第20話 (表)
「ごめん、待ちましたか。」
「いや、時間通りだよ。」
ちょっと小走りで吉田さんが待ち合わせ場所に来た。
吉田さんがどうしてもお礼がしたいと言うので二人で出かけることになった。
なんでも、お昼ゴハンをごちそうしてくれるらしい。なにもお礼なんてしてくれなくても良いんだけどと何度か言ったが、どうしてもと押し切られてしまった。
まあ、そうは言っても、食事について助けてもらうと生活に潤いがでて大変助かる。
駅前広場の待ち合わせに関しても、時間を守ってくれれば、ナンパ野郎が絡んでくるってこともないし、今回は快適そのものだ。
「じゃあ、行きましょうか。」
「わかった。バスだね。」
「はい。バスも直通で行けるから便利ですよね。」
「そうだね。時間によっては混むんだけど。乗り降りがないから楽だよ。」
そんなことを言いながら、バスに乗ってピオンモールへ行く。
まあ、このあたりは……ピオンモールに行けば大抵の問題は解決するから、住民はみなピオンモールに行きがちなのだ。
「ピオンにはよく行くの?」
「そうですね、
「そうだなあ、たしかに……。」
あ、そういえば。
今日の吉田さんは、ライトブルーのワンピースに白いカーディガンだ。薄いピンクのショルダーバッグを合わせている。
「そういえば、今日の服も可愛いね。」
「え、あ、ありがとうございます……。」
あれ、なんか黙っちゃった。なんか変なこと言ったかな……。可愛いっていうのもセクハラになるってこともある世の中だからな。
前に街であったときの服はもうちょっとアクティブな印象のコーディネートだったから、今回は可愛いに寄せたのかなと思ったけど。
そんなことを話していたらピオンモールに到着した。
二人でピオンモールの中に入る。ああ、涼しい……。そろそろ夏になるからか、エアコンが効いているようだ。
いや、吉田さん、寒くないかな。
「吉田さん、寒くない?大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です。」
まあ、良かった。その……女性はなにかと冷えることがあって大変らしいから、気をつけないといけない。
さて、お昼をおごってもらえると言ってもまだ時間があるようだな。
「時間があるみたいだし、吉田さんの見たいところがあればそこに行こうよ。」
「そ、そうですね。じゃあ、雑貨を見に行きませんか。」
「いいよ。」
「じゃあ、二階なので、行きましょう。」
一人で来ても、雑貨なんか見たことなかったなと思いながら移動する。
ところで迷子にならない同行者がいるって、なんか新鮮だな……。
案内された雑貨店は、動物キャラクターが中心のものすごい可愛い雰囲気のお店だった。
そりゃ、ぼく一人では入らないような店だわ。知るわけがない。
「へー、可愛いね。」
「へ、あ、その、ありがとうござい、ます。」
ん、なんか、伝わり具合がぼくの考えていたのと違う気がするが。
まあ、いいか。
「吉田さんはよく来るの?このお店。」
「結構来ますよ。可愛い文房具とかも買えるので、時々新しいものがないかチェックしたり。」
「へー。確かに可愛い……ぼくには合わないけど。」
「そんなことないんじゃないですか、ほら、こんなのとか。」
そう言って、吉田さんはうさぎの耳がついた帽子をぼくに見せてくれた。
いやあ、ぼくみたいな男には似合わないと思うな……。
「そういう可愛いのは、吉田さんの方が似合うよ。」
「そ、そうですか。あなたも可愛い系のものも合うと思いますよ。」
「そうかなあ……。」
こういうのはむさ苦しい男には合わない気がする。
しかし……ぼくは別に必要ではないが、こういうものを売っている店を知っているだけでも使いみちはあるかもな。
……そのプレゼントとか。
あるか……?これだけ、女性と縁がないのに……?
