもないので、私達は広場を見張ることのできるデッキに移動して、美優ちゃんたちが来るのを待つ。
風香ちゃんはもうさっきからずっと落ち着かない。
「来ました。」
見ると、カレが来た。黒いスキニージーンズに、Tシャツ。上にはドレスシャツを羽織っている。ボタンは止めないでいるので、すこしジャケットっぽい着こなしだ。
しかし、Tシャツ以外真っ黒だな。
そんなカレが来たすぐあと、美優ちゃんが小走りでやってくる。可愛いな動きだな。あんな可愛いの見たこと無いぞ私と遊んでるときも。
美優ちゃんもワンピースとカーディガンでめちゃくちゃ気合が入ってる。
あんな気合はいったファッション見たこと無いぞ。
「すごい、可愛いですね、吉田さん。」
あ、風香ちゃんがなんかすごいハラハラした雰囲気でこっち見てる。
「いや、まあ、お礼しにいくんだから、ジャージとかで来たりしないでしょ。」
そんなコメントくらいしか出せないよ!どうしたらいいの!
昨日から思ってたけど、どうしちゃったの風香ちゃん!
「バスに乗るようです。行きましょう。」
「あれは、ピオンモールに行くバスだね。あ、待って!尾行してるのに同じバスに乗っちゃダメでしょ!」
スタスタとバスに乗り込もうとする風香ちゃんを止める。
この子、大丈夫かな?なんか色々と分からなくなってるかな?
風香ちゃんを引き留めて、私達は別の路線バスに乗り込んだ。直通バスよりはちょっと遅れるけど、同じバスに乗って見つかるよりマシだ。てか、なんでこんな隠れてるの?よくない?もう。
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さて、ピオンモールにたどり着いたところで、二人を探さないといけない。
風香ちゃんはもう、なんかすごい勢いでモールに入ろうとしてる。
「まってまってまって!そんな全力全開で入っていって探したら見つかっちゃうよ!」
「そうでした、いけないいけない。」
いけないいけないじゃないよ!そう言いながらももうソワソワして仕方ないようだ。
「大丈夫だよ、この中にいることは間違いないんだから。」
「でも、もうどこかに行ってしまうかも。」
「心配しすぎだよ。ゆっくり探そ?」
「でも。」
ええい、もう!大丈夫だから!そのバッチリファッションでモールを練り歩いて、カレにアピールする気か?!
隠れている気ゼロか!?ちょっとそんな雰囲気あるな!?
私達は、変にならない程度に隠れながら店内を見て回る。
スーパーマーケットとかには行かないはずだしということで専門店エリアを見ていたら、美優ちゃんたちを見つけた。
動物のキャラクターグッズ中心のファンシーな雑貨がいっぱいあるお店だ。
美優ちゃん、このキャラクター好きだったな、そういえば。
なんか、二人で話しながら店内を見て回ってるみたい。
私達は通路を挟んで向かい側にある駄菓子屋さんに不自然じゃないように歩きながらいる。
そして、風香ちゃんは私の腕を掴んでいる。
なんで?逃げないよ?
「なんか近くないですか、二人。あれは、近くないですか。」
「いや、別に普通でしょ。あれで距離取って話してたら周りに迷惑になっちゃうよ。」
「なんか、顔を寄せ合ってないですか、近くないですか。」
「いや、なんか同じヤツみてるから、そう見えるだけで、アイタタタ、痛い痛い!
お店を出た二人は、ゆっくりとピオンモールの中を歩き始めた。
ウィンドウショッピングをするようだな。
風香ちゃんはすごい目で二人を見ながらゆっくりと後をつけていく。
私はさっきから風香ちゃんに手を引っ張られて歩いている。大丈夫!逃げないから!大丈夫だから!
二人はゲームセンターに入っていったようだ。
ゲームセンターにたどり着いたところを見た風香ちゃんはさっきにもまして挙動不審になっている。
「どうしたの風香ちゃん。」
「い、いえ、あの、二人がゲームセンターに入ったようです。」
「そうだね。私達も行こうか。」
「げ、ゲームセンターに……吉田さんを……。」
「大丈夫、風香ちゃん?なんか祠を壊された村長さんみたいな顔になってるよ。」
そんなシチュエーション見たこと無いけど。
「ゲームセンター……。」
「あれ、風香ちゃん!隠れて!そんな堂々と入ってかないで!」
風香ちゃんを押さえながら私達も入っていく。
二人はプリクラコーナーに行ったようだ。あ、美優ちゃんがカレの手を引いている。
大胆だね……なんか盛り上がってきたね!って思って風香ちゃんを見ると、なんか、この世の終わりみたいな顔をしていた。
いや、表情はいつもの通りだったんだけど。顔色もなんか青くなってるし……。
「大丈夫、風香ちゃん?」
「え、ええ、大丈夫です。」
絶対大丈夫じゃないよ。
「でも、美優ちゃんも随分とカレのことを気に入ったみたいだね。」
「え、ええ、大丈夫です。」
「ピンチのところを助けたられたって言ってたからねえ、そりゃ、気になっちゃうよね。」
「え、ええ、大丈夫です。」
全然大丈夫じゃない。さっきから同じところをリピートしてるよ。
あ、二人が出てきた。プリのシールを切ってるみたい。なんか、美優ちゃんすごい笑顔だし、めちゃくちゃ可愛くなってる。
いや、美優ちゃんは可愛い。すごい可愛いんだよ。ただ、今年は風香ちゃんが同じ学年にいるし、その、申し訳ないけど私もいて、みんな系統は違うんだけど、目立つ子が多い。
だから美優ちゃんも数は少ないとはいえ、結構、告白をよくされていて困ってたみたい。まあ、そんなところを助けられたら、コロっといっちゃうか……。
お、二人はクレーンゲームを見てるね。
デートの定番といえば、クレーンゲームだしね、と思っていたら、また風香ちゃんが腕を掴んでる。
ちょ、痛い痛い痛い!緩めて!もっと優しくしていこう、私に!
「クレーンゲーム、してます。」
「そ、そうだね、ゲームセンターだし。」
「あ、なんか、ぬいぐるみを取りました。」
「そうだね、カレ、ゲーム上手いね。」
「……吉田さんに、ぬいぐるみをあげてます。」
「カレ、優しいねえ。美優ちゃんのためにやってあげたのかな、って痛い!めちゃくちゃ力入ってる!もげる!前腕部がもげる!」
なんか、二人の様子をみた風香ちゃんが、すごい落ち込んでる。
いや、表情はいつもと変わらないんだけど、なんかそんな雰囲気なんだよね。
とかって言ってたら、二人はゲームセンターを出ていった。
「あ、行っちゃうよ。追いかけないと!」
「! 行きましょう。」
風香ちゃんが移動しはじめた。
だから痛い!腕をつかみっぱなしで歩かないで!!
私達はフードコートへ向かった。
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