第12話
「ーーーーーー。」
ある日の休み時間、渡り廊下を歩いていると、なにやら聞こえてきた。
ちなみに渡り廊下には飲み物の自動販売機があり、ここで売られているバナナ・オレはぼくのお気に入りです。
「ゴメンね、えーと、C組の田中くんだったよね。私、今はそういうの考えてないんだあ。地理で同じクラスだったよね。ゴメンね、ありがとうね。」
そう聞こえてきたら、C組の田中が渡り廊下の方に歩いてきて、校舎へと戻っていった。
なんとなくそれを見ていたら、次に四十四田さんが渡り廊下の方に歩いてくる。
「お、キミか。なんか気まずいところ見られちゃったな。」
「いや、別に……。えっと、大体、告白を断られたら、気まずくなるよね。」
「まあ、たいていの場合、そうなんじゃないの?」
アハハと四十四田さんが苦笑する。
なんか、最近、告白はフラレたとしても、一緒にお昼を食べたり、出かけたりするのが普通になっていて、もしかしてぼくの感覚がおかしいのではと思っていたのだ。
ぼくだけではないようなので良かった。
「じゃあ、教室に戻ろっか。」
「……そうだね、そうしよう。」
やっぱりフッた人と教室に戻ることになるのか……。
------
「いやあ、なんかタイミングが悪いところをお見せしまして。」
教室で陽田とぼく、四十四田さんと園山さんが話している。
もう、なんかこの四人でいることも違和感がなくなってきた。深く考えるだけ無駄だ。
「四十四田さんも、すごく魅力的な人だから、しょっちゅう告白されて大変でしょ。」
ぼくが訊くと四十四田さんも困ったような笑顔になった。
「そうだね、結構大変なんだ、お昼ご飯を食べられないときとかもあったし。」
「そう考えると、二人まとめて断るのは合理的かもな。」
陽田が余計なことを言う。
まあ、実はぼくもちょっと思った。モテる人はそれはそれで苦労があるんだなということか。
「無用なトラブルを避けるためにも、人通りがそれなりにある場所で告白は受けるべきかも。」
ぼくは適当に思いつきで言った。
まあ待ってほしい、ふざけている訳じゃない。この前の津志田のときみたいに、暴力や腕力に訴えてくるヤツがいないとも限らないと思ったからだ。
四十四田さんは、随分と上手に断っていたなと思ったが、この先どんな人が現れるかわからないからな。
「そうだな、暴力に対する備えってのは必要だな。」
「まあ、学校の中だから、先生とかもいるし。」
「いや、あらかじめ準備しておくことが大事じゃないか。」
このモードになった陽田はヤバイ。なんかとんでもないことを言い出しそうな気がする。
「四十四田さんも、やっておくか?告白パターン練習。」
「告白パターン練習?」
「そうだ、告白を受けたときに次にどんなことがあるかわからない。それにあらかじめ備えておく練習だ。」
そうだっけ……?なんか前は告白したときに助けに来てくれる人がいないからとかって理由じゃなかったか?
「なんだか面白そうだね。」
ノリがいいな。四十四田さんは友人を大切にするタイプのようだ。
ただ、大切にしていい友人とそうではない友人がいる気がする。
陽田は決して大切にしておくべき友人ではない気がするぞ。
「じゃあ、告白するのはオマエだとして。」
「待って、ぼくの意思は関係なしなの?もう決定なんだ?!」
「オマエしかいないだろ。」
ええ……そう……?
「よし、じゃあ、早速、校舎裏へ行こうぜ。」
「オー!」
「……行くなら早くしてください。」
今回は園山さん関係ない気がするけど、行くんだ。まあいいか……。
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そんなわけでいつもの校舎裏だ。
四十四田さんとぼくが対峙して立つ、距離はちょうど2メートル離れているくらいか……。
「よし、じゃあ始めようぜ。告白、やってくれ。」
「そんな、ラーメンいっちょうみたいな感じで告白させるってことある……?」
なんか四十四田さんはニコニコしながらこっちを見てるし、園山さんは……いつもの無表情だ。
なんだかんだ言ってここまで来てしまったぼくの落ち度もある。
仕方ない、付き合ってやるか。
「四十四田さん、その……おしゃれで明るくて、友達思いなところが好きになりました!ぼくと付き合ってください!」
「……私のときより長くなってないですか。」
ええやろ、毎回同じだと練習にならんだろ。
「ええー、そうなのぉ?どうしよっかなあー!悩んじゃうな!」
四十四田さんがしなを作りながらそう答える。
なんか、段取りと違うんじゃないか?
これ、断ったところを逆上して迫るパターンじゃないの?なんで悩んじゃった?
思春期だから?若きウェルテル的な?
おい、ディレクター、助けてくれと陽田の方を見てアイコンタクトを送る。
ぼくと目があった陽田が頷いている。
通じた!
「よし、そこで襲いかかる。」
何も通じてねえーーーー!!
前のときと要素が変わっちゃってるじゃん!
断られたところに無理やり襲いかかるんでしょう!なんかここで迫ったら文脈が変わっちゃうじゃん!!
しかし、「早くやれよ。」という目で陽田が見てきていた。
くそ、役立たずめ!
「お、おとなしく付き合うんだよ!」
ぼくはお決まりのセリフとともに四十四田さんとの距離を詰めた。
四十四田さんの手を掴む。
「思ったより情熱的なんだね……。フフ、ドキドキしちゃうな。」
四十四田さんがそう言うと、ぼくの腕を掴んで抱きしめてきた。
ち、近い!いいにおいする!
ダメ!男の子にそんなに密着しちゃ!
「やめて、嫌がってる。」
そ、園山さん!
なんか極めてローテンションのままこの場に割り込んできた!
ただ、まあ誰も嫌がってない気がする!あえて言うなら四十四田さんが嫌がるべきなんだけど!
「な、なんだお前、z」
「かすりちゃん、ダメ。」
園山さんはぼくと四十四田さんとの間に入って、ぎゅうぎゅうと腕をひっぱり始めた。
あいたたたた、痛い!ぼくのこと大切につかって!
丁寧に扱えばあと40年は使えるから!!
「ええ、でも風香ちゃん、付き合わないって言ってカレのこと振ったんでしょう。」
「そ、そうだけど、ダメ。」
珍しく焦りの表情を見せた園山さんが、相変わらずぼくと四十四田さんを引き剥がしてる。
四十四田さんは余裕の表情で、ニヤニヤしてぼくたちを見ていた。
「しょうがないなあ、じゃあはなしてあげるよ。」
四十四田さんがぼくの腕を離してくれて、園山さんとぼくは四十四田さんから離れる。
四十四田さんは、くすっと笑って、笑顔になる。
「そうだなあ、お付き合いねえ……。」
あ、ぼくの告白がまだ生きてる感じなのね。
「お断りしますッ!!!」
園山さんが四十四田さんにお断りしていた。
ぼくがお断りするんじゃないんだ。
いや、この場合、お断りするのは四十四田さんだろ。
どさくさに紛れてお断りした園山さんが、ぼくの手をぎゅっと握った。
さっき、ひっぱったときに手を持ってたから……。
「じゃあ、しょうがないね。お付き合いはできないよ。」
四十四田さんはニヤニヤ笑いでそう言った。
なんだこれ、結局なんの練習になったんだ。
これどうすんだよ、ディレクションしてくれ、と思って陽田の方を見た。
「あ、終わった?じゃあ休み時間も終わるから帰ろうぜ。」
おまえキッカケで始まった練習だろ……!
結局、教室に戻るまで園山さんはぼくの手を離してくれなかった。
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