第8話

波乱の(波乱の?)体育祭が終わり、また日常が戻ってきた。

中間テストが終わったら、その次は……期末テスト……?

いや、まだなんかあった気がするが、特に印象に残ってないな。


いずれにしても授業を聞き、お昼ゴハンを食べ、放課後にだべって帰る日々だ。

何事もなく夏休みになるかなと考えながら、渡り廊下を歩いていると、どこからか声が聞こえてくる。

あたりを見ると、校舎の裏手の方に園山さんの姿が見えた。

なんとなく悪い気もしたが、気になってしまい、こっそりと見に行ってみる。


「園山は、誰かと付き合ってるのか?」

「いいえ、誰ともお付き合いはしておりません。」


あれは、テニス部のエースと言われる2年生の津志田つしだ たかしだな。

めちゃくちゃなイケメンで、部活の時間になるとファンがテニスコートに押し寄せ、応援しているという。

なんでも、同級生のカノジョがいるって噂だったけど……。


「そうか、その、園山、俺と付き合ってくれないか。おまえのことが好きになったんだ。」


ああ、なるほど……。

体育祭の一件があり、園山さんへ告白する人は一時的に少なくなっていたが、また段々と増えてきたらしい。

この高校きってのイケメンと言われる津志田だと、園山さんもオッケーしてしまうんじゃないかとぼくは心配になる。

別に誰と付き合うことになったとしても、園山さんの自由なのだけれど。

でも、ぼくの心の中には色濃いモヤモヤがたちこめていた。

なんか、絶妙に離れにくくなってしまった。それに今動くと見つかってしまうかも知れない。


「お付き合いですか、そうですね。」

「付き合ってくれるか?」

「いいえ、お断りいたします。」


園山さんはいつもの調子で告白を断っている。

この学校の女子生徒なら誰でも手に入れたいと思っている津志田のカノジョの座をいとも簡単に蹴り飛ばしてしまった。


「どうしてもだめか?」

「はい。」

「俺は、自分で言うのもなんだが、女子生徒からの人気も厚い。そんな俺のカノジョになれるんだぞ。」


ええ……自分で言っちゃうそれ……。

ぼくは若干引いた。


「はい、興味ありません。」


本当に興味なさそうだ……。

ていうか、何に興味があるのか、いまいちわからないことの方が多いけどな。


「お試しでもいいんだ、俺と付き合えば、良さがわかると思うんだ。」


津志田はへこたれない。

結構、ガッツのあるナンパ野郎が多いな、この世の中。

そう言いながら、津志田は園山さんに近づいて行く。

あっ、危ない!

津志田は園山さんの手首をつかもうと、手をのばした!


「があああ!」


それを見た園山さんはすかさず、津志田の腕をねじり上げた!

アームロックだ!

ぼくは物陰から飛び出さざるをえなかった。


「それ以上いけない!!」


園山さんはいつもの無表情ながら、なぜこんなところにという困惑の雰囲気を出している。

津志田も、誰かいるとは思わず、痛みに顔を歪めながらも、驚きの表情をした。


「いて、痛い!痛いって!」

「やめなよ、嫌がってるだろ。」


あまりにもとんでもない状況に、止めに入ってはみたものの。

ぼくも、もう誰に向けていってるのかわからない。


「ち、ヒーロー気取りかよ。」


園山さんがまた同じセリフを言う。パターン増やせ。


「は、早く助けてくれ。」


津志田が、この状況では極めて情けないセリフを吐き出した。


「命拾いしたな。」


いつもの無表情でそう言って、園山さんが津志田を開放した。

怖すぎるだろ。この場面で、そのセリフは。


「大丈夫ですか?」


別に津志田に対してはなんの思い入れもないが、ちょっとかわいそうなので声をかけた。


「あ、ありがとう、助かったよ。」


これ、実力行使にでたナンパ野郎が言うべきセリフ?

なんか、違うんじゃない?

見ようによってはめちゃくちゃ格好悪いからね、津志田先輩。


「とりあえず、先輩は早く教室へ戻ってください。」

「あ、ああ、ありがとう、じゃあな。」


津志田はなんか怯えた目をして教室へと戻っていった。

怯える気持ちはわかるよ、でもちょっと女の子を腕力で言うこと聞かそうとするのはよくわかんねえな。


「ちゃんと練習どおりにできました。」


園山さんは、いつもの無表情でピースサインを出している。

なんとなく褒めて褒めてという雰囲気を醸し出しているな。


「ええと……アームロックはやりすぎじゃないかな。」


網羅的にやっといて良かったね、告白のパターンというべきなのか?


「じゃあ、教室に戻りましょうか。」


園山さんは今までこの場で起きていたことなんてお構いなしにぼくを誘って教室へ戻ろうとしている。

ある意味で、まったくブレない園山さんのことはちょっと羨ましい。


------------


教室へ戻ると、四十四田さんが待っていた。


「お、キミも一緒だったの。それでどうだった、風香ちゃん。誰が来たの?」


告白の呼び出しのことを四十四田さんにも教えていたのか。

園山さんはピースサインを出して、なんか褒めて褒めてモードになっていた。


「あの、津志田先輩でしたよ。二年生の。」

「え、あのテニス部エースでめちゃくちゃ告白されてるイケメンの!?」

「はい、そのイケメンです。」


そして園山さんがピースサインしかしてないから何故かぼくが答えてるんだけど。


「それで?付き合うことにした?」

「いえ、なんか、津志田先輩が園山さんに迫ってきたので、アームロックキメてました。」

「アームロック?キミが!?」

「いえ、園山さんが。」


またも信じられないものを見るような目で四十四田さんが園山さんを見た。

園山さんは得意満面だ。あくまで雰囲気だけだけど。


「練習のかいがあった。」

「ぼくの告白を断る際の練習につかうな!!」


しかも、やるつもりもない暴力までやらされたんだぞ。


-------------


次の日、津志田がぼくのクラスに現れた。

ぼくのクラスには園山さんがいる。

また、なんか園山さんにちょっかい出す気なんだろうか。

クラスを覗き込んでキョロキョロしてると思ったら、ぼくと目があった。

なぜか、呼び出されて廊下までいってみる。


「その、昨日はサンキューな。」

「いえ、その、腕は大丈夫ですか。」

「あ、ああ。なんともない。」

「そうですか、その、誰かを好きになるとか、告白するのとかは良いと思うんですが、無理やり迫ったりするのはやめたほうがいいですよ。」

「そうだな、俺も反省した。」


よかった。園山さんのやったことは無茶苦茶だったけど、世の中から強行ナンパ野郎を一人減らしたらしい。

話は終わったかと思ったが、津志田はまだそこにいた。


「そ、その、よかったら今日、一緒に帰らないか。」


なんでだよ。


「い、いや、助けてもらったお礼でも。」


ちょっと待って。なんかおかしくない?

もちろん暴力を振るうのは良くないよ。

しかし、過剰防衛になりそうなところを止めただけだよ。

なんでちょっと赤くなってんの?

ちがうんじゃない?

だからぼくは答えた。


「いえ、お断りします。」

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