「あ、他になにかみたいものありますか?」
「そうだな、ちょっとブラブラ歩いてみない?」
「いいですね、ゆっくりフードコートに行ったら、ちょうどお昼くらいですしね。」
ウィンドウショッピングもまあ嫌いじゃない。ピオンモールはお店が多いしな。
二人でゆっくり歩きながら店を冷やかして歩く。
「ピオンモールになんとなく慣れてる感じですね。」
「いや、頻繁には来ないけど……。バス代もかかるしね。友人と遊ぶときにくるくらいかな。」
「その例えば……園山さんとか?」
「ぶっ!」
突然、園山さんのことを言われたのでびっくりしてしまった。
来たこと……あったね……。
「う、うん、一回だけ来たことがあるよ。」
「へぇー……そうなんですね……。」
あれ、なんか怒ってらっしゃる?なんで?
「園山さんが、ゲームセンターに行ってみたいって言うから、案内したんだよ。」
「そうですか……。じゃあ!行きましょう!ゲームセンター!!」
え、ゲームセンター行くの?
そんなこと考えてなかったな。まあいいんだけど。
ゲームセンターは今日も元気に営業中です。にぎやかだなあっていうかうるせえ。
まあ、そこがゲームセンターの良いところでもある。
「何度来てもにぎやかですね!」
吉田さんがなんか嬉しそうに言う。
「吉田さんはゲームセンターによく来るの?」
「あー、あんまり来ないですけど、掠さんと遊びにきたときには、プリとか撮ったり。」
「ああ、なるほどね。」
プリクラね。男一人では全く縁がない機械だよ、あれは。
第一、プリクラコーナーには男性だけで立ち入りできないからね。
いや、立ち入りできてもしないけど。怖いだろだって、一人でプリクラ撮ってる男性がいたら。
「せっかくだから、プリとろっか!」
「え、とろっか?」
トロッカ?トロツキー?トロツキスト??
なんで、ロシアの話し……?
「よし!じゃあ行きましょう!」
なんか元気になった吉田さんがぼくの手を掴むと、プリクラコーナーに引っ張って行った。
え、プリクラ。プリを撮るのね、撮影ね。
「ほら、笑顔笑顔!」
ち、近い!なんかいい香りする!
年頃の娘さんが男に近づいちゃだめ!危ないから!!恋のテロリスト!!
「ふふ、面白い顔してるよ。じゃあ分けよう。」
なんか笑ってるような困ってるような顔をしてるぼくの横で満面の笑顔でめちゃくちゃ可愛い吉田さんが写ってる。
吉田さんはハサミで切ってぼくに分けてくれた。
わあ、ありがとう。嬉しいよ、多分……。
その後、ゲームセンターの中を見て歩く、クレーンゲームの前に来た吉田さんが景品を指差しながら言う。
「見て、あのサメ、なんか可愛いね。」
「サメ?ああ、ぬいぐるみなんだ。でも珍しいね、サメって……。」
「なんか、こういうのが流行ってるのかな。」
「どうだろう、海洋生物のオタク狙いじゃない。」
「いないよ、そんなの。」
そう言ってぼくに笑顔を向けてくれる。
いけない!若い娘さんが!そんなに良い笑顔を男に見せては!勘違いする!
「ちょっとやってみようか。」
「え、いいよ、そんな。」
「まあ、ものは試しだから。」
ぼくは500円硬貨をクレーンゲームに投入してみる。
何度かひっかけて動かして……なんかうまいこと落とすことができたな。
「すごい!上手なんだね!」
「いや、たまたま。本当に運が良かっただけだよ。はい。」
「え、わ、悪いよ。」
「ぼくもこれは可愛すぎてうちにあっても困るから、吉田さんがもらってくれると嬉しいな。」
「あ、ありがとう。大切にするね。」
まあ、クレーンゲームってやると結構面白いよな。
景品は別にほしくないけど、やりたいときもある。
そんなことを考えながらふと見てみると、あたりめが並んでいるのが見えた。
フフ。
ちょっとだけ笑いが漏れる。
「そろそろ、お昼ご飯を食べに行かない?」
「うん!行こう!」
なんか、最初のときはもっと硬かった吉田さんも楽しそうに笑っている。
良かったな。
あんな目に遭ったから、ちょっと心配していたのだ。
そんなことを思いながら、フードコートへ行くために歩き始めた。
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